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「売上」を目標にしない

いよいよ、2024年がスタートしました。
2023年の1月からはじめたこちらのnoteもちょうど一年。月に1本のペースでも書けなかったのですが、それでもnoteならではの記事がいくつかかけて良かったかなと思っています。

さて2014年にスタートしたHUISにとって、今年は10年目を迎える年になります。ということで、今年は早々からいろいろな新しいことがたくさん始まります。

その一つが【書籍】の出版です。
タイトルは『HUISの服づくり -遠州発の産地発ブランドがアパレルの常識を変える-』というもので、年末年始には原稿を書き続けていました。

HUISの服づくり -遠州発の産地発ブランドがアパレルの常識を変える-

10年目を迎えるHUISとして、立ち上げの瞬間のことから、遠州織物のこと、今の定番商品のラインナップの紹介、HUISとご縁のある方々のコーディネート紹介などコンテンツ盛りだくさんなのですが、後半には「ビジネス本」としての要素も少し入っています。

今回は、ビジネス的な要素の中から一つ、アパレルブランドとしての「売上」のことについて、HUISの考え方を書きたいと思います。


売り上げを目標にしない


多くの企業や経営者は、個々の事業活動において売り上げを伸ばすことを目指しています。アパレル業界は、特にそれが顕著な世界だと実感しています。

でも、HUISはブランド設立当初から今も、売り上げを目標にしていません。それが産地においてさまざまな弊害を生み得ると考えているからです。
それは、具体的にどういうことか?アパレル業界の特性と歴史から考えたいと思います。

アパレルはここ何十年という長い期間をかけて、効率化を求めることで、安く大量の商品を生み出すことに特化してきました。

デザインを価値の基本にしているアパレル製品は、見た目を重視する。そして安いものは説明が不要で、どこでも売りやすい。売り場においても接客コミュニケーションを省いた効率的な販売のためには、安くて買い求めやすい商品は売り上げを伸ばすためにとても便利です。全国に広く出展していくのであればなおのこと。

こうしたアパレル業界のもうひとつの特徴は、売り場から逆算して生産を考えることにあります。売りやすい商品のために、徹底的にコストを下げる。そのために、効率的なものづくりの形を試行錯誤してきたのが繊維業界の歴史でもあります。

ただ、こうした業界の大きな流れの中で、機屋さんのような売り場から遠い川上の事業者ほど、厳しい値下げを要求されてきました。

この価格でなければお客様は目を向けない、この価格で作らなければ売り場で売れない、だからこの価格でなければ仕入れられない。
アパレルの売り場で重視されるのは、着心地の良さや機能性といった生地の本質的な価値よりも、見てすぐ分かる傷や色ムラなどがないといった表面的なことです。
いいものを作っているのに、品質ではなく値段だけをみて買い叩かれる。
安い洋服が市場を占めるようになればなるほど、消費者が購入する洋服の価格の目安はどんどんと下がっていきます。
すると必然的に、いいものを作り続けることはできなくなってしまいます。無理な要求によって事業の存続を諦めた会社や産地も多くあります。

そしてアジアを中心とする海外との価格競争によって、年々、日本の生地は希少なものになってきました。

こうした中でHUISは、機屋さんに対して値下げ交渉はしません。

それは、生地の品質を維持するために最低限必要なコストであることがわかっているからです。産地の職人さんたちはプライドを持ってものづくりをしているし、プライドを持って値付けもしている。必要以上に儲けようと思っているわけではなく、まっとうに必要な分を積み上げた結果、その価格になっていることを知っています。

だから僕たちがすべきは、『生産現場に対して値下げを要求すること』ではありません。『お客さまに対してなぜこうした価格になるのかを丁寧に伝えること』だと思っています。

技術と手間を注ぎ込んだ生地の品質を適切に評価されず、寝る間も惜しんで必死に働いても儲からない。そんな両親の姿を見ていた子どもたちが、将来その仕事を継ぎたいと思うでしょうか。

産地の中ではこうしたことがありふれています。


産地の未来を拓く答えとは


職人の高齢化や新たな担い手の不足といった課題は、遠州産地に限らず、どこの産地においてももう何十年と課題になってきたことです。産地が大きく復興するような、起死回生の一手がこの先降ってくるわけではありません。

こうした中で、産地の未来を拓くために必要なことは何なのか?

その答えのひとつは、
「素晴らしい技術を持った人たちが、素晴らしい技術を持っているということを適切に評価されること」
だと僕は思います。

そんな基本的な第一歩からも、遠く離れてしまっているのが今の繊維産地の現状です。だから遠州の人も遠州織物のことを知らないのです。

日本人が誇りに思えるはずの歴史と技術、それを今担う方々のことを、私たち日本人が知ること。それは今の産地を支える方々の心を潤すとともに、その素晴らしい技術に憧れる次世代を生むことにもつながるでしょう。


株式会社HUISが法人化して1期目にあたる2021年度の売り上げは4.3億円、2期目の2022年度は5.1億円を計上しました。現在進行中の2023年度は、さらに順調に売り上げを伸ばしています。

売り上げが産地にとって良い影響力を及ぼすことを実感しています、産地の維持発展に寄与できる可能性も感じています。ただ目標にすることは本末転倒になり得る。
産地とお客さまが本当の意味で循環する、そのことに集中すれば、売り上げは自然に伸びていくものだと考えています。


2024年は、産地を照らす陽が眩しく感じるような、そんな未来に向けた一年になる気がしています。

そしてそれは、産地の自分たちの活動でしか切り拓けないことだと思っています。


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