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介護で一番つらかったこと
介護をしていて私が辛いと思ったことは、睡眠不足になることです。
赤ちゃんの夜間授乳が大変なのと同じように、高齢者の夜間頻尿もかなりきついのです。
母は歩行にふらつきがあったり高次機能障害でトイレの場所ややり方がわからなくなったりしていたので毎回介助が必要でした。
看護師になる前は、おむつ交換やトイレ介助が一番キツそうだなぁとイメージしていました。
でも看護師になってからは他人の排泄物に対して「免疫」ができたし、排泄の重要性を改めて学んだので、自分自身大きな成長を遂げたのではないかと思っています。
尿が出なければそれは尿毒症で命に関わるし、便秘になったら吐くこともあるし下剤を飲んで下痢になったらさらにトイレに行く回数が増えて、それまたお互いに大変です。
それにふんばるときは血圧が上がってしまうので、術後の母には禁物。
きちんと定期的に出すものは出すことがとても大事なのです。
もし私にそんな「免疫」と知識がなかったら、「お願いだから一生トイレしないで!」くらいに思っていたかもしれません。
このことは看護師になってよかったことのひとつと言えます。
だから、真夜中のトイレ介助や多少の失敗で怒ることは絶対にしないと決めていました。
たとえ深夜に布団や床を濡らしても、絶対怒らない。
嫌そうな雰囲気も出さない。
淡々と処理し、むしろ褒める。
出るもん出てよかったね。
ためててもいいことないからどんどん出しな。
人間の生理だし、尊厳にも関わることだから。
どんな状況でも安心して排泄してほしい。
それに私もかなりお腹弱い&頻尿なので、いつか絶対誰かに迷惑かける。
いつまでも安心して排泄できる世の中であってほしい。
本当に大変だったのは退院して間もない頃で母の状態が落ち着かず、なかなか夜に寝てくれないことでした。
暗いのが怖いと言って電気やテレビをつけたままにしなければいけなかったし、夜中に何度も起きて目的もなくうろうろしていたし、「もう遅いから寝よう」と言っても理解できずにヒートアップしていました。
転倒のリスクがあったため、すぐ横のリビングで寝ている私は常に母の出す音に反応し、母が動こうとすれば0コンマ何秒で起き上がって母を支えていました。
その反射神経の良さに「私ってまだ若い・・・」と自画自賛しつつ、人ってめちゃくちゃ眠いときはこんなにも目が開かないんだなと思いながら介助していました。
母は日中は明るいから安心するのか昼寝はするのですが、私はその時間を見計らって買い物に行ったり家事を済ませたりしなくてはならず、ようやく落ち着いてひと休みしようとすると、母がぱちっと目覚めてしまうのです。
なんなんだろう、このタイミング。
赤ちゃんの背中スイッチみたいな、どこにあるかわからない母のスイッチ。
いつでも対応できるように母のすぐそばで横になり、時には手を繋ぎながら昼寝しました。
彼氏と過ごすよりも親密な昼さがりでした。
横になったところで変に冴えていて眠れないし、やっとウトウトしてきたと思ったら起こされる。
夜寝てくれるように、昼間に散歩に行ってできるだけ疲れさせる。
そしたら私はいつどうやって寝ようか。
寝たい眠りたい寝かせてくれ。
寝ても覚めてもそんなことばかり考えていました。
よし、私は看護師になったんだ!母ちゃんの介護するぞ!と思って実家に戻ってきたのに「もうだめ、しんどい!!!」と1人で大号泣したのは3日目の夜です。
1人で泣くにはおさまらず「もう本当にお願いだから寝て!」「お願いだから私を寝かせてよ!!」と深夜に泣き叫んだこともあります。
こんなにも母に大声を出す日が来るなんて。
看護師として夜勤をしていたとき、どんなに大変で孤独で長い夜でも「明けない夜はない」を合言葉に頑張ってきました。
日勤者が出勤してくると、それはもう抱きつきたくなるほど嬉しかったのです。
介護はまさに日勤者が来ない夜勤です。
しかも連勤。
眠くてしょうがない。
泣きながらケアマネさんに相談したらすぐにショートステイの段取りをしてくれました。
でも結局母はすぐに再手術となり10日ほど入院となりました。
「辛い、もうだめだ」となったときに入院手術、退院後しばらくして「辛い、もうだめだ」と思ったらまた入院手術。
母には申し訳なかったけれど、この入院期間でなんとか私は体力気力を回復させることができたように思います。
その治療の甲斐もあって母の状態は落ち着いていき、歩行も安定してトイレも1人でできるまで回復しました。
私も先月からはようやく1人で別室で朝まで眠れるようになっています。
病気や手術によってこんなにも母が変わってしまったことは残酷だったけれど、同じく治療でここまで改善できるとも思っていなかったのでありがたいことです。
介護に無理は禁物です。
特に睡眠不足は一気にメンタルがやられると実感しました。
ショートステイやデイなど、物理的に距離をとれる選択肢をいくつか持っておくことは、もちろんとても重要だけれど、でもそれはそれで思っていたよりなんだか難しいぞ、ということも看護師をしているときにはわかりませんでした。
そのことについてはまた今度書いてみたいと思います。