『大阪万博』と関係ない万博公園に、55年前の未来がある。

不思議な話を聞いた。
妻の大学時代の友人が大阪に用事があるというので、出かけた際の話だ。

その友人は、ランチを楽しんだ後に、万博公園に行きたいという。勝手を知る妻は、ああそうかと万博公園を案内したそうだ。とはいえ、この時期の万博公園に目玉のイベントがある訳ではない。それでもメインの太陽の塔を皮切りに小一時間ほど散策した帰り道、その友人がこう言ったそうだ。

「4月から始まるのに、万博の準備できてないみたいだね…」

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日本万国博覧会、通称『大阪万博』が開催されたのは1970年。今から55年前だ。来場者は6400万人というので、当時の熱狂は相当なものだったろう。その社会現象をリアルタイムで知る当時15歳～25歳の若者は、現在70歳～80歳位になっている。彼らが往年を懐かしみ、2025年日本国際博覧会に関心を持つのは容易に想像できる。なにしろ、その通称は1970年と同じ『大阪万博』だ。正式略称である『大阪・関西万博』と呼ぶ人はあまりいない。

そして、1970年の会場である『万博記念公園』の通称も『万博公園』。40代である妻の友人が勘違いする位だ。70歳以上、特に関西圏以外の人達による勘違いが多発する事は、あながち杞憂とまでは言い切れない。言うまでもなく2025年の開催地は、万博公園からはおよそ40kmも離れた人工島、『夢洲』だ。

いや、いざ本当に万博に行くとなったら、流石に直前で気づくだろう…と思ったがそうとも言い切れない。

例えば、大阪の『京セラドーム』のコンサートに行くつもりで、滋賀県の『京セラ前駅』に行ってしまう人が多いのは、よく知られた話だ。

スマホ世代ですらこの手の勘違いをする。

本当に間違えて、万博公園に行く人が、続出するかもしれない…

次のニュースです。今年4月に開幕した、大阪・関西万博で会場を勘違いする人が続出しています。そのほとんどは、70代以上の高齢者。かつての『大阪万博、日本万国博覧会』の記憶から、当時の会場である『万博公園』を訪れている模様です。主催である日本国際博覧会協会では、この状況に対応する為に…

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『えっ？大阪万博って万博公園でやるんじゃないのか…?』

TVのニュースを見て、軽い驚きを覚える。
大阪万博といえば万博公園だと思い込んでいたのだ。

危ないところだった。
来月、妻と大阪万博に行こうと話してた所だ。

関西で暮らす娘からスマホをプレゼントされたのは2年前。未だ電話しか使ってない。LINEというやつも、たまに孫からTV電話がかかってくる時に使うだけだ。娘がよく言う検索とか、ネットとかをしていれば分かるのだろうが、たまたまTVを見なければ、本当に万博公園に行っていたかもしれない。

今後の為にも、少しは検索というのをやってみるか…

どれどれ…「大阪万博」
パソコンもほとんど出来ないが、スマホで打つのは更に時間がかかる。

それらしき画面が出てきたけど、英語ばかりだな…

シグネチャーとかアンバサダーとか、デジタルウォレットとか何のことやらさっぱり分からない。

パビリオン？おお、万博といえばパビリオンだ。
何だか国が少ないな…

えっと、テーマはいのち輝く未来社会のデザイン？
未来か…そんなに未来感がしないのは気のせいだろうか？

その後も四苦八苦しながら画面を見たが、どうにもワクワクする感じがしない。そもそも私は何故、万博に行こうと思ったのだろう？

そう思いながら、スマホを見てると「日本万国博覧会1970」がでてきてる。当時の万博の事も、ネットには出てくるらしい。しかも大量に出てる。次々に押しては出てくる当時の解説や写真に、すっかり引き寄せられる。そう、コレだよ、これ。55年前なのに、こっちの方が未来感がある…

『55年前なのに…？』

記憶が少しずつ蘇る。

そうだ…。行けなかったのだ。

SFやデザインが大好きだった私は、万博の先進性に強く惹かれた。日本中が万博に熱狂してたが私も例外ではなかったのだ。とはいえ、北関東から大阪は遠い。お世辞にも裕福とはいえない家庭の事を考えると、万博に行きたいなど言えるはずもなかった。

でも見たかった。
行きたくて行きたくて、仕方がなかった。
日本館のリニアモーターカー
アポロ11号が持ち帰った月の石
ソ連館の宇宙船や人工衛星
サンヨー館の人間洗濯機…

それは高校生の私にとって、自身の未来そのものに思えた。

そして、なんと言っても一番見たかったのは…

＊

突然、持ってたスマホが震えて出して我に帰る。
娘から電話だ。

「もしもし？お母さんから聞いたんだけど、大阪万博行くんだって？」

「うん。万博公園に、2人で行ってくるよ」

「あ〜やっぱり！電話して良かった〜。違うのよ。大阪万博の会場はね…」

わかってる。『大阪万博』の開催地は、夢洲。
現在の万博公園は、ただの公園だ。

「知ってるよ。TVでさっき見たから…」

「エっ？じゃあなんで…」

娘が不思議に思うのも、無理はない。
自分ですら、すっかり忘れてたのだから…

「太陽の塔を、見たいんだ」


そこに、55年前の未来がある。