見出し画像

「Portal: Revolution」感想 Mod開発者は新しい物語を生み出せるか

「Portal: Revolution」はPortal 2の大型Mod、約40の新規パズルと本作独自のギミックを備えた意欲作。
 本作は「Portal」と「Portal 2」の間を語る。コールドスリープから目覚めたとある被験者が、崩壊したAperture Science再興のため動き出す。


原作に迫る高い完成度

 久々にPortalを遊んだ、という満足感でいっぱいです。

 とにかくパズルが素晴らしい。本家Portalや過去の傑作Modと比較しても遜色ない出来です。Valveが配信を忘れていたDLCコンテンツだと言われても信じてしまいそう。
 序盤は久々にPortalを遊ぶプレイヤーのための復習から始まり、要領を思い出したところで本作独自の巧妙なパズルがお目見えします。全体的に難しすぎず易しすぎない、絶妙なレベルを維持する構成となっています。

 Portal好きであれば誰かに語りたくなるようなパズルもいくつかあり、特に傑作なのは実績「つまらない解き方」と「面白い解き方」を両方取得できるChamber 6-6です。一言で言って作中トップレベル、「Portal 2」のトリプルレーザーに匹敵する洗練度と言っても過言ではないでしょう。このチェンバーを実績のために2周した時はもう……感嘆の溜息が出ました。

「Portal: Revolution」Chamber 6-6のスクショ。構成要素は少なく取れる選択肢は多い。
「Portal 2」のトリプルレーザー。こちらも少ない要素で見事なパズルを構成している。
(画像はValve Developer Communityより引用)

 むろんこれは私1人が過剰に褒めちぎっているわけではありません。Steamでの評価は「圧倒的に好評」を記録しており、とりわけレビューの「おすすめ」も「おすすめしません」も、その双方が本作を称賛に値する作品であると評していることは注目に値すべきです。

こだわりが光る細部

 他にも、開発者が原作に並ばんとする並々ならぬ決意と熱意は様々な箇所からうかがえます。
 たとえば主人公のモデルです。スタート時のマップに鏡が置いてあり、その姿を早々に確認することができます。

Revolutionの主人公。本名不明。

 原作の主人公Chellは本作の時系列ではコールドスリープ中のため、Revolutionの主人公が本作オリジナルキャラだと早々に分かるよう鏡を実装したものと思われます。
 Portalは一人称ゲームという性質上、主人公の姿を見る機会はごく限られています。それこそChellのモデルを流用してもゲーム進行に問題は無いわけです。つまり、主人公のモデルを新たに作ることはただの原作コピーにしない、という開発者の意思表示に他ならないわけです。
 この主人公のモデルがPortal 2の初期デザイン案をミックスしたものとなっているのも細かなオマージュを感じます。

Portal 2の初期案。大まかなデザインは左、色合いは右と言った感じ
(画像はPortal 2 - The Final Hoursから)

 また、シリーズお馴染み人格コアも新規に音声収録されて登場します。あの丸っこくて表情豊かな彼らが動いて喋ると「ああ、今自分はPortalを遊んでるのだなあ……」と実感します。Mod製作者にはもっと軽率にたくさん人格コアを作ってほしい。
 序盤で出会う人格コアStirling君はけなげでかわいいやつですし、Conlyはこれまでの人格コアとは少し違う出自を持つコアです。そしてどちらもよく喋り、Aperture Scienceに関するブラックジョークじみた事実をしばしば教えてくれます。これこれ、これこそPortalだなあ……。

本作似て登場する人格コア「Striling(左)」と「Conly(右)」

 長々と書いてきましたが他にもさりげない原作オマージュやイースターエッグなどの密かなお楽しみもあり、とにかくPortalを遊んだ人であれば感心すること間違いなしです。有志による日本語翻訳も作られているので言語面での不安もありません。翻訳はこちらからダウンロードできます↓
https://twitter.com/Stella_Alice_/status/1743951434167841250?s=20


 ……と、ここまでは褒めに徹しましたが、本作にはどうしても見過ごせない欠点もあります。それは過去の名作Modにも共通する問題でした。

※ここから先はPortal: Revolutionのストーリーのネタバレが含まれます!未プレイの方はこんな記事閉じて急いでインストールしよう!Portal 2所持済みなら無料!








欠点:既視感多いストーリー

 繰り返しますが、Revolutionは本当にクオリティの高いModです。Portalが好きだった人ならパズル部分にまず不満を抱くことはないでしょう。
 しかし……最後までプレイした私は肩透かしを食らったような気分でした。
 端的に言って問題はストーリーにあり、全体的に既視感を覚える展開が多くほぼPortal 2の内容と同じでは?と思う場面が多かったのです。以下に列記します。

  • 全体的なストーリー:人格コアStirllingと協力して脱出を計るも後に裏切られ、別の人工知能Conlyを味方につけて対決する。Portal 2のGLaDOSとWheatleyとの関係性、その変化が似ている。

  • 中盤

    • 施設地下にテレポーテーションする。Portal 2のチャプター6と似ている。

    • 人間の心をコピーした人工知能Conlyが登場し、彼女と協力して地上へ戻る。GLaDOSの出自、Portal 2のチャプター6、7以降の展開と似ている。

  • 終盤

    • Stirlingが施設を危機に晒すため、主人公とConlyが彼を止める。チャプター9と似ている。

    • 主人公は月面へテレポーテーションする。チャプター9と似ている。

 Revolutionは2との相違点も当然ありますが、ことあるごとに2を思わせる展開が起こるためどうしても意識せざるを得ません。
 これは過去の名作Modにも共通して起きており、大目的が施設の脱出である点、ラストバトルで人工知能と戦う点など、どうしてもストーリーが「Portal」「Portal 2」に似通う傾向にあります。これは一体なぜなのか。

 思うに、ValveがPortalの続編を作らない理由もここに重なるように私には思われます。Portalシリーズの設定が、語り得る物語に制限を生んでいるのです。

「悪の研究施設」ゆえに

 Portalシリーズの舞台であるAperture Scienceは、簡潔に言って非人道的な研究組織です。被験者は血液をガソリンに置換され、カマキリの遺伝子を注入され、人体に有害なジェルと隣り合わせでのテストを余儀なくされました。その人命・安全軽視の行き着く先はPortalシリーズを遊んだ方はご存じだと思います。
 主人公のChellはもちろんですが、Chellを殺そうとするGLaDOSもまた研究の犠牲になった人物と言えるでしょう。Apertureという場がいわゆる「悪の研究施設」であることは疑いようがありません。

 このような場所でテストを強要される被験者=プレイヤーは、やがてこの施設に不信感を抱くようになります。事実、PortalもPortal 2も主人公は最後に脱出するエンディングを迎えており、プレイヤーはこの結果に満足感を得ます。
 これは、逆に言えば主人公が人間である以上、Apertureからの脱出やApertureを管理する人工知能との敵対が避けられないとも言えます。

 したがって、もし今後PortalのMod製作者が同じようなストーリー展開を避けたければ、少なくとも以下の項目から1つ以上は選択する必要があるでしょう。

  1. 主人公を人間ではないキャラクターにする

  2. プレイヤーがAperture Scienceに肯定的な感情を抱けるストーリーを描く

  3. Aperture Scienceではない場所を舞台とする(Black Mesaとか)

 古参のファンからは批判されるかもしれませんが、少なくともMod
のマンネリ化は避けられるはずです。

※余談ですが、Revolutionとはまた別の開発陣が製作中のMod「Portal 2: Desolation」の主人公はAperture製サイボーグ技術で回復したバックグラウンドを持つようなので、上記の問題を解消した作品となるのかもしれません(もっとも、Apertureの実験で負傷した、となると話は変わりますが)。


 Portal 2の発表から10年以上経った今なおシリーズファンは根強く存在し、今後も多くのModが公開されることは想像に難くありません。Mod開発者の熱意と技術に改めて敬意を表すると共に、彼らがPortalを補完するに留まらない自由で挑戦的な物語を紡ぐことに期待したいです。




オマケ
Aperture Desk Job」の感想もどき書いてます。こちらもぜひ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?