【ショートショート】薄汚れた心は洗われない

私は心が薄汚れていく。


そんな自分がたまに嫌になる時がある。

これは学校の帰り道の話だ。

英単語帳を持った彼女は彼に向かって話しかける。

「インスタのアーカイブ見るの楽しい。」

友達だろうか彼氏なのだろうか私には定かではない。一つ言えることは物理的距離が近いと言うことだ。

「うわ。懐かしい。。これって学祭の時の写真じゃん、、、」

写真を差しながら、小声で彼が呟く。

「覚えてる?一回生の時初めてゆうりくんと出会った日」

「覚えてるよ!俺もアーカイブに写真あるもん!」

彼はそう言いつつ、彼女に写真を見せた。

2人が自然と覗き合い、さらに距離を詰める。

「次は新橋。新橋」車掌が次駅のアナウンスをした。

「ゆうりくんの降りる駅だよね?」

「そーだよ!!新橋でバイバイだね。あとさ、アーカイブの写真俺に送ってよ!」

「いいよ!」

そこからの会話は無言のままで、2人は新橋駅に到着した。

「あ。新橋駅だ。」

「じゃー。またね!」

彼はそう告げ、膝下で手を振り、彼女もその位置に手を振りかざし互いの手が触れ合った。

どこかあどけないカップルだな、と私は席の横で微笑んだ。

彼氏が電車を出ると、即座に彼女は英単語を開いた。

彼は外で見送ろうと待っていたが、見向きもせず彼女は英単語を見つめていた。

私の読みは外れたみたいだ。

たまたま電車で出会った同級生とかだろうか。

彼は悲しそうに彼女を見つめるが、彼女は期待に応える事はなかった。


3分ほど経ってだろうか。彼女は携帯を取り出した。

「英単語の次は携帯。全く薄情だな」私は心の中で思った。

彼女はラインを開くと、流暢な手つきで何か返信している。

私は覗き見はダメだとわかっていても、目線を逸らすことができなかった。

「国家試験終わったら清水旅行行こうね」

彼女の微笑んだ顔とメッセージ内容で把握した。

あ。なんだよ。最終カップルかよ。私の薄汚れた心は治る事はないようだ。

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