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ウラオモテ

子どもの頃の私は、少し優等生だった。

生徒会長をやり、学級代表を掛け持ち、〇〇長と名の付くものは片っ端から受けた。

塾にはいけなかったので、独学で毎日勉強した。

夏休みも冬休みも、「たまには外で遊んだら?」と言われるほどだった。

祖母は、義祖父の親族に会うと、私の成績を自慢げに話す。

中学から始めた部活は武道で、最初で最後、一番のめり込んだスポーツだった。

頑張って頑張って、大将になって、部長もやった。

中学は一番モテ期(自称)で、彼氏もいた。

周りから見たら、充実した毎日を送っているように見えた、かもしれない。

夕方からは別の世界

いつも通り帰路に着く。
片道徒歩で30分。

こっそり持ち歩いているプリペイド式のケータイに、母親からメールが届く。

「タバコ買ってきて。」
「まだ帰らないの?」
「夕飯コンビニで買ってきて。」

すぐに返信しないと、と、慌てて返す。

早く帰らないと大変なことになるから、いつもの自動販売機で、母親のタバコを買って、薄暗い坂道を急ぐ。

帰宅すると、庭の窓を開けっぱなしにして、弟が泣きながら母と睨み合っている。

母はくわえタバコで灰を撒き散らしながら、
「お前もお姉ちゃんを少しは見習ってみろ!人様に迷惑ばっかりかけるんじゃない!嘘つきは泥棒と同じだ!!」と怒鳴る。

弟が何か言い返す。

母親が立ち上がり、弟を殴りつける。髪を掴んで部屋に引き摺り込み、角に追いやって、ヤクザかチンピラみたいに弟に詰め寄る。

力のついてきた弟が反撃する。
母が倒れ込む。

パニックを起こして、幼子みたいに泣き喚く母。

私にすがり付く。
「〇〇ちゃーん!叩かれた!殴られた!暴力だ!」

私は弟と母を引き剥がす。

弟の目付きに、「なんだよその態度は!」とまた母がヒートアップする。

特にひどいこんな日は、母が包丁を持ち出す。

「もう死んでやる!」
包丁を腕に当てる。

やめてよ!!!!と止めても、払い除けられる。

目の前で自分の母親が自殺しようと子どもを脅かす。
お前を殺してお母さんも死ぬ!!と、弟に怒鳴る。

手がつけられない。
私は限界を感じて、110番通報する。

「母が包丁を持って暴れています。助けてください。でも、近所迷惑になるのでサイレンは消してきてください。」

発作を起こして母が意識を失ったり、殴り合いの喧嘩で危険を感じ、何度か119や110に連絡していたので、変に慣れていた。

この日は恰幅のいいお巡りさんが3人きてくれた。

真ん中の偉そうなおじさんが、猫の汚れや砂利、何日も掃除機なんかかけていない汚い床の汚れをパッパッと手で払いながら、座れるスペースを見つけて、腰を下ろす。

おもむろに口を開いて、

「まぁね、お嬢ちゃん… 警察には民事不介入って言葉があってね…
あとはご家族でよく話し合って…家族なんだから助け合って…」

あぁ、やっぱりね、わかってる。ごめんなさい、迷惑かけて。

はい…はい。こんな時間にすみませんでした。と、お巡りさんを見送る。

弟は部屋に篭る。

母親はまた日本酒で安定剤と睡眠薬を飲み、なんで警察なんか呼んだんだ!これでまた近所のあいつがどうのこうの…とはじまる。気が済むまで、私にその不機嫌をぶつける。

薬と酒が回ると、朦朧としてくる。

頃合いを見て、私は
「じゃあ、明日テストだから勉強してくるね…」と、上に上がる。

暴れる物音がしないか、叫び出さないか、外へ出ていかないか警戒しながら、静かになるまで、ウォークマンのイヤホンで耳を休める。

これが私の、中学時代。

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