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【小説】二人の食卓 2 彼の場合



最近、暖かい日が増えてきて昼には半袖でもいいぐらい暑くなる日も出てきた。
今日も昼ごろには気温が高くなりそうだなと考えてると、ふと昨日同僚が言っていた
「そろそろビールに餃子が美味しい季節になってきましたね」
と言う話と週末の買い物の時に材料を買ってたのを思い出し彼女に
「今日、餃子が食べたい」
とリクエストした。
「わかった。」
と返事はかえって来たが、彼女の目線は僕ではなく朝の情報番組に釘付けである。
毎朝の星占いを見るのが日課である。
食い入るように見てるその姿がかわいい様なこちらを向いてほしい様なそんな気になり、彼女が作ってくれたハムエッグを食べつつ
「毎日、よく飽きないよね。」
と声をかける。
彼女の星座が1位で呼ばれる頃には僕は食べ終え家を出る準備を始める。
「いいでしょう!一位よ。『思い切った決断が新しい発見に』ですって」
満面の笑顔で報告してくれる。
彼女の笑顔を作ってるのが星占いとはなんとも複雑な気分で
「良かったね。でもそろそろ準備しないと遅れるよ。」
と声をかけた。

「いってらっしゃい、行ってきます。」
声を掛け合うと、触れるか触れないかのキスをした。
彼女はふわりと笑ってから自転車に乗る姿を見送り会社へと急いだ。

思いの外、仕事が早く片付いたので『今から帰ります。』とメッセージを送り家路を急いだ。
「ただいま」
そう言ってドアを開けるといい匂いがした。
しかしいつもの餃子の匂いとは少し違う気がした。
「おかえりなさい。丁度焼き上がった所だから早く食べよう」
そう促されて部屋着に着替えるがなんだか少しバツが悪い顔をしてたのが気にかかった。
食卓の準備を手伝おうとしていると
「一つご報告が…実は今日の餃子にニラが入ってないです。」
どうやらさっきの顔はそれが原因かと思いつつ
「そうなの?でもいい匂いしてるよ。とりあえず食べようよ。後はお茶碗出したら終わり?」
こればっかりは食べてみないとわからないなと思い食卓の準備を急いだ。

「いただきます。」
見た目は特にいつもの餃子と変わりがない。
食べようと一つ取ると彼女がくいいるように見ている。
そんなに見つめられると食べにくい。
なんだか自分が朝の星占いになった気分である。
そんな中食べると美味しいのだがちょっと物足りない気もする。
そして彼女は相変わらずこちらをみていて気恥ずかしくどんな表現をしていいかもわからずその視線から一度のがれたくて調味料を取りにキッチンへ足を運んだ。
何かが合うかよくわからずとりあえず目についた物を持って食卓へ戻った。

「餃子のタレよりもっと合うものがありそう。」 
そう彼女に声をかけると
「へ?」
っとまさに鳩が豆鉄砲を食らうとはこのことだなと思わせる反応をみせた。
「色々試してみたくなったんだよね。これとかどう?」
新しい味に出会いそうなワクワク感がたまらなく彼女にも勧めてみた。
あまり気乗りしていないのか彼女が
「美味しい?」
と少し怪訝そうに聞いてきたので
「どれも悪くないけど決定打にかけなぁ。食べてみなよ。」
こういう物は百聞は一見に如かずである。
食べてみると表現がみるみるうちにやわらいできた。
「ホントだ。悪くないんだけどなぁ…そうだちょっと待ってて」
そう言って楽しそうにキッチンへ何かを取りに行った。
戻ってきた彼女の手には明らかに海外のデザインの謎の調味料が握られていた。
「これどうかな?海外のやつ。辛いけど美味しいよって言ってたけど」
「なんか美味しそうなのが出てきた。チリソースっぽい?」
これまた興味をそそる一品である。
お皿に出して餃子につけて食べてみる。
確かに辛味があるが美味しいしかもこれによく合う。
「これ辛いけど美味しいよ。これが一番合うよ。でも君には辛すぎるかも」
美味しいが辛いものが苦手な彼女に勧めるのはどうだろうと考えてあぐねてると、そんな心配をよそに食べた。
「美味しいのはわかるけどめっちゃ辛い。沢山食べるのは無理かな。そんなによく食べれるね。」
と言いながら慌てて水を飲んでいた。
「そんなに辛いものが強いとは思わなかった。」
「そんな強くはないよこれ以上辛くなったら無理かな。」
彼女にしたら意外だったらしい。
確かいままで二人で辛いものを食べる機会がなかったからこれが初めてなのかもしれない。
とりあえず僕はこのままこのソースで食べすすめる事にした。
「餃子のタレにちょい足ししたら美味しくならないかな?」
と追加で調味料を取ってきて色々試して食べている。
試すたびに口角が上がったり眉間にシワが寄ったりとまさに百面相である。
「いい組み合わせあった?」
「これ中々美味しいよ」
と勧められて食べてみると中々美味しい。ちょっと悔しくなって
「ホントだ。僕もアレンジしてみよう」
アレンジに乗り出した。
お互いがとっておきと思うもの勧めては批評しあう。
味の好みも違うから全く合わないものあればこれは!と思うものあったがそうこうしているうちに餃子を全部食べ尽くしてしまった。

「ごちそうさま。なんだかんだ美味しかった。」
そう言って食卓に並んだ調味料の入った小皿たちを片付けはじめた。
少しやり過ぎてしまっだろうか。
「よくわからないうちに全部食べたちゃったね。」
と機嫌よく片付けをはじめた彼女をみて安心した。
「今日は貴方の意外な一面が見れたりタレをアレンジしたり新しい発見がいっぱあって楽しい一日だったわ。」
そういえば朝の占いもそんなようなことを言っていたと思い出た。
「朝の占いも意外と当たるものだね。」
と言うと彼女はとても驚いた表現をみせた。
僕が覚えている事が意外だったようだ。

コロコロ変わる表現の君といると人生がとても楽しい。

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