「不登校児童生徒が欠席中に行った学習の成果に係る成績評価について」への懸念
令和6年8月29日付で、文部科学省から「不登校児童生徒が欠席中に行った学習の成果に係る成績評価について」という通知が発表されました。
この通知は、不登校の児童生徒がフリースクールなどで学んだ内容を、学校の成績評価に反映させることを促すもの。フリースクール運営者の多くが、長く学校現場に望んできたことの一つが、ようやく文科省通知として形になった感じがあります。
ただ、これは喜ばしいことではあるのと同時に、懸念点も存在するので、この通知の意義と懸念点を順を追って説明します。
フリースクールの日常業務
うちのフリースクールでは、通ってくる子どもたちを「出席扱い」にしてもらうために、毎月、所属学校に活動報告を提出しています。この報告書は通常A4サイズ1枚程度で、出欠の記録(通所日、到着時間、帰宅時間)、1か月分の活動報告を含んでいます。
実は、この活動報告の作成には多くの労力と時間がかかります。なぜなら、単なる事実の羅列ではなく、子どもたちの成長や前向きな様子を学校の先生方に伝えたいという思いを込めて、スタッフが丁寧に作成するからです。その子が制作した作品の写真や活動している様子を載せることもあります。
また、この報告書を作成するために、フリースクールのスタッフは毎日、子どもたち一人一人の活動内容や様子を細かく記録しています。午前と午後の活動をそれぞれ記録し、子どもの状態も観察して書き留めます。
フリースクールの運営における課題
さて、ここ数年で不登校の子どもたちが一気に増加し、地域におけるフリースクールの重要性は高まりました。実際、通う子どもの数が増えたフリースクールも少なくないと思います。通ってくる子どもたちが増えれば、その分、運営資金も増えるため、より充実したサポートが可能になります。一見運営する側としては、良いことばかりに思えますが、実は、上記した記録のような日々の作業量もその分増えることになります。多くの場合、少ない人員と限られた給与で、この増大する業務をこなさなければなりません。恐らく、これはどのフリースクールも直面している課題ではないでしょうか。
若干、愚痴になりますが、現状では、フリースクールのような民間施設やそれを利用する家庭への公的支援は十分ではなく、ある意味で、「公立学校」という公共サービスの失敗(不登校の子どもたちが「失敗」という意味ではなく、学校のオペレーションを対応させられていない、という意味での「失敗」です。)を、家庭と地域のボランティア(と「熱意のある先生方」)で何とか補っているのが実情です。できれば、一律の公的助成が一刻も早く実現することを望んでいます。愚痴はここまでにします。
活動報告の必要性と課題
所属する児童生徒が増えれば、日々の記録や活動報告が業務として膨大になっていくとはいえ、活動報告自体や報告の必要それ自体については僕は異論ありません。出席扱いにするための条件として、ある程度の妥当性があると考えています。子どもたちを適当に放置しておいて、何一つ教育活動らしいことをしていないのに「フリースクール」や「オルタナティブスクール」と掲げる団体が現れるだろうからです。そんなところを「出席扱い」認定施設にするわけにはいかない行政側の事情も理解できますし、質の高いサポートを確保するためには必要な措置だと理解できます。
しかし、大きな問題点があります。それは、これほど時間と労力をかけて作成した報告書が、子どもたちの評定にほとんど反映されないことです。(実際には、校長や担任の裁量に委ねられています。)
その点は、こちらとしては、どうしても「何のための活動報告なの?」という疑問を抱かざるを得ません。子どもたちはフリースクールに通ってきているとはいえ、学校での評定なんかどうでもいいと思っている子も、保護者も一人もいません。むしろ、学校での評定をとても気にしている子たちが大半です。一日も休むことなくフリースクールにやってきて、その子らしい作品をつくり、できることも増えて、周りと良好な関係を作り、苦手な勉強にも向き合っている子だったとしても、それは「フリースクールでの活動なので、評定には関係ありません。」という対応は、あまりにも子どもたちの気持ちを無視した対応だと思います。ここは、多くのフリースクール運営者が同じ思いだと思います。(ちなみに、この活動報告書について、年度末に「〇月の活動報告が見当たらないので、再度送ってほしい」という依頼を、所属学校からされたことがあります。しかも、一度ではありません。なんだかなー。子どもたちには忘れ物がないように、と先生方はおっしゃるのにね。)
文部科学省の通知に対する評価と懸念
そこから言えば、今回の文部科学省の通知は、フリースクール運営者にとっては、意義あるものと十分に評価できます。今後、子どもたちの学校外での活動が、学校の評定に組み込まれていく方向で徐々に改善がなされていくと思いますし、こちらから学校に、この通知をもとにして、フリースクールにおける子どもの活動の評定への反映を求めていくことができます。
ただし、もろ手を挙げて喜べないところがあります。
なぜなら、これまでに何度も、こうした類の「通知」=「お達し」が、各教育委員会や自治体へなされてきましたが、その通知通りに、学校現場のオペレーションが変わってこなかった過去があるからです。
変わらない理由は明確です。新しいオペレーションには、追加の労力がかかるにも関わらず、それを今ある人員でなんとかこなそうとしてきたからです。多くの学校現場が教員不足の状態で、ギリギリで現場を回しているのに、追加のオペレーションなどやれるはずがないのです。
ギリギリで回っている飲食店に、オーナーがメニューのこまかなオプションをどんどん追加していくようなものです。当たり前ですが、それをやろうと思えば、これまでやってきたオペレーションのどこかは手抜きになり、杜撰になり、一連のオペレーションの全体の質が低下していきます。そうなると、スタッフ同志の関係も現場の雰囲気も悪くなり、結果、そんな店からは客の足が遠のいていくでしょう。
そして、まさに学校現場では、そのようなことが起こっているわけです。不登校が増えるのは当然ですし、恐らく、先ほどの「〇月の活動報告が見当たらないので、再度送ってほしい」という依頼に関しても、学校に来ている子どもたちへの対応=日常業務が手一杯の状態なので、例外的なオペレーションであるフリースクールとの連携に対応できず、そうしたミスが起こっているわけです。(いや、そう信じたい!)
「通知」を出すなら、予算・人員セットで
以上のことから
通知の実施に必要な予算を確保すること
各自治体に対して、必要な人員の確保を義務付けること
今後の通知には、これを必須にしていただきたい。
そうしないと、今後もどんなに通知を出しても、「通知は出しています」という単にアリバイ作りのための作文になってしまい、どんどん文部科学省への信頼がなくなっていきますよ。