理想と現実

高校3年のとき、私の作ったある曲がほんの少し有名になった。私が生み出したものが、知らない人によって吸収されていくあの感覚は忘れられない。きっと私はいつかもっと、人から受け入れられる音楽を作れると信じて疑わなかった。


あれから数年が経った。今、私は音楽で食っていくというかつての夢を破り捨て、社会という大海の中へ飛び込もうとしている。私は小さな動力として社会を動かす歯車になるんだ。でも、その部品の代用はいくらでもきく。別に私じゃなくちゃいけない固有の理由なんかない。音楽の世界では、私だけにしかできない表現方法でほんの少しだけど、人に価値を与えることができた。
才能がなかった、と言い訳はしたくない。生まれ持った素質で自分の能力を決めつけたくはない。
趣味は音楽です、という世界線。生業としてやろうとしていた音楽が趣味へと転落してしまう。どこにでもいる普通の人と同じだ。
夢追い人に、世間は厳しい。未練は断ち切れていないけれど、私は理想より現実を選んだ。圧倒的に少ない、うまくいく可能性を信じ切ることができなくて、その失敗に責任を取れないと思ったから。本当はいつまでも夢を見ていたい。やりたいことをやっていたい。でも、もうタイムリミットなんだ。

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