腕時計というタイムピースとの向き合い方
13年、身を粉にして奉公し抜いた会社の雇われ社長を辞めた際、
「記念に何か、あとに残るものを買おうか。」
なんて思って色々考えた。
うーん、普段あまり高価なものを買わない、貧乏性な私。
雇われとはいえ、金融業の社長でしたから、スーツとかはちょっとこだわりましたが、高価な腕時計を着けている人を見て、
「腕時計にお金をかけられる人って、うらやましいな。」
くらいにしか思っていませんでした。
縁って不思議
そんなことをモヤモヤっと思っていたら、友人の紹介で、ある百貨店のバイヤーさんとお友達に。
バイヤーさん「展示会があるので、良かったらお越し頂けませんか?」
こういうのって、タイミング。ご縁。
喜んで乗っかりますよー(≧∇≦)/
パンフレットに、
「グランドセイコーの限定モデル来ます」と。
日本人なら、日本が誇る国産の機械式時計の1つ、持っておこうか。
展示会までの間、散々リサーチして、
「文字盤がゆきしろブルー」
という、ちょっと変わりダネの1つに取り憑かれました。
機械式時計の魅力
いままで買った腕時計で一番高いものは、10万円程の電波時計。
腕時計って、正確な時間を刻み、メンテナンスフリーなものが一番いいよねと思っていました。
ですが、最近は携帯やらスマホやら、「正確な時間を知るための道具」は溢れています。
なので、腕時計を単なる時間を知る「道具」とするのではなく、
日常を彩るもの
自分らしさを表現するもの
自分を引き立ててくれるもの
そういう意味を見出すことが、心の豊かさに繋がるのではないかと思いました。
で、機械式について散々調べた挙げ句、
「国産の自動巻き」にしようと決める。
俺、惚れやすい性格だったわ(汗)
「国産の自動巻き」にしようと思うから、グランドセイコーで考えているよと、そんなことをバイヤーさんに電話したところ、
「他には気になっているメーカーないんですか?」と。
コイツ、引き出し上手だなぁ。
「まあ、あるっちゃあるんだけどさ。IWCってあるじゃん。デザインの堅実さと、造りの堅牢さがゴニョゴニョ…」
「あー、IWCは今回取り扱いがないんですよ。」
無いと言われると見たくなるのが惚れやすい男の弱いところ。
ついついIWCのラインナップばかりをネットで確認してしまう私。
一目惚れしやすい奴なんです
当時、昼頃に展示会に行く約束をしていたところに、朝一番でバイヤーさんから連絡が。
「急遽、IWCが数本入ったんですよ。」
演出、上手すぎる。
(え?こんなんでコロっといくなんて、安い男だねって?はい。私、ベタなヤツに弱い。)
「え、そうなのー?まあ今回はIWCが本命じゃないんだけどねーゴニョゴニョ…」
ああ、完全に罠にハマりにいってる私。
この辺で、8割くらい心はそっち行っちゃってる。
デザイン的にはポートフィノが好きなんんだよな〜とか、思っちゃってる。
人もモノも、ご縁を感じると好きになってしまう(汗)
で、ソワソワしながら展示会に。
だから、今日はグランドセイコーだっていってんだろがよ!
って言ってんのに、真っ先にIWC見せてくる。
おいニイチャン、今日会うの、紹介されて3回目だよな、なんで俺の性格そんなにわかってん?
ああ、私、分かりやすい性格だったわ。
そこには数本のIWCが。
その中の一本に、目が釘付けに。
なるべく見ないでおこう。
「いやーポートフィノは気になってるんだけどね。でも案外実物見ると、無骨なおっさんの俺には合わない感じがするね。中性的な人が似合いそうだね。」
「いやー、良いもの見せてもらっちゃったなー。さてさて、グランドセイコーはどーこーかーなー?」
高価なものを勧めるプロに、私は敵う気がしない
まあまあ、こちらでお茶でもと、席に案内される。
そこにバイヤーさんが、グランドセイコーを2本持ってきて、
「先ほどこの2本がお好みの様子でしたね。」
そこに、時計担当のオニイチャンが、おもむろにポルトギーゼを持ってくる。
ちょ!
お前、なんでそれ持ってきた?
「座右さんにお似合いだなと思ったので。」
おいおいおいおい。
なるべくそっち見ないようにしてたんだけど。
さてはお前、メンタリストDaigoだな。
あの一瞬で、私の視線を見抜く眼力。
モノ売りのプロだ。
コイツ、ガチ勢だ。
(↑フォートナイトにハマっている小6の息子が最近よく口走るフレーズを真似てみた。)
わかったよ。
自分の気持ちに素直になるよ。
もう、自分の心に嘘をついて生きていくのはやめよう。
欲しくなっちゃったんだから、しょうがない。
(無闇な散財はいけませんが、13年頑張ったんだもん。)
そこから、このモデルの歴史や、「手巻きの魅力」について、延々と語る時計担当者。
あんた、モノ売りの鏡だよ。
こっちはもう『買う』って言ってるのに、それでお客を帰さない。
『売るのは時計、その商品の魅力と物語を添えて。』
といったところか。
高い買い物だからこそ、愛着を深めて大切にして欲しいという気持ちが溢れている。
まるで、自分自身の買い物かのように、語りかけてくる。
そんな、程よい後押しが、心地良い。
こんなに清々しく買い物できたのって、何年ぶりだったろう。
ネット通販は便利。
でも、対面販売の魅力は、その買い物の時、その商品に向き合いながら、「想い」を共有できる相手が目の前にいるというところではないかと思う。
私のような庶民が身につけるにはちょっと冒険ですが、いつか息子に譲れるよう、大切にしようと思う。
時計を巻きながら、気持ちを巻き戻す
手巻きとか、絶対面倒くさいだろうと思っていましたが、
「手のかかる子供ほどカワイイ」
とは言ったもので、毎日欠かさず巻いています。
巻きながら思ったこと。
時間は容赦なく、また、平等に過ぎていく。
でも、「想い」は、自分の心の中で温めていくことができる。
ゼンマイを巻くことが、
あの日の「悔しさ」、「無念」を、心に呼び覚ます。
「俺の言うことが聞けないなら、お前たち二人は無職だ」
そう言われた、あの日のことを、私は絶対に忘れてはいけない。
この先、意地を張って家業を飛び出したことを、悔やむことがあるかもしれない。
でも、絶対に惨めな姿は見せられない。
「ほらみたことか。親に逆らうからこんなことになるんだ。」
なんて、絶対に言わせてはいけない。
そんな、親不孝は、絶対にしてはならない。
おかしいことをおかしいと言い切ると決めたじゃないか。
人生総仕上げの今この時、あなたはそんな慢心を持ったまま、死ぬおつもりですか?
おかしいことをおかしいと言い切ったことが、「正しいことだった」と証明する方法は、これからの私達夫婦の「生き様」で見せていくしかない。
それは、きっと時間のかかることだろう。
だが、ただ親の言いなりになることが、本当の親孝行ではない。
「送り出して正解だった。立派な婿さんだ。一族の誇りだ。」
そう、言わせることが、真の親孝行だと信じて、
今日もゼンマイを巻いて、寝ます。
私は、そんな、諦めの悪い男です。