体脂肪率、その先にあるもの〜トレイルランニング視点〜
トレイルランニングに挑むとき、私たちは何かを背負っている。それはリュック、心の覚悟、そして体脂肪だ。体脂肪率が低ければ「軽やかに山を駆け抜けられる!」と思いがちだが、ちょっと待て。それ、本当に正しいのか?蓄蔵エネルギーという視点から、この脂肪の役割を見直してみよう。
体脂肪は、単なる「余分な荷物」ではない。むしろ、体の中に蓄えられたジェルパックのようなものだ。エネルギー補給が追いつかない長時間のレースでは、この「内臓ジェル」が秘密兵器となる。だが、ここで難しいのはバランスだ。体脂肪率が高すぎると、荷物が増えて足が重くなる。一方、低すぎると途中でガス欠を起こしてしまう。
では、適正な体脂肪率はどのくらいだろうか?個人差があるものの、男性なら10~20%、女性なら18~28%が目安と言われる。ただし、エリートランナーでなくてもこの範囲を目指す必要はない。重要なのは、自分に合ったエネルギーバランスだ。
トレイルランナーにとって、体脂肪の役割はもう一つある。それは「断熱材」としての働きだ。標高が上がるほど気温は下がる。そんな時、極端に体脂肪率が低いと、寒さに弱くなり、パフォーマンスが落ちる可能性がある。つまり、脂肪はただのエネルギー源ではなく、寒さから身を守る防御壁でもあるのだ。
しかし、「適正体脂肪率」を考えるのは簡単ではない。人間は美意識に影響されやすい生き物だ。「6パックの腹筋が見えたらカッコいい!」といった外見重視の幻想に惑わされ、必要な脂肪を削りすぎることも。トレイルランニングにとって、健康的な脂肪は仲間であることを忘れてはならない。
また、体脂肪率だけを追求するあまり、「体重計ジャンキー」になる危険性もある。「昨日の夜にポテチを食べたから、体脂肪率が0.5%上がったんじゃないか?」などと気にしてしまうのは本末転倒だ。トレイルランニングは自然を楽しむための活動であり、数字と格闘するものではない。
要するに、トレイルランニングにおける体脂肪率の適正値は、目指すゴールや体質に左右される。脂肪を敵視するのではなく、エネルギーと断熱のパートナーと考え、楽しく山を駆け抜けたいものだ。「俺の脂肪、今ここで燃えてくれ!」と思える瞬間が、きっとゴールの感動を倍増させてくれるに違いない。
脂肪が燃料となり、景色がご褒美となる。そんなトレイルランニングの旅を楽しむには、数字よりも、体との対話を大切にしたいものだ。