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高1 化学基礎:炎色反応

 味噌汁をガスコンロの炎の中にこぼすと,炎の色が黄色く変わる.何気ない光景であるが,この色の変化は化学基礎で登場する炎色反応である.本稿では,この炎色反応を取り上げることにする.


教科書的な炎色反応

 一部の金属には,そのイオンを含む水溶液を白金線などに付着させ,炎の中に入れると,その元素特有の色を呈(てい)するものがある.この呈色(ていしょく)反応を炎色反応という.また,炎色反応を示すかどうかを試す実験のことを炎光分析ということがある.高等学校の教科書では,以下の7つが紹介されている.

$$
\begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|c|} \hline
金属 & \mathrm{Li} & \mathrm{Na} & \mathrm{K} & \mathrm{Ca} & \mathrm{ Sr} & \mathrm{Ba} & \mathrm{Cu} \\ \hline
色 & 赤   & 黄   & 赤紫 & 橙赤 & 紅  & 黄緑 & 青緑 \\ \hline
\end{array}
$$

炎色反応は,原子化された金属イオンの電子が熱によって励起され(=余分なエネルギーを持つ),それらがもとのエネルギーに戻るときに光として余分なエネルギーを放出する現象である.(この内容は,高校1年生ではかなり難しい.詳しくは,高等学校物理の原子分野で登場する水素原子のエネルギー準位の話と合わせて理解するとよい.) 高等学校の授業で,これら7つの炎色反応全てを語呂合わせなどで覚えましょうと習った人は少なくないだろう.ただ単純に7つの金属とその色の組み合わせを覚えるだけであれば,さほど苦労はしないのだが,少々困ることがある.それは,一部色がかぶっていることである.

 リチウムの炎色反応は赤色である.そして,ストロンチウムの炎色反応は紅色である.この2つを,目で見て区別できる人はいるのだろうか.実際に実験してみても,両者を比べてみて少し色合いが違うように感じるものの,単独で見たときにはどちらか判別するのは非常に難しい.また,どちらが赤色でどちらが紅色なのかも不明瞭である.教科書・参考書によっては,紅ではなく深赤色と紹介される場合もある.

 同じような問題が,銅とバリウムでも生じる.こちらは銅が青緑色でバリウムが黄緑色であるから,目視でも判別することができる.では,銅(またはバリウム)の炎色反応を緑色と答えるのは正しいのだろうか?

出題者の思考

出題したいのはアルカリ金属

 自分自身が生徒であったころから含めても,炎色反応の色を聞かれる問題のほとんどが,アルカリ金属であったように思う.教員になって,試験を作成するようになってからも,(ごく稀にカルシウムを出題することはあるが,)炎色反応といえばアルカリ金属から出題する.これにはある理由があり,闇雲に問題を作成しているわけではない.

 高等学校で理系を選択すると,多くの学校では化学が必修となる.その中に,無機化学の単元があり,金属の性質のまとめとして金属イオンの系統分析を学習する.現在では,原子吸光光度計や電子顕微鏡などを用いれば,比較的簡便に元素分析を行うことができる.金属イオンの系統分析は,そのような機器類がない場合に,未知試料中に含まれる元素の分析方法として古くから用いられた手法である.系統分析では,金属イオンを,その反応性が類似したグループに分類し,それぞれの性質を利用して沈殿させて溶液から分離していく.しかし,アルカリ金属はイオン化傾向が大きく,水溶液中で非常に安定に存在するため,沈殿として分離することができない.そのため,アルカリ金属だけは炎色反応で確かめるしか方法がないのである.逆に言えば,それ以外の金属イオンは沈殿するため,水溶液中から分離することができる.したがって,わざわざ炎色反応をさせてどんな元素であるかを判定しなければならないケースは少ないのである.

 遷移金属元素である銅も,炎色反応を示す元素であるが,銅の炎色反応が出題されることも多くはない.その理由は,上にあげたように銅(II)イオンが硫化物イオンと反応して硫化銅(II)の黒色沈殿が生じることに加えて,銅(II)イオンが有色(例えば硫酸銅(II)水溶液は青色)であり,目視で銅(II)イオンの存在を予想できるからである.もちろん,コバルトの錯体など,青色を示すイオンは銅以外にも存在するが,高等学校化学のレベルでそれらが混在する系を取り扱うことはほとんどないだろう.

色かぶりは避けたい

 出題者側の都合もある.ナトリウムの炎色反応は,中学校の理科でも頻繁に出題されるため,正答率が高くなる.正解数を増やすためにナトリウムを出題することもあるが,高等学校化学基礎では少しレベルを上げてカリウムやリチウムを出題することが多くなる.

 ところで,実際に炎色反応の実験を行ってみると,リチウムの赤色は非常に鮮明に確認できる一方で,カリウムの赤紫色は非常に見えにくい.このような差があることから,学校の定期テストのレベルでは,視認性の低いカリウムよりも,より鮮明に見えるリチウムの方が(生徒の記憶に残っていると考えて)好まれる傾向にあると感じている(が,あくまで私の主観である).さらに,その結果色かぶりであるストロンチウムの炎色反応は出題できなくなるのである.これは,解答の仕方のばらつき(どちらが赤色でどちらが紅色なのか,あるいは紅色ではなく深赤色と答えるべきなのかなどの諸問題)を回避したいからである.

 銅とバリウムの炎色反応についても,色かぶりの観点から出題することを避ける可能性が高い.両者(青緑色と黄緑色)は,目で見たときの差は比較的あるものの,色の分類では同じ緑の仲間であり,出題する側としては厄介なのである.加えて,どちらか一方のみを出題したとしても,2つの色を正しく覚えられていない生徒がいれば,それだけ正答率が下がってしまう.炎色反応といえども,銅やバリウムなどを出題材料に選ぶと一気に難易度が上がってしまうのである.

色を答えさせる問題は選択式にしたくなる

 さて,リチウムやカルシウム,バリウムなどの炎色反応の色を答えさせる問題を出題したとしよう.想定される解答は,
リチウム  ・・・ 赤色
カルシウム ・・・ 橙赤色
バリウム  ・・・ 黄緑色
である.しかし,記述式の解答用紙の場合,
リチウム  ・・・ 紅色・朱色
カルシウム ・・・ 橙色
バリウム  ・・・ 緑色
などのように,教科書的ではない解答が発生しうる.また,色の見え方には個人差があり,その表現も多岐にわたる.そのため,色を答えさせる場合には,あらかじめ選択肢を与え,最も近いものを選ばせる形式にする場合が少なくない.そのような方法をとることによって,解答の曖昧さを回避するのである.上の例でいえば,バリウムの炎色反応の色を緑色と答えるのは,間違いとは言えない.しかし,銅の炎色反応の色も「緑色」であるが,バリウムが呈す「緑色」とは見た目でも異なる色である.したがって,出題者側からすると,極めて不正解に近い解答であるように感じるのである(が,私であれば不正解にはしないだろう.減点はするかもしれない).

まとめ

さて,本稿を締めくくろう.
炎色反応について,おさえておいてほしいのは,

アルカリ金属元素が示す色

すなわち,

$$
\begin{array}{|c|c|c|c|} \hline
金属 & \mathrm{\textbf{Li}} & \mathrm{\textbf{Na}} & \mathrm{\textbf{K}} \\ \hline
色 & \textbf{赤}   & \textbf{黄}   & \textbf{赤紫} \\ \hline
\end{array}
$$

である.これを頭に入れておけば,炎色反応に関するかなりの問題に対応できるようになるだろう.むやみにすべて覚えようとするのではなく,まずは頻出のものから1つずつ習得していくことが重要である.(念のため言及しておくが,他のものを覚えなくてよいわけではない.)


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