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国際線の飛行機でドクターコール

よく倒れる母

平日に公開している記事の主役は我が家のマメルリハ・シャル。シャルと同居している母と私、そして弟がニューヨーク旅行へ行っている間、シャルが10日間ほど私の友人に預けられていた時の話が以下である。この記事を書いていた頃、その旅行中のある思い出が脳裏によみがえった。

シャルが友人のところでわがままを言ったり、私たちに置いて行かれたことを恨んだりしている間、旅行中の私たちにはある事件が起きた。帰りのニューアーク空港から成田空港へ向かう機内で母が倒れたのである。

倒れたとはいえ、そこまで重症の急病というわけではない。その時実は、「ああ、いつものか」くらいにしか私も弟も思わなかった。なぜなら昔から「何だか気分が悪い」「具合が良くない」と急に倒れることが母はよくあったからだ。しばらくすると、起き上がって少しずつ元に戻っていく。

あまりによくあるので、母自身もいちいち病院にも行かない。むしろ病院に行ける元気が出たころには、行ったところで原因がよくわからないまま終わるからだ。腎機能が少し低下しているのもあり、貧血か脱水だと本人も経験上わかっている。

まさかの「お医者様はいませんか」

ニューヨーク滞在中、宿泊していた家の人が、「せっかくニューヨークに来たんだから、ちゃんと観光に行きなさい!」と毎日私たちを追い立てるように外に出していた。おっしゃる通りなのだが、日頃からスタミナに自信のない私たち家族は、しかたなく身体を引きずるようにして、毎日ハドソン川を渡ってマンハッタン島へ通う(隣のニュージャージー州に滞在していたため)というハードな観光だった。

普段から毎日は外出しない、休みも基本的に家にいることが多い私たちにしては、よく頑張ったと思う。が、一番年齢の高かった母の身体にはやはり堪えることであり、見知らぬ土地での緊張や疲れから、知らず知らずのうちに食が減り、水分補給もし損ねていたかもしれない。

離陸後、シートベルトを外してもよくなったタイミングで、母は具合が悪すぎて弟と席を代わってもらおうとした。弟は身長が高くて通常のエコノミー席ではより窮屈なため、私と母の座席から通路を隔てたちょっと広い席に座っていたからだ。

ところが、限界だった母は間に合わずそのまま通路に倒れこんでしまった。黒人で体格のいいパーサーが起こしに来てくれたが、動くと目が回るということで母は一旦そのまま横になったままだった。

母ほどではないにしても、私と弟も疲れていたため、英語でなんて言っていたか覚えていないが、「Doctor」という単語の入った放送が流れた(気がする)。まさか身内に「お医者様はいらっしゃいませんか」が起きるなんて。

私と弟は、経験上母を横にさせておけば、しばらくしたら座席に戻れるだろうと思っていた。しかし旅客機の通路を人でふさいでおくわけにもいかないだろうし、そういう微妙な母の状態を私たちは英語にできず、申し訳ないが成り行きに任せてしまっていた。

倒れた母を移動させる

ドクターコールの前に、たまたま近くにいた日本人女性(と確信できるほど日本語の流暢な女性)が、母のきれぎれの日本語をパーサーに通訳して伝えてくれていた。そして、日本人ではない東アジア系の若い女医さんと白人の年配男性のお医者さんが来てくれた。そしてその二人にも通訳をしてくれた。

通訳してくれた女性は、「人が倒れた」という事態に対し全く慌てていない私と弟が、倒れている人間の家族であることにしばらく気付いていなかった。彼女が周囲のパーサーや医師たちと話している途中で、私たちがわかっている母の状況を説明して伝えてもらった。すごく手際よく伝えてくれていたから、プロの通訳だったのかもしれない。

母としては、横になっていたいというのが希望だったが、後からやってきた客室乗務員の責任者らしき、金髪の白人女性によれば、航空関連の法律的に通路に寝かせておくわけにはいかないとの事だった。そのため、通路に挟まれた4席のうち、母と私以外に日本人のご夫婦かカップルが座っていたが、客室乗務員の方が交渉して席を代わってもらい、空いた座席の分も使って母を横にならせることになった。

2人のお医者さん

母の移動について客室乗務員の責任者が、手際よく調整している間に、男性医師の方が「貧血ならオレンジジュースを飲ませた方が良い」と言い出した。そして母を最初に起こそうと手を貸してくれたパーサーさんが、素直にオレンジジュースをを持ってきた。

助けに来ていただいてなんだが、本気か???
貧血で気分の良くない時にオレンジジュース????
鉄分不足にオレンジジュースは良いらしいけど、
まさに気分の悪い今???
ていうか普通吐くぞ????

迷惑をかけている事態を分かっている母はどうにか起き上がり、パーサーにお礼を言ってありがたく飲んだが、飲み込んだそばから戻してしまい、それ以前よりも明らかに弱った。

弟がまた上体を起こしていられなくなった母を支え、席を代わっていただいて空いた一番端の座席に私が座り、3席使って母を横にならせた。

もう一人の女医さんは、やって来た当初から母の身体を触診して状況を確認し、酸素を吸わせてくれていた。そのおかげで一度上体を起こせるようになった(そしてオレンジジュースで台無し)。後で知ったのだが、上空では身体に必要な酸素が不足するので、人によっては母のようになるらしい。酸素を吸わせる以外にも座席に母が横になってからは、腕や手をさすったりして母を介抱してくれていた。

男性医師の方は、オレンジジュースすら飲めなかったのに貧血の前提で「食べられたら、ポテチかカップヌードルでも食べると良い」とまでも通訳の方によると言い出したらしい。気持ち悪い時に無理だって!あの人は本当に医者だったのかな?

主に女医さんの介抱もあり、母の様子が落ち着いてきたので、私と弟はその場にいた方々全員にお礼を言い、解散していただいた。私の方が母のそばにいたので背中をさすったり、様子をみたりして過ごした。

たいして私は何もしていないが、一連の騒動でより疲れが増してしまい、もともと美味しくはない機内食は一口も入らなかった。弟もそれは同様で、二人とも疲労と母の心配で着陸するまで無言だった。

健康の大切さ

飛行機を降りる時に、お世話になったパーサーと責任者の方には英語でお礼をきちんと伝えられた(もうその英語を覚えてないが)。その後、母は倒れていて顔を見ていないお世話になった通訳の女性やお医者さん(たち)、席を代わってくれた方々に会ってお礼が言えないかと空港の到着ロビーへの広い通路で待ってみた。

お医者さんたちには会えなかったが、他の方々にはお礼申し上げることができた。特に直接改めてお礼を言えなかった女医さんには何か幸あれと祈りたい。

ちなみに下世話なことを言うが、あれほど世話を焼いていただいたけれど診療代やら酸素代やらは請求されなかった。無知な私は請求されるかと思っていた。旅行保険で適用されるかな、とまで心配したがそういうものらしい。

それにしても、健康でないと本人も辛いし、周囲にもたくさん迷惑をかけてしまう。私や弟も母の弱さを多少受け継いでいるポンコツなところがあるので、健康にはやはり気を付けたい。私も夏は脱水になりやすい。とりあえず具合の悪くない今は、水分とってオレンジジュース買っておこうかな。

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稲生瀬鴉(いのうせあ)
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