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tomekantyou1
一生、母の味方で居ようと誓った話(1)
11月の北関東。
木造二階建の戸建。
深夜2時。
その体の震えが、寒さによるものでは無いことは、
幼いながらに分かっていた。
1階で、父と母の言い合いの声がする。
リコン、と、
聞きたくない単語が、階段越しに響く。
体の震えが止まらない。
あまり鮮明に聞こえなかったので、
聞き間違えかもしれない、と、
そろりと、音を立てないように階段を降りた。
声が大きくなっていく。
やめた方がいいと分かっていながらも、
声のする方に引き寄せられていた。
話していた内容は、
父の浮気の話みたいだった。
父は、料理上手な女性の部下に、
よく料理を作って貰っていた。
作って貰っては、うちに持ち帰ってきていたので、
その部下の手料理が
夕飯の食卓に並ぶことも、ざらにあった。
母は、料理上手とは言えない腕だったが、
それでも普通にご飯を作ってくれていた。
その部下は、確かに料理上手だったが、
私は、
「母以外の大人の女性の料理を食べること」に、
得体の知れない違和感を感じていた。
その部下が作ってきた、
具だくさんのお稲荷さんを頬張る父が、
おいしい、おいしいと
母の料理では見せないような笑顔で、
何度も呟いているのを見て、
ああ、父は、その部下のことを気に入っているのだろう
と、感じ取ることが出来た。
母は、どんな気持ちで
その部下が作ってきた料理を食べていたのだろう。
※(2)に続く