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すみれの雨

「雨だねー」

「ねー、雨だ」

一面の雲から線のように雨が降りそそぐのを、双子の姉妹デルタとシータはこうして朝からずっと、窓におでこと両手をつけて眺めているのでした。

なんだかおかしな天気でした。雲は分厚いのに、その奥から差し込む光が乱反射してやけに明るいのです。

それがおもしろかったのでしょう、息でくもった窓をときどき手で拭いては、ふたりは飽きもせずにずっと空を見ています。

「雨って、何色なんだろうねえ」

デルタが言いました。

あるいは空の明るさがへんなせいもあるのでしょう、細い雨粒は光のあたり具合で色を変え、見ようによって何色にも見えるのでした。

「デルタには何色に見える?」

シータは聞き返します。デルタは目を細めたりわざと窓から離れてみたりしながらじっくり雨粒を見て

「すみれいろみたい」

と言いました。

「すみれいろ!」

シータはそれを聞いてうれしくなりました。ご近所に住むおしゃべりなジョセフィーヌさんがこのあいだ持ってきてくれた、すみれの砂糖漬け。あの宝石みたいにきれいで夢みたいに甘くておいしい素敵なお菓子のことを思い出したのです。今日の雨は、たしかにうすむらさきのあのキラキラと似ていました。

空もそっとふたりの会話に耳を傾け、デルタがなんと答えるかを聞いていました。すみれいろの雨と言ってもらえたのがうれしくて、ふたりのためにほんの少しの間だけ、空はほんもののすみれの花を降らせました。

むわんと湿った空気がたちまち甘い香りにつつまれます。砂糖漬けのすみれの雨は、それはそれは優しく町中を淡いむらさきに染め上げました。

でもそれはあまりに一瞬のできごとだったので、町を歩く人々は、傘の上でコツンと跳ねたその花に気づくことはありませんでした。じっと窓の外を見続けていたデルタとシータだけが、すみれの花の雨が降ったことに気づいたのです。

「うわあ」

「いまの、お花だったねえ」

「すみれだね」

ふたりは顔を見合わせてクツクツと笑いました。

それから、空とふたりの、「雨が何に見えるかごっこ」がはじまったのです。

シータがドロップスに見えるといえば空からは一瞬色とりどりのドロップスが降りましたし、デルタがビーズみたいといえば雨粒はビーズへと早変わりしました。

その瞬間たまたま空を見上げていた人も、こんな空模様の下では「まあ、へんな色や形の雨が降ることもあるか」と思いました。

デルタとシータと空だけが、このひみつの遊びを楽しんでいたのです。

やがて遊びつかれると、どちらともなくふたりは窓にもたれかかって寝息を立てはじめました。

テディベアにとびだす絵本、ブリキの車にクッキー、グミ、チョコレート。大好きなものが空から降りそそぐおそろいの夢の中で、ふたりの遊びはまだ続いていたのでした。


***

雨のことすみれいろって思ったのそしたら雨がすみれになったの

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