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花火 〜川嶋あい 最後の820〜
2023年8月20日。天気、晴れ。
川嶋あいさんが毎年8月20日に行っているワンマンライブのラスト公演が、LINE CUBE SHIBUYA(旧・渋谷公会堂。以下、渋谷公会堂と表記)で開催されました。
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あいさんにとって大切な日である8月20日に行われることが恒例となっており、ファンからも「820」と呼ばれ愛されてきた公演。
会場の渋谷公会堂は、あいさんが路上ライブを始めた頃に目標としていた場所で、この会場でほぼ毎年“820”が開催されていたこともあって、あいさんファンにとっての聖地です。
川嶋あいさんは2022年に声帯の手術を受けられましたが、思うように回復せず、今年で“820”にピリオドを打つことを決断されました。
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僕が音楽好きになる原点となった川嶋あいさん。
この発表を目にしたときは正直ショックでした。
嘘だといいな、そう思いました。
声帯の手術が成功したと聞いていたので、これから少しずつ善くなっていくものだと勝手に思い込んでいました。820は当たり前のように続いていくものだとファンの皆さんもきっと思っていたはず。
「当たり前なんてないんだ」と思い知らされました。
「今年の820がラストになる」と発表された5月26日からずっと、8月20日を迎えるのが怖かったです。
その日になったら終わってしまうから。
それでも「何歌ってくれるのかな?」って純粋にライブを楽しみにしている自分もいたりして。
心の整理がつかないままお手紙を書き、当日を迎え、渋谷に向かいました。
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物販に並んだり衣装展示を眺めたりしていたので現地では見られませんでしたが、ライブ当日に僕のメッセージが渋谷の大型ビジョンに流れました。
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超満員の渋谷公会堂。
ラストということもあり、開演前から独特の緊張感が会場に漂っていました。
そしていよいよ開演。
ここから1曲ずつ感想を書いていきたいと思います。
1.『スーツケース』
「私はここであなたを想うの」というフレーズから始まる曲。あいさんにとって大切な人達(ファン、スタッフ、お母様)へのメッセージなんだと感じました。
「未来信じて旅していきたい」というフレーズは、今もあいさんが思っていることなんだろうなと思います。
2.『絶望と希望』
僕が1番好きな曲。最後の820で聴くことができて嬉しかったのと、2曲目で来たのが早くて驚きました。
最後の820を迎えたあいさんとシンクロするような歌詞、キーを落としながらも振り絞るように歌われたサビに感動。
ファンの耳にも、そしてあいさん自身にも原曲キーが馴染んでいるでしょうし、喉の状態と感情の“せめぎ合い”のようなものを感じました。
3.『compass』
「劇場版 ONE PIECE ワンピース 砂漠の女王と海賊たち」の主題歌で、川嶋あいソロ代表曲のひとつ。
「どう生きるかは自分で 決めることだとわかった」
というフレーズは、『天使たちのメロディー』歌唱前のMCで語られていた内容(後述)ともリンクしていて、ずっと芯が通っている方だなと思いました。
前の『絶望と希望』がキーを下げていたこともあり、原曲キーで聴けたのが嬉しかったです。
4.『大丈夫だよ』
「応援してくれる皆様に今1番届けたいことを、この曲で届けます」というMCの後に演奏されました。
優しくそっと背中を押してくれる応援ソングで、僕は何度この曲に救われたか数え切れません。
最後の820で聴けて良かったし、生歌に「大丈夫だよ」と励まされました。
5.『どんなときも』
愛する人への応援ソング。「これから先は わからないけど あなたとなら乗り越えられる」というフレーズが、あいさんから見たファン、ファンから見たあいさんに向けられたメッセージのように感じられて、「820が終わってしまう寂しさも乗り越えられる」、そんな気がしました。
6.『525ページ』
あいさんといえば“卒業ソング”というイメージが強いかもしれませんが、「あいのり」でデビューしているだけあって甘酸っぱい恋愛ソングも多く、中でもこの楽曲は可愛さ満開。
あいさんのファンになりたての頃たくさん聴いてました。今でも大好きです。
歌い出しから、「この曲歌ってくれるんだ!」という嬉しさで鳥肌がたちました。
7.『マーメイド』
アコースティックver.で披露。おとぎ話の世界に入り込んだようなアレンジで、うっとり聴き入ってしまいました。ステージでこの曲を歌うあいさんは本当に人魚姫のようでした。
僕は寝つけない時に睡眠導入BGMとしてあいさんの楽曲をよく聴くのですが、この曲は特にぐっすり眠れます。僕の生活に溶け込んでいる大切な楽曲です。
8.『3年後の都会で…』
こちらもアコースティックver.で披露。ファン人気が非常に高い楽曲で、僕も大好きな曲。
「きっと最後になるけど 僕の歌 歌うよ この空の下で…」というフレーズが、今まで聴いてきた中で1番切なく心に響きました。「最後」という単語を聴くのはやっぱり辛いですね。
9.『天使たちのメロディー』
路上ライブ時代を彷彿とさせる弾き語りでの披露。
この曲を披露する前、「私の生き方って、他の人にはどうにもできないじゃないですか。私は今日、この生き方をしている。そんなことを考えながら歌います」と語られていたのがとても印象に残っています。
みんなが愛していた820。それを1番愛していたあいさんが自分で終わらせるのは、すごく勇気が必要だったと思います。でも、これもあいさんの生き方。
音楽、ファン、人生、今まで関わってきた人々。
それらに真摯に向き合ってきたあいさんだからこそできる勇気ある決断。
あいさんはMCで何度も「ごめんなさい」という言葉を口にしていましたが、僕はこの決断について「あいさんらしいな」と思っています。
そんなMCからの演奏。
この曲は寂しげな鍵盤の音に切ない歌詞が乗せられ、MVのイメージも含めて暗い印象を受けますが、あいさんの透き通った歌声に希望も感じられる。
“川嶋あい”ソロデビュー曲であり、真骨頂の1曲です。
「暗闇の中でこそきっと 本当の希望はみえる」というフレーズの通り、その希望に向かって歩き出して欲しいなと思いながらこれからも応援していきます。
この日のライブで1番“アーティスト・川嶋あい”を感じる時間でした。
10.『時雨』
路上ライブで定番だった楽曲で、こちらも弾き語りで演奏されました。
歌詞がとても切なく、演奏が進むにつれてどんどん渋谷公会堂が深い暗闇に包まれるような感覚。
その中で輝きながら歌う1人の女性。
やっぱり弾き語りしている姿が1番美しいなと思いました。「路上の天使」という呼び名も納得です。
11.『Journey』
今年発売されたミニアルバムから。
路上ライブで手売りしていた時のことを思い出しながら作られたミニアルバムで、この曲は“人生の旅・音楽活動の旅”の途中で出会った大切な仲間達と、これからも進んでいくんだというメッセージが込められています。
あいさんにとって最新の伝えたいことなんだと思い、大切に受け止めました。
12.メドレー
『ばんそーこ』『ハレルヤ』『くるくる』
『見えない翼』『My Love』『もっと!』
『ジャングル』『I Love Your Smile』
ライブで盛り上がる定番ソングをメドレーで披露。
前の曲までずっと席に座って聴き入っていましたが、みんなで立ち上がってタオル回したりクラップしたりできて楽しかったです。
特に『見えない翼』は高校受験や大学受験のときにたくさん聴いて勇気をもらっていた曲なので、ライブで聴けてすごく嬉しかったです。
13.『明日への扉』
川嶋あいさんがI WiSHのaiとして夢の歌手デビューを果たした大切な曲。
この曲を偶然聴いてあいさんに出会ったので、僕にとっても大切な曲です。
歌唱前にはポエムが読まれました。その内容は「声が戻るという希望をもって、声帯の手術をしてからもずっと頑張ってきたけど、思うように戻らなかった」というあいさんの絶望を強く感じるもので、聴いていて心が苦しくなりました。
それでも、ここで聴くことができた『明日への扉』はそんな絶望を全く感じさせない美しさで、まさに「天使の歌声」でした。
「この声で歌えるのなら、来年も820やれるんじゃないか」と思うほどに。
それもまた切なかったです。
14.『12個の季節 〜4度目の春〜』
この曲に初めて出逢ったときの衝撃は忘れられません。
リアリティ溢れる描写が歌詞に落とされていて、頭の中でセピア色のスライドショーが流れ始めるような、聴いていて映像が流れる不思議な楽曲。
作曲したあいさん自身も「傑作」と語る名曲です。
「告白なんてできないよ このまま友達でいい」というフレーズが甘酸っぱい至高の卒業ソング。
この曲も大好きなので、最後の最後に生で聴けて嬉しかったです。
15.『旅立ちの日に···』
本編ラスト。卒業ソングの人気ランキング上位の常連で、I WiSH『明日への扉』の原曲でもある、「川嶋あい」を語る上で外すことができない代表曲。
1番サビの「いつの日にか またどこかで 会える気がするからね 輝く日々を忘れないで」というフレーズがこの日のライブと重なり、今日は820からの卒業式だったんだと考えたら涙がこぼれました。
そこからの2番サビ「今始まる 希望の道 今日までありがとうね」に涙腺が崩壊しました。
『旅立ちの日に···』の演奏が終わってあいさんがステージを後にし、少し時間が経ってから。
ファン考案のサプライズとして『12個の季節 〜4度目の春〜』を観客みんなで合唱しました。
有志の方がビラを配ってくれていたので歌詞を見ることもできたのですが、歌詞を見なくても歌うことができて、僕の中にあいさんの楽曲があることを再認識しました。
また、合唱するファンの歌声にあいさんへの様々な気持ちが込められていると思うと、胸が熱くなりました。
そしてアンコール演奏のために、あいさんとバンドメンバーが登場。
ファンの合唱に合わせて、バンマス兼キーボードの宗本康兵さんが伴奏を弾いて下さるという粋なサプライズ返しもあって、さらに感動。
忘れられない時間になりました。
16.『ふたつ星』
アンコールはI WiSHの2ndシングルから。
ファンのことを歌った『Dear』が来ると勝手に予想していたので、この曲がアンコールで演奏されて驚きました。
I WiSHの楽曲ではこの曲が1番好きだったりします。
この曲は切ないラブバラードなのですが、演奏前のMCで
「私にとって820は天の川みたいなもので、織姫と彦星のように、1年に1度だけこのステージの上で大切な人に出会えるような、交信しているような気持ちになります。生まれ変わってもまた大切な人に出会えるといいなと思いながら歌います」
と語られていて、この楽曲には恋愛要素以外の意味を重ねることもできるんだなと新発見。
最後の820で新しい受け取り方を見つけられるとは思いませんでした。
天の川を思わせる照明演出も素敵でした。
17.『···ありがとう...』
最後に演奏された曲は820の象徴。あいさんが最愛の母に向けて制作した楽曲で、この曲を演奏するのはお母様の命日である8月20日のみと決められています。
「この曲が終わったら820が本当に終わってしまう」という寂しさ、この曲を通して伝わってくる気持ちの温かさ、最高のライブだったという充実感...
色々な感情が込み上げてきましたが、どんどん膨らんでいったのは「あいさん、ありがとう」という感謝の想いでした。
「今日はゆっくり進めていこうと思ってて。1曲がもっとゆっくり進めば良いのにと思いながら歌ってます。大好物のご飯を食べる時、一気に食べるんじゃなくて、ちまちまゆっくり食べるように。この感覚は路上ライブ1000回目のとき以来かもしれないです」
あいさんがMCでそうお話されていましたが、観客席にいる僕も同じような気持ちでした。
演奏された曲の中には、もう2度とライブで聴くことができない曲もあったかもしれない。
そう思うと、曲が終わる度に寂しくて。
「今だけ時間がゆっくり進めば良いのに」と本気で思いました。
儚くも美しく過ぎていく時間。
そこに残るのは「綺麗だったな」という余韻。
まるで1曲1曲が大輪の花火のような、そんな感覚。
美しかったその“花火”は、この夏1番の思い出として心に刻まれました。