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「オリックス・バファローズの吉田輝星」はどこが変わったのか_vol.2【補足/ストレート編】
前回は吉田輝星投手の移籍初年の2024シーズンの内容をおおまかに振り返り、移籍前と変化がみられたものについて検討しました。今回はそのなかでもストレートに焦点を絞り、その変化をもう少し掘り下げて前回の補足とします。
指標からわかること
それだけではない、とは分かりつつも、吉田投手のプロ野球選手としての核は、やはりストレートであるとわたしは考えています。今季の投手としての成長を確かめるには、そのストレートの検証は欠かせません。
そこで今季のストレートに関する各指標をみると
ストレートで与えた四球が少ない
ゴロが多い
長打が少ない
といった特長が浮かび上がります。つまりtRAの値が低く、失点のリスクの低い投球ができていたということでしょう。
どれぐらいtRAの値が低いかというと、パ・リーグの投手100人(ストレートの投球10イニング以上)中、3番目に低い数値です。過去5季からすると、飛躍的に向上しました。
なぜ今季はそのような投球ができたのか。その要因を知りたくて、投球チャートを基に投球内容を探ることにしました。なお比較対象には、今季と同様、本格的に変化球の投球割合を増やした2023年を用います。2023年はほぼ二軍での登板に終始しましたが、将来的にこういうピッチングがしたいのだろうとおもわせるようなものが投球に表れていたような気がします。
制球
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〔図1〕は2024年と2023年の投球チャートです。2023年はストライクゾーンの真ん中高めを中心として、投球割合の高いゾーンが分布しています。高さ、コース、いずれも打ちやすそうな(タイミングが合いやすそうな)場所に分布している印象です。
それに対し、2024年はストライクゾーンの際に投げ分けられているような分布を示しています。打者の内外、容易にはタイミングを合わせられなさそうなコースです。特に、大事と言われる右打者の「アウトロー」をはじめ、低めへの投球割合が増しています。2023年はゾーンの低めを狙って投げたものの、制球し切れずゾーンを外しているような印象を与える分布です。
入団以来、低めにストレートを投げることは常に意識してきたとおもわれますが、今季はそれをだいぶ実現できたようです。ストレートを低めに投げるとストレートでの空振りは減りますが、ストライクゾーンからボールになる変化球と軌道が合いやすく、その変化球で空振りを奪えるようになるのではないかと考えます。実際、今季のボールゾーンのスイング率は過去5季より高いものとなりました。
またその結果、低めのストレートで効率よく、見送りのストライクカウントを稼ぐことができていたようです〔図2〕。
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ちなみにストレートに限ったデータではありませんが、見逃しストライク率が高いのも吉田投手の特徴です。低めにストレートが決まりだせば、なかなか打者としては手が出しにくくなり、カウント的に打者を追い込むのも比較的容易になのではないでしょうか。
球速
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次に、コースごとの球速の内訳を見てみます。〔図3〕はコース別のストレートの平均球速です。全体的な球速の違いはもちろんありますが(2024年:145.6km/h、2023年:142.6km/h)、なによりストライクゾーンの内外での球速差の違いが顕著です。2023年はゾーン内のほうが球速が落ちており、制球するときは球速をある程度セーブしていたのではないかと考えられます。一方、2024年はゾーンの外との球速差はほとんど見られません。力みすぎてゾーンを外したりする場面なども、あまり目にしなくなった印象があります。
プロ6年目にして、ようやく制球と球威の両立ができつつあるのかもしれません(一軍レベルで)。このハードルがとてつもなく大変であるということは、ただ見ているだけのわたしにも十分伝わってきます。
奪空振り
縦変化量の大きいストレートは「空振りのとれるストレート」と言われますが、はたして吉田投手の2024年のストレートはどうだったのでしょうか。
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今季は、空振りのとれる高めのボールゾーンへの投球自体が多くはありませんでした。その理由は分かりませんが、イニング途中で走者のいる状況から登板することが相当数あったのも、影響しているかもしれません。高めはうまくいけば空振りを奪えますが、少しでも高さを間違えると長打になりかねず、走者を還さない場合のリスク回避として高めを避けるケースがあったとも考えられます。
実際投じた高めのコースの空振り率をみると〔図4〕、値の高いゾーンがここでも”際”に集まっています。吉田投手の平均球速では、空振り率が8%程度超えるようであれば優秀とみなせるよう〔図5〕ですので、そういうゾーンがあるのであればそれほど悪い結果ではないと考えます。
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ちなみに2023年のデータに関しては、二軍の打者はがむしゃらにストレートを振ってくる印象があるので、あまり比較対象としては相応しくないかもしれませんね。
おわりに
移籍の発表からちょうど1年。日刊スポーツプレミアムの田村藤夫さんの当日の記事を読み直しました。
吉田がオリックスで才能を開花させられるかどうか、その鍵はひとえに真っ直ぐの球質にかかっている。
どうだったんだろうな、とおもいあらためてストレートに関してまとめてみました。球質そのものは画面越しに見るだけの身にはわかりようもありませんが、投げた結果を寄せ集めて、その一端を窺い知ることはできます。まだ”開花”を目指している過程ではありますが、一歩一歩前進していると感じました。それは今までもそうでしたし、これからも同じだとおもいます。
石の上にも三年、ですね。
今回もお読みくださり、誠にありがとうございました。