かつて百貨店が犯した過ちを、現代の多くの小売店が繰り返してしまいそうな気がする、って話。
近年、メーカーや卸業者のBtoCマーケティングへの意識が高まっていると感じる件
メーカー会社や卸業者でも、BtoCの販売手法やビジュアルマーチャンダイジング的なところへの意識が高まり、そしてそれを小売店に提案することで、販路を拡大しよう、小売店との関係性を強固なものにしようとする動きがよくみられます。
特にここ最近では、メーカー会社が、小売店のIT活用やEC化について提案したり、中ではそれにかかる費用まで肩代わりして、小売店の売上をUPすることでメーカー会社自身の売上もUPさせよう、という目的の取り組みだって見られます(僕自身、そういうプロジェクトに参加した経験があります)。
それ自体、とても良いことだと思います。結局、小売店の売上が伸びない限り、メーカーの売上だって伸びることはないわけです。さらにいうと最終消費者に利用してもらうことができなければ、メーカーの売上が伸びることはないわけです。極端な話、いくら小売店や卸業者に評価されたとしても最終消費者に選ばれなかったら、小売店や卸業者は、そのメーカーと取引を続けることはまずないでしょう。だから、メーカー会社や卸業者が、BtoCの販売手法まで意識してビジネスを行うというのは、理に適っているわけです。
ただ、小売店側の視点で考えると、、、ちょっと話が変わってきます。
なんだかんだ言ったって、最終消費者と直接接するのは小売店です。だから、最終消費者のことは一番小売店が本来詳しいわけです。また、最終消費者に店(あるいはECサイト)に足を運んでもらうか、そしてそこで購入してもらうかについては、同じ商品を売っている小売店Aと小売店Bでも、そのコンセプトは違って然るべきですし、そのコンセプトは、当たり前ですが小売店自信が決めて実践していく内容で、メーカーや卸業者は助言こそできても、口出しできる領域は本来少ないはずです。
ただ、メーカーや卸業者が、いろいろと良い売り場提案をしてくれるからと言って、本来小売店が一番考えるべきことをさぼっている小売店担当者の方って、結構いらっしゃる気がします。多数とは言いませんが、少数ともいえないような気がしています。
もし、すべての小売店が、「どう消費者に商品の良さなり魅力を伝え、買ってもらうか」を考えず、メーカーや卸業者、あるいはコンサルタントも含め外部の人ばかりが考えるようになったらどうなるかというと、時代にはもしかしたら最低限のところで適応していけるかもしれませんが、小売店ごとの特徴がなくなり、知らず知らずのうちにお客さんが離れるか、価格競争しか手段がなくなっていく、ような未来になっていくことでしょう。
百貨店はメーカーや外部に頼りすぎて失敗した
そんな失敗のパターンが、すでに実例として存在します。
「百貨店」です。
1950年代、当時まだ無名のアパレルメーカーであった「オンワード樫山」は、自社の商品を百貨店においてもらうために、それまで百貨店が持っていた在庫リスクを自社で負担することや、自社から販売員を派遣することで、雇用の負担を肩代わりすることで、自社の商品を百貨店においてもらおうと画策します。今でいう「消化仕入」や「委託販売」は、オンワード樫山がひらめいたアイデアです。
この話は、百貨店側からすると、めちゃくちゃ良い条件です。たとえ商品が売れなくても、その売れなかった分が赤字になるわけではなくなるわけですし、商品に詳しい販売員もメーカー側から派遣してくれるわけで、雇用の負担もなければ社員教育も必要なくなるわけです。
ただ、長い目で見ると、「消化仕入」「委託販売」により、百貨店がそして消費者への提案力を失い、そしてそれぞれの百貨店の個性を失いました。
なぜなら、在庫リスクを負担しなくてよくなったことで、それまでの百貨店にいたスーパーバイヤーがいなくなりました。本来は百貨店のバイヤーが商品を目利きしてセレクトし、そして消費者に提案すべきなのに、そのセレクト力を失ったわけです。また販売員もメーカーから派遣されているわけで、当たり前ですがその販売員は自分のメーカーを売ることに集中します。。また販売スキルが向上しても、それはメーカーの財産になるわけで、百貨店自身の販売力アップには直接はつながらないわけです。
もちろん、1950年代にその方法を導入したからといって、すぐに百貨店が凋落したわけではありません。すくなくとも1980年代までは小売業界の頂点に君臨したわけです。ただ、バブル崩壊によって一気に崩れました。そういう逆境に立った時、そこで上手く舵を取って立て直す力がなかったのです。そんな人材が百貨店にいなかったわけです。「消化仕入」や「委託販売」といった、(誤解を恐れずに言うなら)ぬるま湯に浸る前の時代を知る人が、その時代にはもういないわけなので、、、どうしようもなかったわけです。
最後に
ってことで、こういう百貨店の失敗という前例があるわけなので、現代の小売業者は、こういう過ちを繰り返さず、それぞれ個性があるお店やEC店舗を運営し続けてほしいなぁと思うわけです。もちろん、外部の人のアイデアや意見を聞き、取り入れるのは良いことです。でも、軸をなくしてしまったらダメなのです。
外部の人が提案してくれるからって、自身は深く考えずに言われたとおりにやってみる、という状態に陥らないように、ということを願います。ITやECのことよくわからんからって、Web制作会社やEC運営代行会社にただ言われるがままにECサイトを構築し運営する、という状態には陥らないようにと願います。