11月23日 早島 ぬか
心重い日々が続くが、朝から、様子が気になっていた方からお電話いただいたり、お目にかかってみたかった若い学芸員の方と展示場を少しだけご一緒したり、そして夜にはドイツに勝ったりと、心躍ることが続いた。
そのなかでも、「今日は良かったな!」と思わせてくれたのが、自宅から歩いて2分ほどの「ぬか つくるとこ」で開催中の「レオの髪型展」のトークイベント。
※HPがないようなので、下の方をご参照ください
「なんでそんなんプロジェクト」に応募された、レオさん(男性)が、おかっぱ頭にしたことで起こった出来事を巡り、レオさんと、そのおかっぱ姿を描いた久保田沙耶さんに、「なんでそんなんプロジェクト」を展示にした「なんでそんなんエクスポ」を手がけた滝沢達史さんが、コタツを囲んでの語り合い。
※なんでそんなんプロジェクト
生活介護事業所 ぬか つくるとこ」が2020年度より初めたプロジェクト。人の行為から生まれる「よくわからないもの」を断絶し、排除するのではなく、または、「無理にわかり合おうとするのでもなく」、想像力を駆使して「分からなさを楽しむこと」。「なんでそんなん」な行為や作品に注目するだけでなく、「なんでそんなん」を見つける「発見者」の育成をすることで生きやすい社会を目指します。
オンライン配信もあったが、リアルな会場にも20人ほど(というより、4~5家族。子どもも普通にその場にいて、一緒に場に加わっている)
ほんとうに、良い感じの場でした。
「男がおかっぱ!?」に対する周囲が持つ違和感と、そこから始まる「それはやめとけ」という同調圧力が話の発端ではあるが、途中からレオさんの奥様も入って、45分間で、ほんとうに良い話が続く。
でも、予定は90分。
そしたら、そこから、その場にいるみなさんが一緒に、もう一度、前半をトレースするような展開になり、なんだか深まりを持ったよい時間になった気がする。
私からすると、男/女 やら 大人/子ども やら、様々な特性に対して、そもそも2項対立じゃないだろうし、色、形などが、特定の記号になる状況(〇〇はかくあるべき)が、小学生のランドセルの色の固定化が解除されたり、学生服で女性がスラックスも選択できるようになっても、まだまだ根強く、気づかれずに、当たり前のように多くの人の意識を縛っている状況を、「ちゃんと気づこう!」とつい強く言ってしまう。ことしか出来ない。
けれども、レオさんと奥さん(という呼び方がもう縛られているのだけど)が、「近しいものだからこそ、その固定化を崩す困難があること」を静かに語ったうえで、「それを解きほぐすためには、時間をかけたり、時に忘れてみたり、ともかくユーモアを持って、丁寧に対処する」ことを、あわあわと丁寧に語る様子に、はっとさせられる。
そんな簡単には解きほぐせないのだよ、柳沢君!という感じ。
それから、実に見事に、郵便局員になったり、「なんでそんなんエキスポ」では、紋切り型のパビリオンガールになってみたりする久保田さんは、そうした紋切り型のアイコンに自らをはめ込んだうえで、その典型の内側から、それを取り巻く状況を、静かに見ていることを語った。
そんな立ち位置もあるのだよ、柳沢君! と、これまた改めての気づき。
日頃から、「かくあるべき、の固定化はやめよう」「常に、観察と対話を続けよう」と意識しているつもりだが、対話の仕方も、観察の仕方も、もっともっと奥深いもので、自分の思う観察と対話が「かくあるべき」だったと深く反省。
それから、もうひとつ重要な話が、久保田さんが絵画化し、滝沢君が展示にしたこと。
そうすることで、レオさんの奥さんからすると、レオさんのおかっぱへのこだわりが、なにかそちらで形になった感じがしたと語る。
そして久保田さんは、「奉納するような感じ」でその絵を描いたという。
でもそれは、神や仏へのお供えものを作るのではなく、目の前の事象を、ぽんと違うステージへ運んであげた感じがする。
このあたり、この頃の刺激的な利他や中動態を巡る議論にも接続するようで、もう少し自分では考えてみたいこと。
ともあれ、この場にいらっしゃった皆様に、心より感謝です。
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レオの髪型展
会期|2022年11月23日(水・祝)ー12月3日(土)
時間|10:30 ー 15:30
会場|イドノウエ tiny art point (岡山県都窪郡早島町前潟126)
主催|ぬかつくるとこ
企画|そのうち国際芸術祭
助成|福武教育文化振興財団
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本展は、寝癖がつかないようにように模索した結果「おかっぱ」型の髪型になった男性(レオさん)にまつわる展覧会です。*「なんでそんなんプロジェクト」の投稿事例「レオの髪型」は周囲の人のツッコミによって発見されました。
髪型は自由でいいはず。たとえ男性でも女性的な装いをしても構いません。特に「多様性」を尊重した昨今の潮流の中ではさして珍しいことではないはずです。しかし、「寝癖がつきにくい髪型」という点に注力し、2年の歳月をかけ、美容師と模索したというプロセス。結果として生まれたビジュアル。
周囲の些少なツッコミによって、特筆するほどでもないが違和感を覚えるストーリーと共に、レオさんの周りで「髪型」が話題にあがるようになりました。期せずして「なんでそんなんエキスポ」という博覧会に出展されるなど、 徐々に一人歩きをしていきます。 レオさんと同じ髪型のカツラが制作展示され、様々な人が同じ髪型を追体験し、音楽家 中ムラサトコさんが歌うCDのジャケットになり、 美術家 久保田沙耶さんが肖像画を描きました。その後、レオさんの長男Cくんが小学校入学の際、親族の意見を受けて髪型を変えることになります。なぜ中年男性のおかっぱが少なくとも数名の人々に、良くも悪くも違和感をあたえるのでしょう?その要因がなんなのか、本当のところは分かりませんが、久保田沙耶さん制作の肖像画、レオさんを含め、家族、同僚、美容師など、周囲の人々のテキストとともにご高覧いただければ幸いです。
トークイベント
①髪型をめぐるあれこれ
レオの肖像画の作者久保田沙耶さんをお招きしてのトークイベント
なんそんエキスポディレクター滝沢達史さんにも登壇いただきます
日時|2022.11/23 (水/祝) 17:00 - 18:30
会場|ハナレ(イドノウエ横)
出演|久保田沙耶(美術家)
滝沢達史(美術家/ホハル代表)
レオ/湯月洋志(ぬかスタッフ)
②おかっぱのつどい
髪型として、おかっぱをしたことがある方、
現在おかっぱの方、
これからやってみようかなという方の集いの会です。
お気軽にお越しください
日時|2022.12/3 (土) 16:30 - 18:00
会場|ハナレ(イドノウエ横)
発起人|レオ/湯月洋志(ぬかスタッフ)
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プロフィール
レオ / 湯月洋志
1982年生まれ。大学では美術を学び、特別支援学校と小学校で常勤講師として7年間勤務。2018年~株式会社ぬかに転職。ぬかの日常から生まれるコンテンツやプロジェクトの企画に関わる。ぬかではレオのニックネームで親しまれている
久保田 沙耶
美術家。1987年、茨城県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画修士課程修了、同博士号取得。個展「Material Witness」(大和日英基金)や、アートプロジェクト「漂流郵便局」(瀬戸内国際芸術祭)など。レオの肖像画制作
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お問合せ
ぬか つくるとこ
TEL=086-482-0002
Email=info@nuca.jp
トークイベント参加希望の方は当日お越しいただくか、お問合せください