トレイルランとボサノヴァ
土曜の朝、トレイルランの準備をしながら、ふとスマホに目をやると、ボサノバプレイリストが目に留まった。「ボサノバか…ちょっとおしゃれすぎない?」と、トレイルランと全く結びつかないその選択に自分でも笑いながら、プレイリストをタップする。
最初に流れ出したのは、ジョアン・ジルベルトの「イパネマの娘」。森の中でふわりと軽やかに響くギターと甘い歌声…だが、自然の風景に反して足元はガタガタ。イパネマの娘が優雅に海岸を歩くイメージとは程遠い、泥に足を取られつつ進む私の姿がなんとも滑稽だ。しかし、音楽はまるで「大丈夫、落ち着いて」とささやきかけるように、やさしく流れ続ける。
次に流れてきたのは、アントニオ・カルロス・ジョビンの「ウェーブ」。トレイルの坂道を登りながら聴いていると、まるで海の波に乗っているような気分になってくる。しかし実際は、傾斜に押し返され、ヒーヒー言いながら波どころかむしろ「崖」を登っているかのようだ。「うう…本当に波に乗りたい」と心の中で叫びつつ、何とかペースを保つ。
そして、また平坦な道に戻ると、「デサフィナード」が流れてきた。歌詞の意味を知っている人ならわかるだろうが、これは「ちょっと調子外れ」って意味だ。走りながら、自分の今の姿に笑わずにはいられなかった。フォームが崩れて息が切れ、まさに調子外れのランナー状態。「なるほど、ボサノバも分かってるじゃないか」と、苦笑い。
音楽はさらに続き、マルコス・ヴァーリの「ソー・ナイス(サマー・サンバ)」が流れてきたときには、日差しが少しずつ強まり、まるで夏のビーチにいるかのような気分に。でも現実は、汗だくで虫と格闘しながらの道程。ボサノバの清涼感と、ドロドロの現実が対照的で、思わず笑ってしまう。
最後に流れたのは、ヴィニシウス・ヂ・モライスの「シェガ・ジ・サウダージ」。トレイルを走り切った後の疲労感の中で流れると、「さあ、戻ってきたぜ!」と叫びたくなる。私のゴールへの旅も一つ終わった。