熊本でライブ配信業10年の大ベテランに聞くライブ配信のこれまでとこれから
今回はHub.craftを影から支える超協力な助っ人・さいばーとれいんの斉場 俊之さんにお話を聞くことができました!斉場さんのメイン業務は【ライブ配信】。2020年、コロナ禍においての人と人を繋ぐコミュニケーションとして爆発的に注目を浴びることとなったライブ配信に10年前からずっと携わってきた斉場さんに、その魅力とこれからの可能性についてお伺いしてみましたのでぜひみなさまご一読ください!
SNSの誕生後、デジタルコミュニケーションの持つ大きな可能性を感じ、福祉業界からデジタルコミュニケーションの業界へ
ー斉場さんの今のお仕事の内容や、それまでの経歴を教えてください。
斉場さん(以下斉場)「私はインターネットを使ったライブ配信のお仕事をメインにさせていただいています。特にHubさんとのご縁はHubさんが映像制作担当、私がライブ配信業務担当で、彼らの撮影した映像をリアルタイムにみなさまにお届けするというのが私の仕事です。
ライブ配信事業で独立して仕事を始めてからは今年で8年目になりますね。それまでは実は福祉の仕事についていて、地域福祉事業に携わっていました。地域のご高齢者の方が一人ぼっちにならないようにボランティアさんを育てたりとか、交流会を開いたりとか、そんなお仕事をしていました。
その福祉の仕事をしている時に、『こんなにいい仕事をしている人たちがいるのに、それを知っている人たちが少ない。むしろいいことをしている時はそれをあまり表に出さないのが美徳のような風潮があって、それでは人と人の輪が広がっていかないんじゃないか、そんなの勿体無い。』とずっと思っていたんです。
その頃、昔から大好きだったコンピュータを趣味でよく使っていたんですが、2010年ごろからTwitterやFacebookといったSNSが流行りだして、そのSNSを通じて、普段福祉の人としか接点がなかった私の人脈がわっと広がったんです。熊本の商店街のすごい方とか、ホテルマンとか、一番すごかったのはJAXAの方とも繋がり、そのご縁で熊本でJAXAの方をお呼びしてのイベントが実現したり、地域のネットワークの裾野が一気に広がっていったのを感じました。その時『あ、これからコミュニケーションのあり方は変わっていくな』と思ったんです。当時はアナログのコミュニケーションとデジタルのコミュニケーションを分けて考えている人が多かったんですが、そうじゃなくて、デジタルのコミュニケーションがアナログのコミュニケーションの幅と高さまで広げてくれる、そして世界が変わるな、と。」
ただ私が当時所属していた福祉の業界は、やはり膝と膝を付き合わせたコミュニケーションを重んじている業界だったので、当時はその福祉の環境でデジタルコミュニケーションの融合を試みる機会に仕事上では恵まれなかったところ、『くまもとサプライズ』というプロジェクトに出会い、自分の手でデジタルコミュニケーションの可能性にチャレンジすることができました。」
2010年SNSで繋がった人のご縁の力を借りて、はじめての全国ライブ配信プロジェクト「twitrain」を実現
<熊本☆全世界配信中!のtwitrain>
斉場「『くまもとサプライズ』企画とは、2010年に九州新幹線全面開業の前年に実施された熊本県の地域PRプロジェクトで、あのくまモンはこの企画の時に生まれた宣伝用のシンボルキャラクターだったんです。この時のテーマが、『熊本県民が自らの周辺にある驚くべき価値のあるものを再発見し、それをより多くの人に広めていこう!』というものです。私は当時、お金をかけるのではなく知恵で熊本の認知をあげていこうとするこのコンセプトに非常に共感して、私も何かできないかな?と思いました。仕事面でなかなかデジタルコミュニケーションの出番がなかったので、社会活動面で何か活用できないかと考えたんです。
この頃にUSTREAMというライブ配信プラットフォームに出会いまして、このUSTREAMを使って何か面白いことはできないだろうか、と考えたのが『twitrain』という企画でした。熊本の路面電車にカメラをつけて、熊本のまちを走っていくのをライブ配信するというもので、SNSでそれを発信したところいろんな仲間や出資してくれる方などが集まりました。この時色々とぶつかった壁もありましたが、SNSを通じて仲間が増えたことで様々な立場からサポートが入り、個人のアイディアから始まったこの企画は最終的には1,291名が視聴する全国放送を実現することができました。SNSがリアルの現場に起こした奇跡を、この時に実体験したんですね。
<市電からライブ配信をする斉場さん>
この時の体験から『SNSやライブ配信といったITと地域が結び付くと非常に面白いことができるな』と思う様になり、福祉業界にいる自分の仕事とのギャップを感じはじめ、ついに思い立って2013年に『さいばーとれいん』として独立。ライブ配信事業を中心とした事業をはじめました。」
ライブ配信事業はさいばーとれいんの看板事業であると同時に、2020年になるまでずっと赤字!?
斉場「『さいばーとれいん』は、人と人をつなぐ列車になるという願いを込めてつけました。私、電車も大好きなので。そしてロゴに使われているペンギンはファーストペンギン。。デザイナーさんが、私の取り組みと姿を⾒て提案してくれました。ファーストペンギンとは、群れの中でたった一匹だけ天敵がいるかもしれない海に飛び込むペンギンのことで、ライブ配信も当時は誰も稼げている人がいない事業だったので、そんな中で最初の一匹になっていこうと、そんな想いが込められています。
<ファーストペンギンをあしらった「さいばーとれいん」社ロゴ>
そんな当時お金にしている人のいなかったライブ配信事業は、この『さいばーとれいん』の一番の看板事業であると同時に、今年2020年に入るまで一番の赤字事業でした(笑) ライブ配信のお仕事が入るとボーナスが入った!と思っていたくらいです。ただ"ライブ配信やってるおもしろい人がいるよ!"と、ライブ配信がいいアイコンになってご相談いただく機会は増えました。なので【地域の情報発信のお手伝いします】をテーマに、ライブ配信だけではなく、ホームページ制作やチラシのデザイン、イベントの企画など、お客様の課題に合わせてご提案させていただいています。」
USTREAMからYouTuber、そして2020年コロナ禍における新しいコミュニケーション手段としてのライブ配信の時代へ
斉場「ライブ配信といえば、2010年ごろトップを走っていたサービスはUSTREAMだったんですが、USTREAMのサービスだけではマネタイズができず、2016年には売却され、今はIBMのBtoBのビデオ会議サービスに形を変えてしまっています。そんな流れもあり2015年ごろに一度日本におけるライブ配信の一次ブームは終わり、その頃からYouTuberが代わりに流行りだしました。ライブ配信ではなく、録画された動画の配信が主流になっていったんですね。
ライブは以降下火になり、もともとコンテンツ力のあるアイドルのような方か、逆に中高生などのおしゃべり配信といった二極化された利用が主流になっていきました。つまり私が事業としてやりたかったような、テレビ局に来てもらわないと取材してもらえなかった地域のお店や活動を自分たちでPRする、地域での放送局のような中間の立ち位置での利用がほとんどされていなかったんです。技術屋として生きようと思っていた私のような人間には冬の時代でした。
そして今年になって新型コロナウイルスの流行によりリアルコミュニケーションができなくなったことをきっかけに、代わりのコミュニケーション手段としてのライブ配信のご相談が増えてきました。一度コロナの流行でイベント自体の開催が減り、イベントに付随していたライブ配信のお仕事の数は減ったのですが、今度はリアルイベントの代替としての無観客でのライブ配信や複数会場にわけての開催の中継、Zoomでの会議の中継など、ライブ配信をメインとしたお仕事に変わっていったんです。
そうすると、色々と複雑なシーンでのご利用も多く、Zoomなども普段使うには非常に気楽なのですが、イベントとしてライブ配信を確実にお届けしようと思うと、マイナートラブル(マイクのハウリング、遅延、通信トラブル等)が非常に多く、私たちがこれまで蓄えてきた知識やノウハウでかなりお役に立てるシーンが増えてきているなと感じています。一方で今まではリアルイベントにプラスαでの配信、というおまけのような形だったのが、今度は配信ありきのイベントのコアになってきたことで、私たちに課される責任も非常に大きくなってきていますね。」
Facebookライブ配信はローカルビジネスに実はオススメ!
斉場「私がお受けする場合、特にご指定がなければYouTubeかZoomのどちらかでお受けしています。あとはあまりお客様からご要望が出ることは少ないのですが、Facebookライブ配信は実はオススメです。
Facebookのライブ配信は、つながりのある方に強制的にお知らせが必ずトップに出てくるんです。Facebookの中で、ライブ配信コンテンツの優先順位が一番高いんですよね。例えばFacebookページで配信したらいいね!をしてくれている方に確実に通知が届き、個人ページで配信すればつながりのある知人に確実に通知が届きます。YouTubeライブ配信などは、そもそもそのYouTubeへの導線がしっかりできていなければ集客は難しいですが、Facebookは日頃のコミュニケーションの積み重ねで作り上げられたコミュニティがそこにあり、しかも実名でのコミュニケーションができている。そんな興味・関心をもっていただいている方に確実に届くFacebookライブ配信は、ローカルビジネスには非常に向いているライブ配信プラットフォームだと思っています。
また、拡散についてはそれほど爆発的に拡散しない代わりに、やはり実名で登録されている分Facebookは炎上の危険性や影響が小さいという特性もあります。」
ーYouTubeでのライブ配信とFacebookでのライブ配信で、お客様とのコミュニケーションのやりやすさに違いはありますか?
斉場「どちらもそこまで変わらないかなと思います。FacebookはFacebookの個人アカウント、またYouTubeはGoogleアカウントの登録が必要で、そこの敷居はどちらも同程度。またどちらも結局のところは全く新規の方に配信を見てもらうことはまず難しいので、日頃のコミュニケーション努力が必要です。企業プロモーションという観点からはこの二つはそこまで差はないと思っています。
では日々のコミュニケーションはどちらがやりやすいかというと、Facebookの方が毎日の投稿を文字・写真・動画さまざまな形で更新できますがYouTubeは動画のみでのコミュニケーションになるためハードルが高いので、Facebookのほうがわかりやすくやりやすいと思います。またFacebookはそもそも繋がりを深めコミュニケーションをするためのSNSである一方で、YouTubeはあまりにも広い海で石を投げ続けながら、たくさんの人が眠る海原でどんなコンテンツが喜ばれるか見つけていく作業が必要になるので、99.9%がまずそのプロセスで挫折してしまうというのも難しいところですね。」
TV局は99.999%、ライブ配信は90%?!
<最近導入された専用機材ボックス!>
斉場「TV局は99.999%放送ができないとできないと事故扱いですが、ライブ配信ではそれを基準とするときちんと配信できているのは体感としておよそ90%くらい。どうしても1割程度は何らかのトラブルが発生してしまうリスクがあります。
もちろんそんなトラブルがなるべく起こらずハイクオリティな配信ができるよう、私も日々機材やシステムをアップデートしていっています。とはいえそこで単価をあげて地域の方が頼みにくい価格になってはこの会社のコンセプトでもある『地域の身の丈にあった小さな放送局』が実現できなくなってしまうので、技術を高めて大きな案件も受けられるようにしていくと同時に、地域の方のご要望にも適正な価格でお応えできるようになっていきたいというのがこれからの私の目標です。」
ライブ配信の魅力は【共時性】と、双方向コミュニケーションによる【成長するコンテンツ】
<壁には配信のための吸音材、顔に影をつくらないための専用ライトも>
ーライブ配信でのコミュニケーションにある、他の手法と異なる魅力というのはどういうものでしょうか?
斉場「私は【共時性】と呼んでいますが、配信者とそれをみているお客様がリアルタイムに同じ時間を共有することができるということが、ライブ配信の持つ強みだと思っています。
たとえば最近Perfumeのコンサートのライブ配信は、最近では7万人集まったという実績があります。今までライブ会場に足を運べなかった離島の方や海外の方などがこぞってライブ配信を視聴したからですが、でも例えばそこで綺麗な映像や音質を求めるのであれば、ライブのBlu-rayを買った方がいいわけです。今のインターネットの配信技術では音も映像もスマートには流れないのにそれでもライブ配信に7万人もの人が集まるのか。それはやはり"同じ時間を共有したいから(共時性)"だと思うんです。ここに他にはない、ライブ配信にしかできない魅力があると思っています。
また、一方向ではない双方向の配信では、配信が成長していくんですよね。視聴者からのコメントが配信者を育て、またそのコミュニケーションから視聴者も文化を理解した人が残っていく。ニコ生はまさにその文化が育ったプラットフォームだと思います。
どんなサービスでも、最初わさもん好き(新しいもの好き)が集まっているときは仲間意識で伸びていく。そこに裾野が広がり、リテラシーが低い人たちが増えることで、荒れてしまう時期が来る。その中でやめる人、生き残った人がいて、排除のルールなどができていき、そして落ち着いた人たちが残って成熟した文化を作っていく。ニコ生はここまで来ていますよね。」
ーこれからライブ配信でしてみたいことはありますか?
斉場「これからのウィズコロナの時代、おそらくライブ配信は根強いニーズがあるだろうと考えていて、それを私もしっかりお引き受けして、社会に求められているこの10年間のノウハウをもって自分の役割を果たしていきたいなと思っています。
そしてもう一つは、肩肘張らずに地域の今までライブ配信になんて触れてこなかったような方たちが気軽にライブ配信をできるようなプチ番組をやったり、ライブ配信の文化作りをしていきたいなと思っていますね。チラシを作る、ポスティングするのと同じくらいの感覚でYouTubeを作ってみたり、このルーロ合志にある私のスタジオでライブ配信をやったりしてファンづくりをしたりできる環境づくりができたらと。ルーロ合志もそういった地域との接点を作っていくことをミッションとしている施設だと思いますので、私みたいな事業者がそういったお手伝いができたらと考えています。」
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写真・文:谷本明夢
インタビュー・素材提供:斉場 俊之