羽後燦樹のブックレビュー『わたしは、不法移民 ~ヒスパニックのアメリカ~』
☆☆☆ 一読の価値あり
著者:カーラ・コルネホ・ヴィラヴィセンシオ
訳者:池田 年穂
出版社 : 慶応義塾大学出版会
発売日 : 2023年6月23日
単行本 : 263ページ
中南米諸国からの移民「ヒスパニック」はいまやアメリカ合衆国における最大のマイノリティ集団です。
このヒスパニック(本書では「ラティネックス」と呼ばれています)にも既にアメリカの市民権を持つ者、永住権を持つ者、「合法的」な移民、そうでない移民など様々な人たちがいます。
本書の著者はUndocumented(在留資格を証明する書類を持たない)な移民、つまり不法移民でありながら、その中でもいくつかの条件に当てはまる「送還猶予措置」者=DACAであり、ハーバード大学の卒業者のジャーナリストであり、精神疾患を抱えています。なかなかフクザツ・・・。
ハリケーン被災地や9・11直後の「グランド・ゼロ」で危険を冒して瓦礫などの後片付けに従事したことで有害物質に曝されてその後健康被害に苦しむ日雇いラティネックス。
不法移民ゆえ医療の恩恵を受けられず、「代替医療」や「民間宗教」に頼らざるを得ないラティネックス。
年老いて働けなくなっても公的サポートが得られないラティネックス etc.
本書はそんなラティネックスたちの暮らしを綴っていますが、著者のスタンスは彼らと距離を置いた「ルポルタージュ」的なものではなく彼らとともに生き、ともに苦しみ、共に喜ぶ当事者のそれ。
文章は感情的な揺れが大きく、(疾患のせいかどうか)時に筆が暴走します。
「これをよく訳せたな」と訳者の力量にも驚嘆したりして。
我々日本人がこのようなラティネックスの実態を知ることはそう簡単ではありませんが、本書によると一般的な米国人(という括り方自体かなり無理がありますが)でさえもラティネックスの仕事の場(掃除人、給仕、庭師etc.)以外で彼らと接点を持ち、素顔に触れることは稀であるようです。最大のマイノリティでありながら「インビジブル」(見えない・目につかない)な存在でもあるラティネックス。
分断の度合いがますます強まる米国社会の一面を知ることのできる良書です。
よろしければこちらもご覧ください。
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