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山火事から学ぶトレイルマナーと環境意識
はじめに:トレイルランナーは「火を扱う」生き物である
火を操るのは人間の歴史そのものだ。石器時代から炎を使い、文明を築き上げてきた。しかし、その炎は時に大地を焼き尽くす。山火事はまさにその象徴であり、自然のリズムを狂わせる厄災でもある。
トレイルランナーは「自然と一体化する者」として語られることが多いが、果たしてそうだろうか?火の扱い一つで、ランナーは「山の守護者」にも「無自覚な破壊者」にもなり得る。
本講座では、山火事のメカニズムと、その防止に向けたトレイルマナーを、科学的視点とトレイルランナー独自の哲学で考えていく。
第1章:山火事はなぜ起きるのか?ランナーとして知るべき自然のルール
山火事の原因は、大きく分けて「自然発火」と「人為的な要因」に分かれる。
前者は雷によるものが多く、落雷が乾燥した森林に火をつけ、強風にあおられて一気に燃え広がる。特にオーストラリアやカリフォルニアではこれが頻発する。
問題は後者だ。人間の行動が原因で火災が発生するケースが圧倒的に多い。具体的には以下のようなものがある。
• トレイルランナーではいないと思われるが、タバコのポイ捨て(山火事原因圧倒的1位。もはや火のついた爆弾を投げているようなもの)
• 他人がやってるBBQの様子を覗き見
キャンプやBBQの火の不始末(野営と野焼きは違う)
• 現地へのアクセスは?
車両からの火花(オフロードバイクや車が原因になることも)
• おそらくこれが1番
太陽光を反射するゴミ(ガラス片など)(ルーペの原理で発火)
ランナーに関係しそうなのは、主にタバコのポイ捨てとゴミだ。
「トレイルランナーに喫煙者なんていない」と思うかもしれないが、レース後の一服を楽しみにしている人もいるし、登山者との混在地ではポイ捨てを目にすることもある。
また、エナジージェルや補給食のパッケージを無意識に落とすことも、火事のリスクを高める要因になる。
第2章:山火事の被害とトレイルの喪失
「火事くらいで山は死なないだろ?」と思う人もいるかもしれないが、山火事は想像以上に深刻な影響を与える。
例えば、日本でも有名な六甲山では、過去の山火事で広大な森林が焼失し、土壌がむき出しになったことで大規模な土砂災害を引き起こしている。
また、2016年の熊本地震の後、阿蘇地域では火事の影響で草原の回復が遅れ、トレイルランナーにとっての「最高のコース」が失われることになった。
山火事の被害がもたらすランナーへの直接的な影響は以下の通りだ。
1. トレイルの消失(ルートが崩壊し、レースが中止になることも)
2. 植生の変化(走りやすかった森が剥き出しの岩場になる)
3. 動物の生息域の減少(野生動物の移動に伴い、人との遭遇リスクが増加)
4. 大気汚染の増加(ランナーの肺にダメージを与える微粒子が舞う)
つまり、山火事を防ぐことは、ランナー自身の「走る場所を守ること」に直結する。
第3章:トレイルランナーにできる具体的な行動
では、我々トレイルランナーはどうすればいいのか?
口先だけの「自然を守ろう」では意味がない。具体的に実践できるアクションを紹介しよう。
①落とし物ゼロ運動を徹底する
ゴミは火事の原因になるだけでなく、そもそも景観を損ねる。
「ジェルのパッケージを落としたら200mダッシュしてでも拾え!」というルールを作るべきだ。
②山で火を扱わない(タバコ厳禁)
吸うならせめて「吸い殻完全回収セット」を持ち歩くべきだ。ポイ捨てなど言語道断。
③「火事のリスクが高いトレイル」を把握する
乾燥期(冬~春先)の強風が吹くエリアや、過去に山火事が発生した場所は要注意。
走る前に自治体や管理団体の情報をチェックするのが賢いランナーの習慣だ。
④消火意識を持つ
もし、ランニング中に火の手を見つけたらどうするか?
速やかに消防へ通報し、可能なら近くの登山者と協力して火の拡大を防ぐことも考えるべきだ。
「俺の仕事じゃない」ではなく、「俺たちのトレイルを守る」という意識を持とう。
結論:トレイルランナーは「走るだけの存在」ではない
トレイルランニングは、単なるスポーツではない。
地球の一部を駆け抜け、その環境を肌で感じる「特権」を持つ者だけが楽しめるものだ。
だからこそ、ランナーには「守る責任」もある。
火事を防ぎ、山を守ることは、ランニングを未来へつなげる行為そのもの。
トレイルを愛する者として、山火事のリスクを理解し、適切なマナーを身につけよう。
「走れる山があるうちに、俺たちが守るべきものを知ろう」
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