「変えたい」と思わない
過去に戻って人生をやり直す。
俺にその選択はない。
タイムマシンがあっても、過去には戻らない。
未来にもいかない。
俺は過去に数えきれないほどの失敗をしてきたけど、その失敗を挽回しようとか、未然に防ごうとか、そんなこと一切思わない。
「過去は変えられないけど未来は変えられる」
そんなセリフをドヤ顔で言う人がいるけど、そんなわけないだろ。
過去も未来も今も変えられない。
人はなんもできないんだよ。
どうしようもなく無力なんだよ。
たとえば俺が過去に戻って、
失敗したところからやり直そうとしたとして、
その失敗を回避したところで、また同じような別の失敗が浮上してくる。
そして同じ結果になる。
それは運命として決まってるから、
絶対に変えれないことなのだ。
ちょっと変えたところで、同じ結果にたどり着くように修正が入る。
過去に人を殺めた者は、何度過去に戻ってその運命を変えようとしたところで、何度でも人を殺める。俺はそう思っている。
それほど運命というものは絶対だと、俺は思っている。
人は本当に本当に無力だ。
「運命を変えられる」というのは人間の思い込みに過ぎない。
俺たち人間は、ただ、みている。
ひとりの人間の人生を見ている。
俺なら、「テツヤ物語」という映画をただ、観ている。
物語はスクリーンの中で行われているので、
観客席に座っている俺には、どうしようもない。
「あっ、そっち行っちゃダメ」
って思っても、スクリーンの中のテツヤはそっちに行く。
それは覆らない。それが運命ってヤツ。
よくよく考えてみてほしい。
人間のからだはいつも勝手に動いている。
この記事を読んでいる人の中で、
「わたし自分で心臓を動かしています」って人、いる?
よし!!よし!!
ドックン!!ドックン!!
いいぞいいぞ、その調子だ!
ドックン!!ドックン!!
体中に血を運ぶぞ~!!
栄養を運んじゃうぞ~~!!
よし!!いまだ!!ドックン!!ドックン!!
こんな人、絶対にいないでしょ。
吸って~~、吐いて~~~、
吸って~~、吐いて~~~、
今日も一日、呼吸を頑張るぞ!!
す~~~は~~~す~~~は~~~!!
今日の呼吸の調子、絶好調だぜ!!
こんな人もいるわけない。
心臓は勝手に動いてる。
呼吸も勝手にしてる。
そこに人間が介入する余地はない。
心臓をうごかすこと。
呼吸をすること。
それだけじゃない。
俺たちは朝勝手に起きる。(あるいは寝過ごす)
俺たちは勝手にメシを食べている。
俺たちは時間になったら勝手に会社に行く。
そして時間になったら勝手に帰ってくる。
そして時間になったら勝手に寝る。
ゴミを見たら勝手に捨ててくれるし、
お風呂に入ったら勝手に体を洗ってくれる。
いちいち頭の中で「こうするぞ」「こうしよう」って思わなくても、
人間のからだは勝手に動く。
右、左、右、左、って意識して両足を動かさなくても、あなたは普通に歩いているでしょ。
俺の言っている意味がわかるかい?
「あなたはなにもしてない」ってことだよ。
自分の意志で何かをしているようで、実はそうではない。
生きているようで、実は生きていない。
あなたはすごく安全な場所で、あなたの映画を観ているの。
あなた物語を観ているの。
だからあなたは心臓を動かそうとしなくてもいい。
あなたは人生を変えようとしなくてもいい。
あなたは失敗を挽回しなくてもいい。
なにをやっても無駄だから。
あなたの人生はすでに決まっている。
それはどうやっても変えられない。
それを絶望だと思う?
俺は思わない。
こんなに楽なことはないぜ。
だって俺のせいじゃないんだもん。
俺の人生にはいろんなことが起きて、
たくさんの失敗をして、
たくさんの人を傷つけて、
たくさんの人に迷惑をかけてきたけど、
でもそれは俺のせいじゃないんだもん。
こんな気楽なことないよ。
自分のこと責めなくていいんだもん。
失敗を挽回しようとしなくていいんだもん。
心臓を動かそうとしなくてもいいし、
呼吸をしようと頑張らなくていい。
会社に行こうとしなくても体が勝手に行ってくれる。
めんどくさいことは全部全自動でやってくれる。
俺はなにもしなくていい。
いまこの文章だって、俺が書いてるんじゃないんだよ。
体が勝手に書いてくれてるの。
指がさ、すごいはやさで勝手に動いて、勝手に文字を打ってくれてるの。
そういうことを今まで俺たちは、
「自分がやっている」
と思い込んでいただけ。
そうじゃないよ。
あなたの心臓は勝手にうごいてる。
あなたの足は勝手に歩いてく。
あなたの人生は勝手に進んでいく。
だよね?
だってあなた、自分の心臓でさえ自分で動かしてないじゃん。
そんなあなたが「人生で求められる重大な選択だけは、自分自身でやってます」???
どうしてそんなこと言えるの。
そう思い込んでるだけでしょ。
どうにもできないのよ。
過去だけじゃなく、未来も。
そして今も。
どうにもならない。
すべてはシナリオ。運命。
変えられない。
でもそれは決して絶望なんかじゃない。
無力でも、
孤独でも、
無意味でも、
失敗だらけの人生でもいい。
なにひとつ変えられなくてもいい。
なにもできなくても、
でもやっぱりできることがある。
味わうんだよ。
あなたの人生を。
しみじみと、あじわう。
俺の人生は失敗だらけだし、
たくさん夢も破れたけど、
でもすごく味わい深いよ。
映画の中の人物に感情移入するみたいに、
自分の物語を深く深くあじわう。
こいつさ、
ほんと怒りっぽいし、
人と仲良くできないけど、
でも憎めないんだよな。
いっつもいっつも空回りばかりで、
大切な人はすぐにいなくなっちゃうんだけど、
でもこいつ、いつまでもその人のこと、忘れないんだよな。
バカだけど、
本当にかわいいよな。
俺は俺の物語をみて、
そういうことを考えたりしている。
そしてこの物語に出会えたことに幸せを感じている。
ねえ、君。
もうずっと前から、
もしかしたら何十年、
俺が生まれたときから一緒にこの物語をみてくれている、君。
俺は君と、たくさんたくさんお話がしたいんだ。
また君と、あえますように。
一緒にこの物語をつむいでいけますように。
俺はそんなことをいつも思ってるんだ。