狩野さんの告白 part9

狩野さんの支援に入り始めて2年半がたった。
本日もいつものように排泄介助を行った。
腰を上手に浮かせて介助しやすい体制を作ってくれる。
本当に気遣いができる方だ。
排泄介助が終わり、座位になってエンシュアを飲まれた。
すると、狩野さんが私の目をしっかり見てこう言った。

ずっと言わんようにしようと思っていたけど、やっぱり言いたいことがある。あのな、私、まい子に会いたいの。どんなにおいしいご飯よりも・・どんなうまい飯よりもな、まい子に会いたい」

え・・・ちょっと待って。
言葉が出ない。

隣にいた兄弟さんもびっくりしていた。

「狩野さん、まい子さんに会いたい?」と声をかけると

「会いたい。会いたくて会いたくて仕方がない。でももう会えない。死んでももう会えない・・・」
と悲しそうに話された。

この二年半、そんなこと一言も話さなかった狩野さん。
認知症だから、忘れてしまったと思い込んでいた。
狩野さんは、心の中でずっと願っていたのだろう。
一体、いつから・・・

私は「狩野さん、会いに行きましょう。私が連れていく。絶対会えるから、それまで少しずつ歩く練習しましょうね」と伝えた。

事務所に帰ってずぐ社長に報告した。
狩野さんの言葉を伝えて、初めて社長に強くお願いした。
「狩野さんをまい子さんに会わせてあげたいです、なんとか早いうちにケアマネさんに相談していただけませんか?もし、明日狩野さんが亡くなってしまったら私一生後悔します」と。

今でもあの時の狩野さんを思い出すと涙が出そうになる。

施設でみていた「きたよー」って入ってくる狩野さん。
にっこり嬉しそうにまい子さんとお話しする狩野さん。
どれだけ大切にしてきたか、施設でもよく分かっていた。
それなのに、私、なんで声かけてあげられなかったのだろう。

しっかり狩野さんの想いを聞いたからには、絶対連れていくと強く思った。
そして、ケアマネさん、家族さんと話し合い、私が引率し一緒に行くことになった。
日程も、時間も決まった。
あとは、会える日を待つことになった。



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