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整形外科医の正体

2回目の週末勤務が終わって今日はお休みの月曜日。またまたこんな感じで過ごしました。

実は私自身が正真正銘の整形外科医です(最初に言っておきますが女性です)。なので、我ら整形外科医の正体、生体は詳しいのです。今日は思い切って我ら彼らの正体を探って見ましょう。

男、そしてスポーツ

女医で整形外科医は増えてきてはいますが、やはり男社会です。典型的な整形外科医になりたい・なったというドクターは、男性+スポーツ好き、いや、スポ根の塊みたいな人が多いのはきっとみなさんも知っていますね。

スポーツの得意な人々というのは、思うところに毎回、毎回同じどころに同じタイミングで体の一部を持ってくることができる、例えばゴルフで言えばあの小さな白い球に向かって微妙な飛距離を打ち分けるようになるまで「根性」と「集中力」と「動作の型」みたいなものが必要になります。

このスポーツで要求される「根性」と「集中力」と「動作の型」が実は整形外科の手術の良し悪しのキモであったりするのです。

例えば股関節の骨折のレントゲン写真を載せましょう

矢印の部分が骨折

この2枚の写真は違う角度から撮ったものですがこれを頭の中で2次元→3次元にして、骨折部分のパターンを想像し、どの方向にどの角度でワイヤーやネジを入れていくかで術後の安定性が違ってきます。1度の違いがゴルフの球の飛ぶ方向を変えるように、1度の違いが良し悪しにかかわる。そしてその空間的感覚が大事。”地図を進行方向にクルリと回してみる女脳”では困るわけです。どこで力を入れ、どこで力を抜きみたいな繰り返しの「動作の型」と応用という頭と体のコーディネートに関して言えばスポーツと整形外科医の真髄が似ているのです。

車好き、メカ好き、そして漫画

病院の駐車場にポルシェが泊まっていて、その後部座席に漫画本が置いてあれば、まず整形外科医の車だと思っていいと言われています。ステイタスシンボル欲として、などの理由もあるとは思いますが、この、車そのものが好きという背景にはメカ好きであるという理由があるのではないかと思うのです。メカ好きは整形外科医にとって有利に働きます。何しろ、道具(ツール)は無数にあり、いつどこで何をどのように使うかが醍醐味である職業です。

整形外科医はツールの世界

自分で自分のために特別にツールを作らせるドクターも多数います。例えば私の職場の上司Dall先生が、彼の遠い親戚がDall-Miles cableを作ったというので、整形外科界隈では有名なあれをか、と感心したことがあります。

Dall先生とMiles先生の共同作品なので、Dall-Miles Cable systemと呼ばれている

ちなみに漫画本ということに関して言えば、病気が目に見えない内科と違い、真っ先にいつでもどこでも使用される透けて見えるレントゲンが整形外科医の基本のきというところから、ビジュアル系を好む傾向=漫画好きにある、と思っていたりします。ま、これは無理矢理の結びつけですかね

陽キャラ、いや、不遜な態度

今までいろんな整形外科医と働いてきましたが、最近、特に思ったのが、なんか彼ら、ふてぶてしくて特に偉そうな態度をとることが多いなと。今の職場はエディンバラから1時間ほどの郊外にありますが、エディンバラのいわゆる大学病院から研修医のような若手が2人づつ半年毎に交代で働きにやってきます。例外はもちろんあるものの、典型的にはこの若手整形外科医たちがこぞってなんだか太々しいのです。ちょっとしたプレッシャーなんかにいちいち揺るがない。私は仲の良い同僚にどうしてみんなこんな感じなのかなと聞いてみたことがありますが、英国で整形外科医になるためには競争が激しく狭き門をくぐり抜けているため、そういう人たちがわざと選択されている可能性もあるのではないかと推測しています。

若手たちのイメージ(Twitterより拾ってきた)

よき整形外科医になるためには、どこか、そういう不遜と言っても過言ではないような自信が必要なのではないか。例えば足関節の脱臼骨折を一気に整復するためには手の平の中で骨のゴリゴリっと動く感触があります、それをつい最近、同僚の救急医が「あの骨片の動く感覚が耐えられなくて吐き気を催す」と言っていましたが、整形外科医は全然平気でなくてはならない。いちいち、ああ、痛そうだなとか思っていては先に進まない。手術中に予想以上に出血は止まらなかったなどの場合にも、ドキドキして手が震える様では困るわけです。

負けず嫌いで自分の失敗を許せず、他人の失敗を自分の進歩の糧にして、冷静沈着で、自信家で、我こそがと両肘を横に張り出して真っ先に執刀医を名乗り出るような人材が求められている、遠慮がちで慎ましやかさは無要の長物ということになります。そして俺様ナンバーワンと光り輝きながらどんどん成長していくのです(陽キャラっていうの?)

広い守備範囲、狭い視野

整形外科は内臓以外の筋骨格を診なければならないので、実は全国病院外来患者の50%は整形外科の問題(腰痛、頸痛、外傷など)と言われています。最近は患者さんの方も要求度が高くなってきているので、昔のような全身全部見れる赤ひげ先生タイプよりも「専門」である先生に見てもらいたいと望む人が増え、整形外科もどんどん細分化されており、膝専門、手専門などに狭く、そして狭いからこそ到達できる高みを目指す傾向にあります。内臓同士があまり切り離せられない内科と違って、膝は膝、手は手と専門化されることが結構それで成立しやすい整形外科では、例えば「手しか見ない、後は知りません」のいわゆる専門バカが増えてきています。

聴診器を使わない、心電図をみないなど、いわゆる医者としての一般知識に関して言えば一番頼りにならないのが整形外科医であるということはよくジョークになっています。

整形外科医のための心電図ガイダンス(ジョーク)Twitterより

論文にもなった

以上、スポーツ+漫画+メカ好き+陽キャラ+不遜な態度+狭い視野ということになると、昔から整形外科医=ちょっとバカ?=筋肉脳みたいに言われることが多かったのですが、全ての整形外科医(男)をバックアップする論文がBMJに投稿されしばらく話題になりました。

BMJに掲載された整形外科医と麻酔科医を比較した論文

この論文によると多施設の36人の整形外科医と40人の麻酔科医*を集めて、握力計と知能テストを受けさせて結果を比較しています。握力の強さも知能テストの結果も優位に整形外科医が高かったのだそうです(参加したのは男性のみ)。なのでタイトルも
「整形外科医は雄牛のように強く、頭も良いのだ」。

*麻酔科医はいろんな医者の中でも総合的に頭のキレる全身管理が得意なドクターが多いことで知られています
*論文としてBMJには掲載されましたが、限りなく英国ブラックジョークだと思います、念の為!


もし整形外科にかからなかればならない事態になった時には、以上の生態を踏まえて彼らと対面していただけたらと思います。患者の立場なら優しい先生に見てもらいたいと思うのはごく自然なことですが、ほぼそういう整形外科医を見つけるのは無理難題ということになります。そして、2箇所以上の違う問題を同じ整形外科医に相談するというのがいかに彼らをうんざりさせてしまうか、どうぞご注意ください。

「整形外科医への相談は一度に1箇所だけに絞りましょう」


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山林
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