プロ棋士の強みは直感力、藤井聡太竜王の強みはひらめきの力
将棋の渡辺明・前竜王と脳科学者の池谷裕二先生との対談の中でひらめきと直感の違いについて、次のような説明がありました。
「ひらめき」は理詰めに近く、勉強することで生まれます。「直感」には「なんとなく」わかる、という特徴があります。
ひらめきは大脳新皮質、直感は大脳基底核という異なる脳部位から生まれますので、脳の働き方のタイプが違うのです。「ひらめき」は理由が説明できますが、「直感」では理由が説明できません。
将棋のプロ棋士たちは、「こんな場面では、この手が“筋”なんだ」と判断するそうです。いい手かどうかを”筋”で判断するのです。“筋”とは将棋の世界で先人からの技術として受け継がれ、共通認識となっているものなのです。
ところが、AIが発達するにつれて、「これが“筋”」とされていたものが、数十手先では不利になるということがわかってきたのです。AIによって、“筋”という将棋界のこれまでのストーリーが排除されてしまったのです。
昔であれば、たくさんの筋を知っており、そこから働く直感力に秀でた人が強い棋士でした。ところが、AIの時代では、さらにその先のまだ答えのない領域を深く考え、新しい手を自力で見いだせる人、つまり「ひらめき」の力がある人が強いそうです。
現在、将棋界で大活躍されている藤井聡太竜王は、その「ひらめき」の力が並外れて強いそうです。例えば、藤井竜王はAIで4億手解析するとミスとされる手を対局で打つそうです。ところが、AIに6億手読ませると、藤井竜王の手が最善手となるのだそうです。
具体的には25手先まで読むだけではベスト5にさえ登場しない打ち手が、27手先を読むと最善手として突然出現するそうです。これが藤井竜王の「ひらめき」の力で、他の棋士が追い付けないところなのだそうです。
将棋の定石や“筋”は、いわばAIが4億手読んだことによって抽出された正解です。そこから先は未知の領域であり、実際に6億手を読むことで定石、“筋”が否定されるのです。ここで必要なのが「ひらめき」の力ということです。
しかし、実際には藤井竜王も直感力を使っていると思います。直感力も使うけれど、ひらめきの力を他の棋士たちより多めに使っているということなのだと思います。
先の読めない不確実な世界では直感力ではなく、ひらめきの力がより大切になるのです。