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待ち遠しい春。
ハートが五個繋がっている花。
桜はそう言う花だと思っていた。
風に舞うその花弁をつかまえられたら恋が叶う。
小学生の頃、運動場の隅の桜の木の下でそんな遊びをしていた。
大人に近づく今では、しなくなってしまった女の子らしい遊び。
城下の庭。
少し不規則に並んだ桜の木々は、陽の光を浴びて淡い色に輝いていた。
その下で、大学生らしきグループや家族連れ、老夫婦なんかがお花見に興じている。
その様子に目をやりながら、薄く生えた芝の上を歩いた。
どこかで高く鳴いている鳥の名前はなんだろう。
鳴き声の主を探して、空の方へと視線を動かすと、何かが目の前をふっと落下していくのが見えた。
ゆっくりと、目と鼻の先をだ。
虫だかなんだか知らないが、そこそこの大きさをしていた塊の正体が気になり、立ち止まって足元に視線をやる。
すぐに、目に留まったのは桜の花。
花弁でもなく、花ひとつでもなく、ひと枝。
決して大きくはないが、いくつもの花をつけた枝先が、そこに落ちていた。
鳥が啄んで脆くなっていたのか、雨風にやられたのかはわからないけれど。
なにかがこの桜の木に棲んでいて、わざと私の目の前に桜の一欠片を落としたのなら。
そんな風に考えると、何気ない日常が少し色づく気がした。
腰をかがめてそれを拾い上げると、枝先の花が風にさわさわと揺れた。
このまま持ち帰るのもなんだか違う気がして。
木の幹から生え出た枝の付け根に、そっとそれをかえした。
家で花瓶に挿したとして、この花たちが何日もつかもわからない。
ひとつ、またひとつとテーブルの上に落ちていく花を見るのは、酷く寂しい。
やがて朽ちるなら、ともにこの場所で。
雨に解けて土に還る、陽の光のもとで。