20230916 実験的文章 サンプルB-3

次に、二度目の車であるが、一度目と比べると少し印象的な事があったので書き記しておこうと思う。と言っても、目を見張るようなドラマティックな展開や、目を見張るようなエピソードがあったわけではない。あくまで個人的に印象に残っているだけであり、赤の他人からすればどこが印象深いのか理解に苦しむかもしれない。

確か何かの加減で女性を自宅まで送っている時だ。もちろんその女性とお付き合いしているわけでもなく、別に何らかの下心があったわけでもない。その女性は知人の知人であって、名字さえも知らない。知人を介して話した事がある程度で、お互いの事なんて全く知らないと言ってもいい。たまたま帰る方面が一緒だったので、自宅まで送り届けることになっただけのことだ。だから、車の中でも特に会話が弾むわけでもなく、静まり返った車内に、FMラジオから流れる雑多な音楽だけがその空間を占拠していたような具合だ。対向車の途切れる事のないヘッドライトを眺めながらハンドルを握っているちょうどその時、この質問が女性の口から唐突に発せられたのである。まるで静まり返った池に一石を投じるかのように。ドボンっというその音に一瞬何が起こったのか分からなかったほどだ。その波紋の広がりを眺めているうちにようやく質問の意味を理解した。

つづく



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