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【シリーズ】青春はとうに潰えていた【不安障害】
私はトイレの個室でひたすら耐える。
皮膚に爪を立て髪を掻き毟り、どうにかしてこの眩暈と吐き気を抑えようとする。
片田舎の駅のトイレにはクーラーなどない。蒸し暑さとトイレの臭気がまた私の吐き気を後押ししてくる。
足をばたつかせる。太ももをこぶしで殴る。とにかく必死でなるべく静かに暴れる。それでも謎の眩暈と吐き気は収まらず、私は独り、今この瞬間世界が終わればいいと心の中で叫んだ。
___夏である。
その日は、映画を友人と見るために電車に乗っていた。
いつも通りの電車のアナウンス。いつも通りの乗客の少なさ。いつも通りの電車からの景色。何もかもいつも通りだった。
私はこれから観に行く映画に胸を高鳴らせながら映画館の座席表をチェックしていた。そのときだった。
‘‘‘ドクンッッッ‘‘‘
心臓が一瞬大きく拍動したかと思えば、いきなり鼓動がとんでもない速さになった。胸が高鳴るとかいうレベルの速さではない。この速さでもし高鳴ってるだけだというなら、その人はとうの昔に死んでいるだろう。
それに次いで眩暈と吐き気までやってきた。特に吐き気は私の一番嫌いな狼藉者だ。今はお呼びじゃない。帰れ帰れ。
当時はこんな悪態をつく余裕すらなく、ただただ謎の動機と眩暈と吐き気に電車の中で耐えていた。
電車が駅のホームにつくと急いで駅のトイレに駆け込む。それからは冒頭の通り酷い有様だった。なんとか友人に連絡を入れ、映画のキャンセルを伝えた。
この時、私の心の中の何かが芽を出したような気がした。