異界駅日記6『ゆ×××き×し』駅
2023/01/09
どうにでもなればいい、というやさぐれた気持ちで電車に乗ると、頭がぐるぐるして気持ち悪くなって、いつの間にか車両は延々とトンネルを走っている。
黒い窓の外を、いくつもの赤い線が爪痕のように走っている。
持っている頭痛薬を水なしで飲み込む。シートに身を沈めて小さくなっていたら、ようやくトンネルを抜けたようで、電車はゆっくりと停車した。
電車が少しも動く気配がないので、降りてバスを探そうと席を立った。ホームに降り立つと、駅舎といえるようなものはなく、屋根付きの待合室があるだけだった。
駅名はかすれて読めない。「ゆ×××き×し」とだけ読めた。
ぼろぼろの掲示板に子供の描いたポスターがある。「ふるさとまつり」と大きく書かれた下に「くるな」という文字があった。
今にも消えそうに点滅している電灯の下に、数えきれないほどの羽虫が死んでいる。何か分からないけれど、恐怖が迫ってきて、もう少ししたら私はおかしくなってしまう気がした。
スマホは圏外で、ホーム画面を開くだけで充電が15%ずつ減っていくので、しばらく触らずに温存することにした。
しばらく歩き回ったが、電話ボックスも見当たらない。ホームに戻ると電車は明かりが消えていた。電気が落ちたのかもしれない。当然扉も閉まったままなので車内には戻れなくなってしまった。
線路を辿ってもとの駅に行くか、待合室で朝を待つか。パーカーのポケットには、ほぼ使えないスマホと有線イヤホン、通学定期、筒井康隆の『笑うな』の文庫本一冊。
スカートのポケットにお昼にコンビニで買ったストーンチョコがあったので、とりあえずホームの椅子に座って食べた。
血糖値が上がったおかげか少し気持ちが落ち着いた。駅周辺に何かないかときょろきょろあたりを見回していると、遠くに月明かりに照らされたぼろぼろの学校らしい建物を見つけた。
小学校か中学校らしい。
スマホのライトをつけながら入り口まで歩いてみる。廃校らしく、割れたガラスや木片が散らばっていた。
開けっぱなしの昇降口の扉から校内に入る。
学校にはあまりいい思い出がない。いつも図書室だけが居場所だった。
一階ずつ部屋を確かめていくと、二階の端が図書室だった。窓から差し込んだ青白い月光が、朽ちた本たちを照らしている。
懐かしい本たちが並んでいる。『エルマーのぼうけん』、『はだしのゲン』、『銀河鉄道の夜』、『はてしない物語』……。
椅子をひとつ借りて、月明かりで本を読むことにした。こんな夜に似合うのは『銀河鉄道の夜』だろう。
この作品をどう読むかは人によってかなりの差があると思う。ミステリーでもあるしファンタジーでもある。私は宗教との関わりを軸に読むのが好きだ。
読み終えて、窓の外を見るとまだ夜だった。
この駅はどこにも行けないけれども、心の底から安心する場所だ。
突然駅の方角から発車のベルの音がした。
私は電車を見送った。