おもしろ 新人看護師
こんにちワン
前回は看護学校卒業まで話終わりました。そろそろ題名をちゃんと考えたいところ…。
今回は看護師デビューしたカトについてお話しますが、かなり苦い内容で面白おかしくできないかもしれません。
ネタバレですが新人時代、休職しています。
書いてみて心の整理ができたらよいなと思いますが…。
第一希望 “消化器外科”
配属先ってどうやって決まるんだろう。
実習の指導者や教員は、私の性格や成績を踏まえてICUが良いと思うと言っていた。
ICU(集中治療室)は、生死が直結してる場所だ。
新人がかなり病みやすい場所。特殊な場所なので、見学さえしたこともない。
私の就職先は急性期、慢性期、回復期、手術室、ICU、全部そろっている。
私は配られたプリントにはICUとは書かず、消化器外科、循環器内科、脳外科の順番で記入した。
結果、第一希望の消化器外科に配属が決まった。
急性期の病棟だ!
嬉しかった、身体のなかでも消化器が一番好きだ。
口から肛門まで全部繋がっていて、食べ物が色んな消化液で栄養素に変わったりウンチになったり。
消化器系の病気によって臭いや肌の色が変わったり、ドレーンから出る消化液の色も変わる。検査の値も極端に変わる感じがする。目で見てわかる感じがとても興味深かった。
消化器外科は実習でも1度行ったことがある部署だった。
ちょっと暗い、先輩もピリッと厳しい。
同じ看護師として仕事をすれば変わるのかなと思っていた。
同期はほかに2人。
同じ学校の社会人、ミタさん。
違う学校の二十歳、ウエムラちゃん。
ミタさんは学校でもみんなのお母さんみたいな人だった。
人として出来過ぎ、成績もとても優秀な人。
ウエムラちゃんは高校から看護師科。
一番早く資格が取れるルートの子だ。
どちらもデキる人で、置いていかれる不安と心強い安心感が入り混ざっていた。
とんでもなかった配属先 “みんな敵”
新人はどの部署も大半が同じように育てられる。
重症度の低い患者さんから受けもって、だんだんとレベルを上げていく。
私たちのゴールは、術後患者や急変しやすい患者、人工呼吸器をつけた患者さんを受け持てるようになること。
最初は術後経過も良く、自分で歩ける患者さんから受け持っていた。
日によって、受け持ちの日、検査出しなどの外回りの日、入浴介助の日、大体三つの業務を回して行く。
また、新人看護師には一人ずつプリセプター看護師が割り当てられる。
4年目くらいの看護師が新人のメンタルや技術をフォローする制度だ。
この人たちは他の先輩たちより細かいフォローをしてくれる。
師長→主任→プリセプター総まとめ看護師→プリセプター→私たち新人という風に伝達がある。
プリセプターの先輩たちは、しばらくの間私たちの指導のためにがっつりついてくれた。
ただ、薄々気づいてはいたけど、先輩たちはとても怖い。怖いというか感じが悪い。
私たちは先輩に見限られないように、必死で周りのスピードについていった。
パソコン操作は2回も同じことを聞かないようにしていたし、部屋持ち業務は時間内に終わるように頑張った。
みんな評価はそれなりだったと思う。
今の2年目より出来が良い、とよく言われていた。
最低ではないことは確かだった。
部屋持ちをして数週間経ったと思う。
新人の私たち3人、病棟自体の人手が足りなさすぎて入浴介助や検査出しは一度もしたことがなかった。
他病棟の同期にぼやいたら、それってキツすぎないか?おかしい気がする、とか言われたとおもう。
確かにキツイ。
ずっと気は張っている感じだった。
1日でも入浴介助があれば、その日はスピードに追われることはない。検査出しも部屋持ちよりかは幾分ましだ。
何でこんなに人が足りないんだ?
単純に人手不足もあったのだが、問題は一個上の先輩にもあったと思う。
バイタルサインを嘘ついて報告したり、同じようなことをしでかして部屋持ち担当を外された先輩スタッフが2人いたのだ。
血糖測定をせずに架空の数値を入力していたと聞いた。
消化器外科でそれはあり得ない。
その先輩たちが部屋持ちを出来ない分、私たちがカバーしているような感じだった。
1日が過ぎるスピードはかなり早く、私たちはあっという間に中等度の患者さんを受けもっていた。
大きな処置をしたり、手術後の患者さんは急変もしやすい。
この頃から私の体調はすでにちょっとおかしかった。急にドキドキする。
ただ新人ってとても病みやすいし、どこか一線を抜けたらそれも治るだろうと思っていた。
よくある話だ。
原因は明白だった。急変するかもしれない患者さんを受け持っていたプレッシャーや、先輩に頼ることができない状況にあった。
みんな、あからさまに冷たい。
『カトの担当、ストマのパウチが外れてるよ。』
男の年配看護師に急に言われた。
ストーマパウチ。
うんちをお腹の表面から出す人が貼ってる便のバッグのことだ。
外れているということは、うんちがそのまま外に流れている状態だ。
これって認定看護師が触らないとうちの病院では怒られるやつ。
先輩は言うだけ言って、逃げるように去る。
『私、見たことないので処置の仕方を教えていただけませんか?』
わからないことはできない、当たり前のことだ。
先輩は不機嫌そうに必要な道具をテーブルに投げ捨てる。嫌な感じだ。
私が何かしたのか?何がダメなのか?なんで不機嫌なのだろうか。
『呼吸器をつけてる患者なのでオムツ交換一緒に入っていただけませんか?』
今度は若い男性看護師、明らかに不機嫌な顔だった。
「お前今一人でしようとしなかったか?なんで一人でいるんだよ。」
いやいや、できるわけねぇだろ。
腹水でぱんぱんのお腹、大きな人工呼吸器に繋がれている患者。
先輩が患者のお尻を拭く作業に入ったので私の方に患者を向けようとした。
「触るな。」
本当に意味がわからなかった。何に怒っているのかもわからない。触るなってなに?
人工呼吸器に触るなということか、と患者を私の方に向けた。
「触るなって」
とにかくコミュニケーションが下手すぎる。
結局なぜ拒否されたのか分からなかった。
そんな意味がわからない指摘や罵声が毎日続いた。
女性看護師はもっと最悪だった。
反対側の廊下で看護師の介助が必要な回診があるときは呼んでくれたらいいのに、呼ばない。
終わった後に呼び出して執拗に怒られる。
意地悪だ。
新人は最初は何もできないけど、言われたことはできる。
悔しかった。
「悔しいね、頑張ろうね、後輩にはこんなことがないように私たちが踏ん張ろうね」とミタさんと話していた。
人手も足りないし自分たちも頑張らないと。
謝る毎日だった。
せめて笑顔と挨拶は絶対にしようと思って、明るく振る舞った。
それもあって今年度の1年は愛想が良いとか言われていた。
内服監査や配薬も新人が率先して行う。
ただ、内服監査も本当にわかりづらい。
いろんな業務をこなし気づいていたが、病棟全体のシステムがかなりずさんなものだった。
配薬するためにチェックする薬の情報も期限が切れているものだったり、薬ファイルに書かれている部屋番号もぐちゃぐちゃ。
全ての薬を配り終わるのに30分は余裕で掛かっていた。
その間に他の先輩はオムツ交換に回っていて、『まだ配薬終わってなくなーい?』と聞こえるように言われる。
ある日、同期のミタさんは患者を間違えて薬を配ってしまった。
彼女のその時の焦りようはすごかったが、それが起こる前から『薬のファイルが見にくいので見やすいようにしたいです。』とミタさんは先輩たちに相談していた。
ミタさんはこの病院での介護士経験がある。
本当に全体の管理がやばいと思ったのだろう。
先輩は呆れた感じで「やりたいならやれば」「勝手に変えないで」とどっちつかずの返答をしていた。
さらに先輩達は、薬を配る時に監査やダブルチェックはしていなかった。配ったあとにカルテ上の実施ボタンだけ押して終わらしていた。それなら余裕で10分もあればおわる。(システム上、薬がズレるので絶対にタブーなのだが)
ミタさんは泣いていた。
師長は表面上ミタさんを慰めていたが、裏では『あんな人に任せられない』『なんで間違えるんだろう?』と怒っていた。
本当に最悪な病棟だった。
誰も味方がいない、信用できる人がいない。
1年目が関わるスタッフのなかで、ミタさんのプリセプターだけは優しかった。
男の先輩で、その人はちゃんと話を聞いてくれる人だった。
ある日新人全員、その先輩から呼び出された。
『みんな、ごめんけど先輩たちから苦情が来てる。残業の取りすぎって言われてる。全部が遅いんだけどどうなってるか教えて。』
は?終わらないのは、教えてくれないからだろ…!とつっこみたかった。
呼び出されたその個室には意地悪な女の先輩がパソコンで記録を打っていた。
話を聞きたかったのだろう。
ガン患者の次の日のカンファレンス準備が分からなったり、認定看護師に提出するファイルの準備など新人にはできないのに任せられていた。あとは単純に記録が終わらない。
全部やってたら終わらない。やり方を聞いてもみんな帰って行くし。
『人が足りなくて本当ごめん、負担が掛かってるのもわかる。』
『でもタイムカードは切って欲しい』
言いにくそうに伝えてきた。
あー。これは。
師長命令だ。
この人も被害者なんだ。そう思うともうそれ以上何もいえなかった。
私のプリセプター “ロボットみたいな女”
私のプリセプター。
史上最強に冷酷って感じの女の人だった。
私より年下で子持ち。
正論でしかものが言えず、出来ないヤツは人間として見ない。
私に関しては好きも嫌いもないようだった。
ベテランスタッフでさえ、その人がいう事にはなにも反論はしない。
その先輩は新人歓迎会は不参加だった。
子どもがいるからだろうが、その時だけはラインメッセージが異常に来た。
私を心配するというより、誰かを気にしている感じだった。まぁ、感じ悪い。
そんな私のプリセプターが、私の心をポッキリと折る引き金になる。