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(第11回) 【小児外科医の論文解説】小児の鼠径ヘルニア 後編

【小児外科医の論文解説】小児の鼠径ヘルニア 前編からの続きです。

前回で小児の鼠径ヘルニアの解説を行い、
最近では

Takehara H et al: Laparoscopic closure for cantralateral patent processus vaginalis of groin hernia in children—a new technique—. Proc Pac Assoc Pediatr Surg, 1: 70, 1997
嵩原ら:小児鼠径ヘ ルニアに対する腹腔鏡下手術―LEPC法―.外科治療,86: 1005-1101, 2002.
嵩原先生が報告した「LPEC法」による腹腔鏡での鼠径ヘルニア根治術が多く行われていることをお話しました。
僕も原則全例。この方法で手術しています。

昔は否定派も多かったこの手術法。
なぜ日本中に広まったのでしょうか。

<LPEC法のいいところ>
まあ、身も蓋もないことを言うならば、保険点数が高いことも理由の1つです。

K634 腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術(両側)22,960点
K633ヘルニア手術 5 鼠径ヘルニア(片側)6,000点
診療報酬は改定されていきますし、ここに全身麻酔の加算など加わります。
また、腹腔鏡手術にはもちろん多くの器材が必要ですので単純ではありませんが、腹腔鏡手術のほうがお高い。鼠径ヘルニア両側手術しても6000点×2で12万円にしかなりませんので、相当な差があることになります。

とはいえですね。
「保険診療になっている」ということは、それまでに十分に安全性や効果に関して議論がなされ、国に認められているということです。
かなり大変なんですよ。保険診療に認められるって。
LPEC法はその安全性(合併症、手術時間、再発率などがこれまでの手術法と比べてそん色ないかなど)などがきちんと評価され、数多くの論文が発表されています。
嵩原先生すごいですね。

そうそう、LPEC法の利点の話でした。

これまでの様々な鼠径部切開の術式には、1つ大きな問題がありました。
「対側出現」です。
これは、例えば左側の鼠径ヘルニアの手術をした後に、右側の鼠径ヘルニアを発症し、また手術になる…という状況をさします。
お子さんにとっては、2回の全身麻酔になるということなので、嬉しいことではありません。

これに対し、「もし出たらその時はまた手術しましょう」と説明して、片方だけ手術をする施設。
片方の手術をする際に、おなかに空気を入れて圧迫してみて、反対側がふくれたら反対側も手術する施設。
片方の手術をする際に、そのヘルニアの穴からカメラ(腹腔鏡)を入れてみて、反対側を見て判断する施設(この場合は腹腔鏡のお値段はとれないので、完全にサービスです)。
このすべての施設で僕は手術を経験してきました。

そんな中で、LPEC法は…
腹腔鏡をおへそから入れてますから、反対側のチェックなんて、ちょっとカメラを横に向けてみたらあら簡単。一目瞭然です。



この下に手術画像が出ます。

別に血とか出てませんし、そんなに激しい写真でもありませんが、

苦手な方は読むのをやめましょう。





女児右鼠径ヘルニア

前編で手術法を説明しましたが、ヘルニアでは左写真ように大きく穴があいているのが見えます。
これは患児の右側ですね。では、カメラを動かして患児の左側を見てみましょう。


対側チェック

反対があいていれば同時に手術すればいいですし、「あいてない」という証拠画像が残りますから、ご家族も「もう出る可能性は限りなく低いです」と言われればとても安心です。
ということで、

確実に反対側のチェックができる

のがLPEC法の最大の利点です。

とはいえ、全然したことのない手術を、見ただけで真似していいわけではありません。
新たにその施設で「初めての手術」をするのには、経験を積んだ医師、「これなら安全にできる」という範囲で開始し、次第に適応を拡大していく…という手順が必要になります。

僕は縁あって2012年から広島市民病院で勤務することになりました。
それまで勤務していた施設ではLPEC法を学んできていたのですが、広島市民病院ではまだ施行されていませんでした。
ということで、「小児に腹腔鏡手術なんて!」と言われながら、LPEC法をまず女児に限って(男児と違い、精管がないのでより安全なのです)開始しました。
そして、その有用性を病院医誌ではありますが発表しました。
佐伯勇ら:腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術(LPEC法)を開始して 広市病医誌 29(1) 43-8, 2013.

という経緯もあり、広島でLPEC法を次第にひろめていったのです。
そして2020年から広島大学病院での勤務となり、現在では男児も女児も、全年齢でLPEC法を基本術式としており、後輩の医師への指導を行っています。

そんな僕が、英文でLPEC法の発表をしたのが
Isamu Saeki et al: Features and techniques of laparoscopic percutaneous extraperitoneal closure (LPEC) for ovarian hernia. Journal of Laparoendoscopic & Advanced Surgical Techniques 29(2): 278-281, 2019 doi: 10.1089/lap.2018.0425.
という論文です。
(すっごい前置き長かったですが、ここからが英語の論文紹介です)

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僕の有料記事の売り上げは、基本的に広島大学病院小児外科において小児がんの研究のための基金として使用させていただきます。
続きに興味がある方は、ご寄付のつもりでどうぞ~)

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