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(第22回) でべそのすべて その③ 巨大臍ヘルニアの真実

(第21回) でべそのすべて その② 臍の圧迫療法 からの続きです。
前回から段々熱くなってまいりました!
臍の圧迫療法でどれだけ「治る」のか。
これまでの報告のあまりのばらつきっぷりに、がぜん好奇心が刺激された僕は、自分で調べてみることにしました!

今回の内容は、第44回日本小児消化器栄養肝臓学会などで発表した内容が多く含まれています。
(ちゃんとした研究なので、途中からちょっと有料になります)

復習ですが、


臍ヘルニアではない

この子たちは小児外科の外来におへその形を治してほしくて相談に来た子たちです。
ヘルニア門は閉鎖しているため、厳密には臍ヘルニアではありません。つまり、臍ヘルニアが自然治癒した、もしくは圧迫療法により治癒した…と判断されています。
でもこれで「臍ヘルニアは治ったよ」と言われて、納得する親は少ないのではないでしょうか。
更にですが、この子たちは体表から臍が突出しているかと言われると、左はギリギリ突出している程度。右は突出していませんので、報告によっては「きれいに治癒した」とされるおへそになります。
えー…(不満げ)。

はい。
きちんとした研究というのは、このような齟齬による不満を解消するためにあるのだと僕は思います。
なので、研究のデザインを考えました。

まず、なんでこのようなへそを「美しくない」と感じてしまうのか。
きちんと凹んでいないことだけでなく、サイズが大きいですよね。

世の中には日本人の臍のサイズを計測した論文とか、臍の形態を分類した論文というのがあります。主に形成外科の論文ですね。
すると、日本人の臍の横のサイズは平均16mm
縦のサイズは赤ちゃんの時は短く、成長と共に臍の上側が伸びていくのに伴い、縦に長くなっていきます。
なので、赤ちゃんの頃は臍が横長の子が8割なのに対し、大人になると縦長な臍の人が多くなるんですね。
つまり臍のサイズは横が変わらないので、横径で判断したほうがいいということが分かります。
この横のサイズの名称ですが、僕は最初「臍輪横径」と発表していたのですが、日本小児へそ研究会で物言いがつき、「臍輪」は解剖学的に臍の裏の輪っかの部分だから別な名称にしろと言われました。
そこで、僕が別な言い方を決めていいということになりましたので、学会においては臍の外表の周囲を「臍縁」と呼称し、その横径は「臍縁横径」と呼称することになりました。
余談ですが。

この臍の横のサイズである臍縁横径ですが、平均が16mmですので
だいたい20mmを超えると「このヘソでかいな…」「美しくない…」と感じるようです。
ここは主観です。
しかし、この主観に基づき、
坂本好昭,鎌形正一郎,広部誠一,他:巨大あるいは余剰皮膚が多い臍ヘルニアに対する臍形成術の 工夫.小児外科,42: 527-531, 2010.
という論文で「臍の横のサイズが20mm以上を巨大臍ヘルニアとする」として検討が行われていましたので、僕もそれにのっとって、
臍縁横径20mm以上を巨大臍ヘルニアと定義することにしました。

そして、特に困った症例ばかり集まるような小児外科の施設において、
「巨大臍ヘルニアは、圧迫療法でどのくらい“完全に”治癒するのか?」を調べる研究を行いました。
小児外科に紹介になった、巨大臍ヘルニアのあるお子さんで、圧迫療法治療の同意が得られた方への観察研究です。
もちろん、生後半年を過ぎてからの圧迫は効果が薄いので、半年を超えてから紹介になったお子さんは除外です。

治療効果の判定方法は
① ヘルニア門の閉鎖 はもちろんのこと、
② 臍縁横径が20mm未満
③ 立位で臍が体表面より突出していない(余剰皮膚がない)
の3つすべてを満たすものを「完全治癒」と定義しました。
あ、ちなみにこんな定義で研究をした医者は当たり前ですがこの当時僕だけです。
名称から臍ヘルニア治療の判定基準まで自分でオリジナルで作り上げ、やりたい放題ですね(あふれ出るヘン〇イ感)。

効果判定の写真を出しておきましょうね。


治療効果の判定写真

どうです!この巨大臍ヘルニアの数々!
一口に臍ヘルニアといっても、こんな大変なお子さんもいるんですよ。

実際にこのように治療をしたお子さんの数ですが、全部で37例です。
性別比は 男の子:女の子=21:16
初診時月齢(修正)平均  1.6±1.5カ月
初診時の臍縁横径は平均で  28.8±5.7mm
初診時のヘルニア門のサイズは平均で  9.0±4.4mm
平均圧迫期間は  12.2±6.7週
有害事象としては、中等度以上の発赤が5例と、化膿を伴う皮膚剥離を2例で認めましたが、治癒後に再度圧迫を開始し、治癒するか6か月になってあきらめるかで完遂しています。
有害事象で「やめた」となった人はいませんでした。
ちなみにですが、この研究の同時期に、もちろん臍縁横径20mm以下のふつうの臍ヘルニアの人もそこそこ来院されましたが、圧迫で100%きれいに完全治癒しました。
まあつまり、みんな困るのは巨大臍ヘルニアがほとんどってことですね。
これがわかっただけでも、この研究は非常に意義深いです。

さあ結果ですが、
さすがにここから有料です。

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僕の有料記事の売り上げは、基本的に広島大学病院小児外科において小児がんの研究のための基金として使用させていただきます。
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