東京の台所、イギリスの庭
暇になると眺めたくなる朝日新聞ウエブ digital 「東京の台所」シリーズ。大平一枝さんの書かれるこのコラムは、決してゴージャスとかモデルハウスのように整っているモデルキッチンのような台所でなく、むしろ狭くて、それでいてその人柄が現れる台所。
そういう感じ、贅を尽くした庭師の手がける庭ではなく、人と寄り添う、家族と楽しむ、そんな個人のお宅のお庭を見せていただく機会があったので、「東京の台所」風にレポートしてみたいと思います!
<1> 夫は車庫で物作り、妻は庭で一日を過ごす
〈住人プロフィール〉
スコットランド、エディンバラ、庭付きのベースメントフラット
妻(>80歳)
夫(>80歳)とふたり暮らし
近くに子供、孫(人数不明)
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日本からエディンバラに帰ってきた時、家のごちゃっとなったポストに、ハガキが入っていた。ご近所に住んでいるご夫婦から、庭を見においでと書いてあった。
始まりは去年の夏にたまたま通りかかった時にご夫婦の家の庭のドアが開いていて、綺麗なお庭ですね、と声をかけたのがきっかけだった。お世辞でも、社交辞令でもなく、本当に綺麗だったので。その気持ちがきっと通じたのだと思う、覚えていてくれた、また春に見たいと言ったことを。
80+歳が作る野草園
「もう80歳はとうに越えているのよ、でも毎日庭に出るの」という彼女は今も庭で土をいじっていたという雰囲気の作業用エプロンに土のついた指。
「ここにあるのは全部、園芸店から買ってきたものは一つもないの。地面から勝手に出てきたもの、種が風で運ばれてきたもの、虫や鳥が運んできたもの、ここが気に入って出てきてくれたものばかり、元々あったものや貰い物もあるけれど。」
その通り、彼女の庭はいわゆる野草園と言ってもいい、空き地や野原に咲く雑草、野草で満開だった。
忘れな草を指差して、「青色が微妙にこれとこれでは違うのよ。私は孫と一緒に虫メガネで見るの」。私の母はクリスマスローズとか白バラとか白い花が好きと言っていたことがあったけれど、私はあえていうなら青い花が好き。特にイングリッシュガーデン(いや、スコティッシュガーデン)はブルーベルやクロッカスなど青い花が多くて、柔らかい陽の光と絶妙の美しさを出すと思う。
うちの庭は虫と共存
ある日、なめくじが新芽を食べてしまうことに気付いたけれど、なめくじ退治除去の薬物は使いたくない。そこで卵の殻を砕いて地面に巻くとなめくじは乾いたトゲトゲしい表面を好まないらしくて、何とか撃退することに成功した . . . という話とか、うちの庭は虫と共存、虫は大事なサイクルの一部だから . . と断言するところも、もう大きく頷くしかない。毎日毎日庭を観察している彼女の結論は正しく、それ以上加える言葉は私にも何にもない。
北海道に住んでいた時だったけど、同僚の新築お祝いの際、奥様が「虫が来ないように工夫したスペシャルな防虫シートを敷き詰めた庭なので、」とやや自慢げに語るのを聞いた時には、違う意味で言葉を失ったけれど、女子(特に)の虫に対する恐怖、排他的な態度は自分も含めて深く反省して改めたい。
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どこにでもある普通の雑草だけど
一見すると綺麗な花を咲かせるわけでもなく、必要以上にぐんぐん大きくなって光を遮ってしまうようなこういう雑草(写真下、右)
を指差すと、これは虫や鳥のための自然の水たまりになるから、とっておくのと「今日はあなたにたくさんのことを教えてあげたわね」と小学校の先生のようにちょっとだけ微笑む。確かに、イギリス人てどこか控えめで同時に誇り高く、彼女はそういう意味で典型的なイギリス人だ、そして、私はこういう先生ぽい人々が大好きだ、質問しなくても、どんどん楽しそうに話だすこういう人々がいると私の方が何にも喋らなくてもいいのだと力を抜き、ただその場を楽しむことに徹底できる。素敵だ。有名なターシャさんも素敵だけど、彼女にはターシャさんとは違う素敵さがある。
その花の名前を知っていますか
本当に、彼女は先生だった。うちの庭にある日本からのものはね2種、アネモネジャポニカとキレンゲショーマとスラスラと名前が出てくる(私は名前を覚えるのがすごく苦手)。 いつだったかいわゆるインテリ層のかっこいい人々は植物をラテン語で呼ぶことがあるということを書いたことがあったが、彼女に私の聖地で咲く花、オオバナノエンレイソウの写真を見せたら
これは "Trillium" ね!と言って奥の方に私を連れて行き、彼女の庭にあるTrilliumは "Trillium grandiflorum"よ、と言って見せてくれた。もう花はおわっってしまったけれど、芽が出てから花が咲くまで10年以上かかるらしい。
彼女にはサルコジ大統領がラテン語で花の名前を知ってたからカーラブルーニーが惚れたんですよ、とは言わなかったけれども代わりに、私の聖地のオオバナノエンレイソウのラテン語は知りませんと言ったら、「ラテン語で名前を覚えたら世界中どこに言っても話が通じるのよ」とまたさらに先生度を上げるようなことを言っていた。
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庭で楽しむ
彼女の庭ガイドツアーはローズマリー、ミントなどのハーブだけでなく、ハチミツのような香り、ジェラニウムのような香り、いろんなものを嗅がせてくれて楽しかった。彼女のお子さん、お孫さんはこんなお母さん、おばあちゃんを持って幸せだ。
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毎年花を咲かせる多年草、その土地に昔からずっとある在来種、どこにでもある普通の雑草、野草、そういう花々が好き、そう言う花々、こう言う庭がサステイナビリティそのものだと思うから。
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「東京の台所」風イギリスの庭レポートの第2回があるのかどうかはわかりませんがレポート済ませたみたいな気分でホッとしたわ〜(東京の台所の皆様すみませんでした)。
庭をみせてくれた彼女にも書きましたと報告する予定です、なんて言っても”先生”だからね。
この方の記事の中、フランス人、ジル・クレマンの「動いている庭」が気になる。このmimoza1020さんがキュートです。