(第12回)【小児外科医の論文解説】小児外科医はおへその傷だけで手術する 前編
第12回はまたしても僕の大好きなおへその話。
大好きすぎて、参考にする論文が指導して書いたものを含めてたくさん。
じゅる(変態)。
注意:今回は手術がメインのお話のため、手術の写真や傷の写真が出てくる場合があります。そういうのが苦手…という方には閲覧をお勧めしません。
僕は最初のほうで紹介した、「おへその位置の研究」のほかに、
「でべそを治す手術法の研究」
「0からへそを作る手術法の研究」
「おへそからする手術法の研究」
と、おへそに関わる様々な研究をしては論文で報告しています。
今回の論文紹介は、比較的一般受けしそうな、「おへそからする手術」のお話ですね。
おへそからの手術というのは、現在ではとても一般的です。
なぜなら、腹腔鏡手術では主におへそからカメラを入れて、その他のおなかの部位からポートを入れて操作しながら手術をする…という意味では、腹腔鏡手術の多くがおへそからの手術ということになるからです。
しかし!
小児外科で紹介するおへそからの手術はそんなものではありません。
なんと、おへその傷1つだけで、腹腔鏡なんかも使わずに手術を終わらせるのです。
すると、傷がほとんど残らない!
うーん。すごい。
このような手術のことを、英語でtrans-umbilical surgeryといいます。
最初にこういう手術を報告したのは、TanさんとBianchiさんとされています。
Tan KC, Bianchi A:Circumumbilical incision for pyloromyotomy. BrJSurg 73:399,1986
比較的小さな1-3か月くらいの赤ちゃんだけが発症する、肥厚性幽門狭窄症という病気があります。
胃の出口の幽門という部分の筋肉が肥厚して、ミルクが飲めなくなってしまう病気です。写真で見ると、胃の出口がきゅんっと糸のように細くなってますね。string signといいます。
この病気は、1000人に1人以上と比較的多くの赤ちゃんが発症するよく見る病気です。
最近ではアトロピンという薬で治療をすることも多くなってきましたが、まだまだ手術で治すことも多いです。
昔は右上腹部を3cmくらい切って、幽門を直接切開する手術(Ramstedt ラムステッド手術)をしていました。
これを、おへそを切って手術できるよ!と報告したのです。
最初は「ええ…難しいよ…」という意見もありましたが、いろんなデバイス(物品)の進歩もあり、今ではおへそから手術をするのが普通になってきました。
そんな中、今度はもっと難しい手術も臍からの手術でできるんじゃない?という話になってきました。
僕は九州大学小児外科の出身で、しばらく九州大学で修練を積んでいましたが、そこでは十二指腸閉鎖症という、赤ちゃんの比較的難しめの手術も臍からしはじめました。
Tajiri T et al:Transumbilical approach for neonatal surgical diseases: woundless operation. Pediatr Surg Int 24:1123 1126,2008
そんな中、今度はもっと難しい手術も臍からの手術でできるんじゃない?という話になってきました。
僕は九州大学小児外科の出身で、しばらく九州大学で修練を積んでいましたが、そこでは十二指腸閉鎖症という、赤ちゃんの比較的難しめの手術も臍からしはじめました。
Tajiri T et al:Transumbilical approach for neonatal surgical diseases: woundless operation. Pediatr Surg Int 24:1123 1126,2008
先天性十二指腸閉鎖症というのは、よく医師国家試験にも問題が出されるので、お医者さんは小児外科医でなくても比較的知っている病気です。
6000人~10000人に1人が発症する病気で、生まれつき十二指腸が閉鎖しています。
21トリソミー(ダウン症)のお子さんでは発症しやすいです。
十二指腸が閉鎖しているとそこが拡張するのと、その下に空気が流れないので、特徴的な泡が2つあるようなレントゲン写真になります。
うーん。医師国家試験の勉強のようになってきましたね。
この赤ちゃん。そのままではミルクが飲めませんから死んでしまいます。
そこで手術が必要になってくるのですが、1976年に画期的な手術方法を報告したのが日本人の木村先生でした。
上の十二指腸と下の十二指腸の横を切って側側吻合するバイパス手術。
絵だけ見ると「当たり前じゃん」と思うかもしれませんが、実は下の十二指腸はとっても細くて、見つけるのは難しいのです。(やり方が分かると簡単になります)
木村先生はこの手術法を、ひし形っぽくなる切開部の形になぞらえ、「ダイヤモンド吻合術」と名付けたのでした。センスありますよねー。
この十二指腸閉鎖症の手術は、本来右上腹部横切開で行います。
それを、臍からの傷で手術をしようというのです。
赤ちゃんの皮膚はよく伸びるし、皮下脂肪も薄いからできることですね。
もちろん、見える範囲は狭くなります。
しかし、慣れてくるとこれができるようになります。
傷を比較してみて…
あれ?右側も創とかあんまり見えなくない?
そうです。小児外科の傷はきれいに縫うから目立たないんです!
…というのはウソで、赤ちゃんの傷はきちんと縫えばわりときれいになります。
しかし、実は目に見えないところでも違いがあるのです。
右上腹部横切開では、腹直筋などを一旦切り離します。あとで縫合はしますが、筋断裂のあとで修復した状況です。
でも、臍の切開では基本的に筋肉は切りません。
なので、将来的な機能という面でも、損なってしまう心配がないのです。
小さい赤ちゃんに傷を残さないだけでなく、将来的な機能も損なわない
これが、僕がちょっと苦労してでも一生懸命赤ちゃんに臍からの手術を続け、論文も書いて広めていっている理由です。
後編に続く。
本研究内容補足事項
<論文>
1. 松扉真祐子, 佐伯勇ら: 先天性十二指腸閉鎖症に対する整容性に優れた臍部切開手術の有用性 広島医学 67(10) 682-4. 2014
2. Isamu Saeki et al: A case of strangulated intestinal obstruction due to ileo-ileal true knot: Peculiar computed tomography findings. J Pediatr Surg Case Rep 90. 2023. 102586
Isamu Saeki et al: Transumbilical Surgery for Duodenal Stenosis in a Child with Situs Inversus: The First Report. Case Reports in Pediatrics vol. 2017, article ID 2074387, 3 pages, 2017.
3. 佐伯 勇 ら: 胆道閉鎖症術後,肝門部空腸静脈瘤出血に対して開腹下血管塞栓術を施行した 2 例 日児栄消肝誌 37(2): 82-87, 2023
4. 佐伯 勇 ら: 先天性食道閉鎖症術後に肥厚性幽門狭窄症を発症した1例 小児外科 50(2): 199-202, 2018
5. 三宅 知世, 佐伯 勇 ら: 後腹膜寄生体の2例 日周産期・新生児会誌 53(3) 861-5, 2017.
6. 佐伯 勇ら: 縦切開を追加した臍周囲切開による小児開腹手術 日児栄消肝誌 in press
7. 秋山 卓士,佐伯 勇 ら: 特集 へそを使う手術の実際 臍輪切開法による先天性十二指腸閉鎖・狭窄症に対する手術法 小児外科 48(3) 259-62, 2016.
<学会発表>
第9回小児へそ研究会
第50回日本小児栄養消化器肝臓学会学術集会
など多数
<院内倫理委員会>
なし
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