【読書】猫との邂逅
昔うちにいた猫は、媚びないのに甘え上手。一匹狼だけど義理堅いそんな子だった。
そんな猫と暮らした経験があるので、猫タイトルになっている本を見るとつい、買ってしまう。
私にとって読書に寄り添って欲しいのは断然猫だから。
夏木草介 『本を守ろうとする猫の話』 小学館文庫
同居していた祖父が亡くなり1人になった林太郎。
祖父の古書店の店先に立つおりに訪れてきた言葉を話す虎猫に出会い、冒険の扉が開かれる。林太郎にとっては大冒険だが、冒険慣れした読者にはちょっと物足りない。でもそれでいい、これは林太郎の心が癒されて開かれていく物語だから。
後半、林太郎がトラ猫とどこかで出会ったことを思い出したシーン。ページを捲る手を留めて考え、その猫がどこから来たのかに思い至った時、私にとってこの本の価値がぐんと上がった。かつて私も同じ本に出会い、人生の辛い時を乗り越えて今も支えられている経験を持っているから。物語の中ではなんの本に出会ったかは書かれていないけれど、きっと誰もが出会ったであろう猫だ。
古書店が出てくる小説には必ずと言っていいほど古典が紹介されている。私にとって高校生くらいまで古典というのは楽しむものではなくて、学校の勉強の課題だった。先生がいくら古典はおもしろい!と熱弁して『あさきゆめみし』をお勧めしてくれたところで私の興味は漫画なら『僕の地球を守って』や『BANANA FISH』の方だったのだ。
あの頃にもっと古典に親しんでおけばと思うこともあるけれど、大人になってから知るのも遅くない。古典の内容の普遍に気がつくのはむしろ妙齢になってからなのではないかと思っている。1000年、500年、100年前という今からあまりにも遠く隔たる過去に生み出された文章。そこに共感し、感動し、時に笑って、心救われる。そんな体験が古典でできると気付いたのはもう30代になろうかという時だった。
先日安住紳一郎さんのラジオを聴いた時(過去の放送)同じことを彼が言っていた。1000年前の人と同じ気持ちになれる。
その時紹介されたのが
世の中のたえて桜のなかりせば、春のこころはのどけからまし 在原業平
1000年も前の人が桜をみたのと同じ気持ちで現代の我々も桜を思う。
私は日本の桜を眺めることさえなかなか叶わないけれどこれから1000年も2000年もずっと、春になったら桜が咲いて人々が平和にそれを愛でる世の中であって欲しいと思う。
日常すらおぼつかない私にはちょっと壮大すぎる話ではあるけれど。
まあ、そんなことを思い出しながら読了後の清々しさを噛み締めて。
次はどんな本を読もうかと思いを巡らす。
猫繋がりで、昔読んだこの本を探してみようか。