性被害に遭った後、私がしたこと

記事作成 神谷 絢栄       編集協力 工藤 春香

私は19歳の頃性被害に遭いました。具対的には「強制わいせつ」の被害に遭い、刑事事件化したものの不起訴となりました。
その後私はPTSDを発症しましたが、現在は治療を経て状況は改善してきています。
このnoteでは日常生活を送ることがとても辛い状態から、ある程度普通に生活が出来るようになるまでの過程や、その際に利用した施設について、実体験をもとにシェアしていこうと思います。

 性被害後の症状は人それぞれで、中には性被害に遭ってもPTSDにならない人もいます。何がどのくらい辛いか、何がトラウマとなるか等は人それぞれ違います。このnoteの記事はあくまでも私の症状や、私の経験について書いています。PTSD症状の改善に至った1つの事例として読んでいただければと思います。
また、私自身自分の被害について、主に被害後のあらゆる手続きについては記憶が薄く、完璧に思い出すのが難しい状態です。また治療を行っていた時の記憶も曖昧な部分があり、治療に対しての認識も専門的な視点から見れば間違っているものもあるかもしれません。
被害に関する書類や被害当時に書いたメモを読み返しながら、なるべく時系列などは正しく書きましたが、あくまでも、治療を受けた1人の当事者の体験談として、「このような感じだった」という事が伝わるといいなと思います。


1)治療を受ける前 

●PTSDとは?
「PTSDとは外傷後ストレス障害(PostTraumatic Stress Disorder)の略語です。
生死にかかわるような実際の危険にあったり、死傷の現場を目撃したりするなどの体験によって強い恐怖を感じ、それが記憶に残ってこころの傷(トラウマ)となり、何度も思い出されて当時と同じような恐怖を感じ続けるという病気です。
こうした体験の後では、誰しもが、繰り返しそのことを思い出したり、恐怖を感じたりするものですが、普通は数週間のうちに恐怖が薄れ、記憶が整理されて、その体験が過去のものとして認識されるようになります。PTSDでは、トラウマの記憶が1カ月以上にわたって想起され続け、下に述べるような症状をともなっており、また生活面でも重大な影響を引き起こしていることが特徴です。」
☆引用:厚生労働省 みんなのメンタルヘルス
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_ptsd.html


●よくみられる症状
突然、つらい記憶がよみがえる
事件や事故のことなどすっかり忘れたつもりでいても、ふとした時に、つらい体験の時に味わった感情がよみがえります。
それは恐怖だけでなく、苦痛、怒り、哀しみ、無力感などいろいろな感情が混じった記憶です。
周りからみると、何もないのに突然感情が不安定になり、取り乱したり涙ぐんだり怒ったりするので、理解に苦しむことになります。
その事件や事故を、もう一度体験しているように生々しく思い出されることもあります。また、同じ悪夢を繰り返し見ることもPTSDによくある症状です。
常に神経が張りつめている
つらい記憶がよみがえっていない時でも緊張が続き、常にイライラしている、ささいなことで驚きやすい、警戒心が行き過ぎなほど強くなる、ぐっすり眠れない、などの過敏な状態が続くようになります。 
記憶を呼び起こす状況や場面を避ける
何気ない日常の中につらい記憶を思い出すきっかけがたくさん潜んでいます。多くのPTSD患者さんは何度も記憶を呼び起こすうちに、そうしたきっかけを避けるようになります。
どんなことがきっかけになるかは本人でなくてはわからず、本人も意識できないままでいることもあります。
意識できない場合でも、自分で気づかないうちにそうした状況をさけるようになるのです。
その結果、行動が制限されて通常の日常生活・社会生活が送れなくなることも少なくありません。

感覚が麻痺する
つらい記憶に苦しむことを避けるために、感情や感覚が麻痺することもあります。そのために家族や友人に対してこれまで持っていたような愛情や優しさなどを感じられなくなったり、人にこころを許すこともできなくなりがちです。
これは、つらい経験の記憶からこころを守るための自然の反応なのです。    
いつまでも症状が続くこうした症状は、つらく怖い経験の直後であればほとんどの人に表れるものです。ですので、事件や事故から1ヶ月くらいの間は様子をみて、自然の回復を待ってみます。
数ヶ月たっても同じような症状が続いたり、悪化する傾向がみられたら、PTSDの可能性を考えて専門家の診断を受けてみてください。             ☆引用:厚生労働省 みんなのメンタルヘルス
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_ptsd.html


私の主な症状は、上記の項目で言うと、

●突然、つらい記憶がよみがえる
●常に神経が張り詰めている(特に不眠)
●記憶を呼び起こす状況や場面を避ける

でした。

事件直後は、「被害によって大学に行けなくなったり、制作ができなくなったりするのは嫌だ」という気持ちから、「なるべくいつも通りに生活したい」という気持ちが強くありました。
また、病院や支援施設にアクセスする事で「被害にあった」という事実を突きつけられるような感じがして、はじめはどこかの支援施設で治療を受けようとは考えていませんでした。「時が経てば忘れる事ができる」「おおごとにしたくない」という気持ちが強かったです。


しかし、「加害者に会ってしまったら?」という事ばかりが頭をよぎり、行きたい場所に全く行けなくなってしまっている事や、加害者に似ている人を見ただけで気分が悪くなり1日の予定がほとんどこなせなくなっている事等、もうすでに「いつも通り」に生活することが無理になっている事に気が付いた為、治療を受ける事を決めました。治療を受けると決めるまでに、私の場合は3年かかりました。

2)私が利用した機関 

私が利用した機関は主に、NPO法人性暴力救援センター・東京(SARC東京)、公益社団法人被害者都民支援センターの2つです。

●NPO法人性暴力救援センター・東京(SARC東京)
24時間の電話対応をしてくれる、ワンストップセンター(面接相談・産婦人科的医療の提供・希望があれば警察への通報や、必要に応じて他機関を紹介してくれるなど、性被害に関する総合的な支援をしてもらえる場所)です。

性暴力救援センター・東京(SARC東京):https://sarc-tokyo.org/about

●公益社団法人被害者支援都民センター
(性犯罪に限らず)犯罪被害者の総合的な支援を専業とする団体です。
電話相談も可能で、月・木・金が9時30分〜17時30分、火・水が9時30分〜19時の間で相談に乗ってもらえます。(新型コロナウィルスの影響により、現在は月〜金10時〜17時となっています。)

公益社団法人被害者支援都民センー:http://www.shien.or.jp/aboutus/index.html

NPO法人性暴力救援センター・東京(SARC東京)は事件の担当刑事さんから紹介された場所で、被害届を出した際逆恨みされないかが怖かったのと、裁判をする事になった際、私がどのような事をしなくてはいけないのかが知りたくて相談に行きました。一連の相談に乗ってもらった後、弁護士さんを紹介してもらいました。
公益社団法人被害者支援都民センターは、母がインターネットで検索して見つけ、教えてくれた場所です。ここでは事件後のメンタルケアに関するサポートをしてもらいました。

3)治療の最中 

ここでは主に、PTSDを直す為に受けた「PE療法」の治療中のことについて書いていきます。
治療中は、眠れなくなったり、不安感が強まったり、別のトラウマ的出来事の記憶が急に思い出されたりと、一時的に症状が後退しているような感じがありました。
元々カウンセラーさんから説明を受けていたので覚悟はしていましたが、かなり苦しく治療を断念するか度々悩みました。

PE療法の踏むプロセスは大まかに以下になります

・心理教育
 トラウマ後の一般的な反応の説明など。
 ・呼吸再調整法
 自分を落ち着かせるための呼吸法の指導。
・現実エクスポージャー
 トラウマによる苦痛や不安のために患者が避けている状況や対象に対して、繰り返し行う。 
・想像エクスポージャー(想像の中でトラウマ記憶に立ち戻って話すこと)トラウマ記憶に対して、繰り返し、持続的に行う。
☆引用:PTSD(心的外傷後ストレス障害)の認知行動療法マニュアル(治療者用) [持続エクスポージャー療法/PE 療法]持続エクスポージャー療法(Prolonged Exposure Therapy: PE)のプロトコル(概要)
作成者:金吉晴、小西聖子 
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000115165.pdf

私が特に印象に残っているPE療法のプログラムは「現実エクスポージャー」と「想像エクスポージャー」です。今回は主にこの2つの療法について書いています。それぞれ大まかに、以下のようなことをしました。

●想像エクスポージャー
カウンセラーさんと一緒に行います。目を閉じで、トラウマになっている出来事についてなるべく事細かに、「~~しています。」というような現在形の言葉でふり返ります。この音声は録音しておいて、家に帰って毎日聞く「宿題」というものが出されます。

●現実エクスポージャー
自分一人で行います。自分がトラウマ的出来事を経験した後、なんとなく避けてきていたことや出来なくなってしまったことに「宿題」という形で取り組みます。
はじめは簡単なものから、徐々に難易度を上げていきます。

実際にやってみての私の感想は以下です。

●想像エクスポージャー振り返り
支援センターで被害について振り返りをすることよりも、家で一人で録音の音声を聞く事の方が辛かったです。1回目の時は、音声を聞くのが怖くて本当に憂鬱でした。最初の頃は嫌すぎて、YouTubeで別の動画を見たりしながらなんとか聴いていました。(このやり方は、録音音声を聞かないよりはいいですが、あまり良くないら方法らしいです)
初めて音声を聞き終わった日は、その後ずっと横になってただぼーっと過ごしていたように思います。
しかし、宿題をやり続けるうちに(その日の体調によって精神状態にばらつきはありますが)被害の記憶に「慣れていく」ような感じがありました。被害の記憶に慣れるなんて、治療を受ける前の自分には信じられないことでした。治療が終わりに差し掛かる頃には、自身の被害の話を「辛いけど振り返る事ができる」という状態にまで状態が改善しました。


●現実エクスポージャー振り返り
1回目は本屋さんに行って本を買うという課題だったように思います。この宿題をやった時に、「1人で外出するのは久しぶりだ」と思ったように思います。被害以降、「気楽な気持ちで買い物に出かける」ということをしてこなかったことにこの課題を通して改めて気付かされました。
本屋では謎の不安感や被害にあったことをふと思い出して、気持ちが混乱し涙が出ました。
しかし、この宿題をする事によって、今まで避けてきた事に、「治療」という明確な理由付けがされ、取り組めるようになりました。宿題をこなすことで、今まで避けてきた事が普段の生活でもだんだんと自然に出来るようになっていきました。
治療の最後の方で、被害後私の最も苦手な場所であった美術館に行くという宿題をこなせたのは本当に嬉しかったです。元々は美術館に行くのが好きだった事を思い出すことが出来ました。1人ではなく友達と一緒でしたが、展示の手伝いや大学の授業以外で美術館に行くのは本当に久しぶりでした。

4)治療を受けて 

治療プログラムを一通り受け終わった後は、一人で街をブラブラ出来るようになったり、大学の勉強に集中出来るようになりました。例えば、落ち着いて批評文が読めるようになったり、画集を見る事が苦ではなくなりました。治療を受けるまでは、そういった事はほとんど出来ませんでした。なぜ上記のことが出来なかったのか、自分でもよく分かりませんが、性被害にあって以降、無意識に避けていたことが、治療を受けてからは出来るようになっていきました。また、治療を受けたことでだいぶ精神が落ち着いたと感じ、生活を送ることのハードルも大きく下がりました。
被害にあった事は今でも辛い思い出ですが、その出来事を「なかった事」として目を背けて生きている時より、圧倒的に心が楽になり生きやすくなりました。まだ被害に遭う前と同じようには出来ない事も多く、完全治癒とは言えないですが、確実に「いつも通り」の生活を取り戻しつつあります。


5)その他の施設 

2、)私が利用した機関で紹介した「性暴力救援センター・SARC東京」のようなワンストップセンターは東京都だけではなく全国の都道府県にあります。各都道府県のワンストップセンターについての情報は以下のサイトで見る事ができます。(2020年7月18日現在)

☆引用:性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター一覧
http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/consult.html

※しかし、SARC東京のように24時間の電話対応を行っていない場所もあります。

私は性被害に遭うまで「ワンストップセンター」という場所の存在を知りませんでした。「もっと早くに知っていたらよかったのに」と常々思います。


6)おわりに 


私が上記で紹介した各施設は、全て母を経由して知った場所です。私の場合は、サポートしてくれる施設を探すのも、そこの予約をとるのも、当日電車に乗ってその施設まで行くのも、全て母が一緒に行ってくれました。きっと、母のサポートが無ければどの施設にもアクセスすることは出来なかったと思います。そのくらい、被害後はなにも出来ない無気力な状態でした。被害者支援施設に辿り着いた後は、そこで様々なサポートを受けることが出来ました。しかしそこにたどり着くまでのハードルがとても高かったと被害当時の状況を振り返って思います。

自身の経験を通して、性被害について言い出しづらい空気は確かにあると感じています。被害者側の落ち度を探し、バッシングが起きる、そういった「黙っていた方が正解」な空気によって被害者が周囲に相談出来ぬまま一人で問題を抱え込み、専門機関へのアクセスもないままに孤立してしまう、という事は性被害に関する1つの大きな課題だと感じています。

この記事で紹介したような「被害者支援機関」の存在がより多くの人に知られ、困っている人がさらにアクセスしやすい場所に、社会になる事を願います。

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