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マチグヮーのお土産

 旅に出ると、なにかお土産を買って帰りたくなります。旅先で出会った何かを、身近な誰かと共有したり、自分の生活の中に持ち帰ったりしたくなるのだと思います。旅に限らず、まちなかに出かけると、ちょっと何か買って帰りたくなります。

 沖縄土産を買うなら、空港で買うのがいちばん手軽かもしれません。お土産を持ち運ぶ距離も最小限で済みますし、いろんなタイプのお土産が並んでいます。ただ、「県民の台所」と呼ばれる牧志公設市場界隈には、他では買えないお土産があるのです。


はま食品のジーマーミ豆腐


 最初に紹介するのは、牧志公設市場の1階にお店を構える「はま食品」のジーマーミ豆腐です。ジーマーミとは、落花生のこと。「はま食品」は、首里鳥堀町で半世紀近い歴史を誇るジーマーミ豆腐専門店です。

  こちらのジーマーミ豆腐は、昔ながらの製法を守って作られていて、香りと食感が絶品です。「お試しジーマーミ豆腐」(150円)も販売されているので、お土産に買って買える前に、まずは新鮮なジーマーミ豆腐を堪能してもらいたいです。

はま食品」を創業したのは、石垣島出身の大浜りつ子さん。りつ子さんの母・宮城文さんは、小学校の教員を務めるかたわら、郷土史家として八重山諸島の文化をまとめ、『八重山生活誌』を執筆された方です。「はま食品」のジーマーミ豆腐は、そんな宮城文さんのレシピをもとに作られています。

「お店を始めた当初は、今ほどジーマーミ豆腐が一般的ではなかったんです」。りつ子さんの孫で、「はま食品」の3代目・大浜用輝さんはそう教えてくれました。「もともとジーマーミ豆腐を食べる文化があったのは、首里の城下町と、八重山伊江島といった離島だったので、沖縄の方でも馴染みがない方もいたそうなんです。そんな時代に、ジーマーミ豆腐をプラスチックのカップに入れて、ホッチキスで蓋をとめて、リヤカーで近所に販売し始めたのが始まりなんです」

牧志公設市場1階に店舗を構える「はま食品」

 りつ子さんが商売を始めたのは、1975年のこと。親戚が営んでいた沖縄料理店にジーマーミ豆腐を卸したところ、その味が評判を呼び、料亭やホテルから注文が舞い込むようになります。小さい頃から家業を手伝っていた用輝さんは、上京してアパレル業界で働いていましたが、兄が病に倒れたことで、郷里に戻って「はま食品」を継ぐ決心をしたそうです。

「はま食品」3代目・大浜用輝さん(2022年、仮設市場にて撮影)

「まわりの同級生から、『最近はジーマーミ豆腐がお土産の定番になっているけど、食べてみたらちょっと合わなかった』という話を聞くことがあったんです。本来のつくりかただと日持ちがしないので、メーカーさんが試行錯誤して、賞味期限の長いものが一般に流通するようになっているんですね。僕は小さい頃から祖母の作るジーマーミ豆腐を食べて育ちましたし、『ここの味がなくなったら困る』という高齢の方もいらっしゃったので、沖縄に戻って店を継ぐことにしたんです」

「はま食品」のジーマーミ豆腐は、3個セットで450円

「はま食品」のジーマーミ豆腐は、昔ながらのつくりかたを守っていることもあり、土産物店に並ぶジーマーミ豆腐に比べるとずっと賞味期限が短く設定されています。ただ、「昔は賞味期限が長いもののほうが喜ばれていたと思うんですけど、今はまた一周して、持ち帰りづらいもののほうが求められている時代になってきていると思うんです」と、用輝さんは言います。どこでも買えるものではなく、ここでしか買えないものが求められているのではないか――と。

 賞味期限は短いですが、「はま食品」でジーマーミ豆腐を買うと、おしゃれな保冷バッグに包んでもらえます。この保冷バッグがあれば、購入した日のあいだは持ち歩き可能なので、滞在最終日に立ち寄るのがオススメです。

はま食品
沖縄県那覇市松尾2丁目10−1
那覇市第一牧志公設市場 1階
9:00 - 売切次第終了
(水曜・第4日曜 定休)



平田漬物店の漬物

 牧志公設市場には、漬物屋さんが数軒並んでいます。商品に見惚れながらぼんやり歩いていると、「はい、ちょっと食べてみて」と、菜箸で試食を勧められることもあります。

 沖縄の漬物として真っ先に浮かぶのが、島らっきょうの塩漬けではないでしょうか。今や定番となった島らっきょうの塩漬け発祥の店とされているのが、牧志公設市場の1階に店を構える「平田漬物店」です。こちらの島らっきょうの塩漬けは、長年市民に親しまれてきた功績を讃えられ、「那覇市長賞100周年特別賞」を受賞した逸品です。

島らっきょうの漬物って、昔は各家庭で作るものだったんです」。そう教えてくれたのは、「平田漬物店」の3代目・玉城文也さん。「たとえば海ぶどうも、今では土産物になってますけど、海で獲ってきて刺身のツマとして添えるもので、買うものじゃなかったんですよね。それと同じように、島らっきょうの漬物も、昔はお店で買うものじゃなかったんです。ただ、最初にこれを塩漬けにして売り出したのが、うちのばあちゃんだったんです」

旧・公設市場時代の「平田漬物店」(2019年撮影)

 「平田漬物店」の歴史は、戦後間もないころにまで遡ります。まだ青空市場だった時代に、文也さんの祖母・平田文子さんはマチグヮーで商売を始めました。今と違って冷蔵庫のない環境で、どうすれば商品を長持ちさせられるかと、文子さんは考えを巡らせます。

 沖縄にはもともと、塩漬け文化があります。豚バラ肉を塩漬けにする「スーチカー」や、アイゴの稚魚を塩漬けにした「スクガラス」を参考にして、文子さんは島らっきょうを塩漬けにし、商品として売り出しました。

「ばあちゃんは『あの時代は冷蔵庫がなかったから、日持ちさせるために塩で漬けただけだよ』と言ってましたけど、昔は100グラム10セントでも売れなかったそうなんです。その時代は紅鮭べったら漬けがメインで、島らっきょうの塩漬けは日に1キロも売れなかったと言ってました。それが今や一番売れるようになって、賞までいただけて嬉しかったですね」

 昨シーズンは島らっきょうの生産量が少なく、価格が高騰しているため、島らっきょうの塩漬けは現在、100グラム1200円で販売されています。県外で収穫された島らっきょうを使用すれば価格を維持することも可能だったものの、「県産品にこだわりたい」と値上げを選ばれたそうです。島らっきょうの漬物の他にも、スクガラスらっきょう入り味噌コーレーグースなど、「平田漬物店」にはいろんな商品が揃っています。

 ところで、今年の春に牧志公設市場がリニューアル・オープンを果たすにあたり、くじ引きが行われたそうです。早い番号のくじを引いた人から順に、自分が出店する場所を選ぶ、というくじ引きです。

 文也さんが引いた番号は、最後から2番目でした。自分が選ぶころにはもう、いい場所は残っていないだろう――。落ち込んでいた文也さんでしたが、いざ自分の番がまわってくると、入り口から入ってすぐの一等地がまだ残っていました。「これからはあなたたち若い世代が頑張りなさい」と、先輩たちが一等地を残しておいてくれたんじゃないかと文也さんは振り返ります。

「100年先まで続く市場を目指して、この場所を守っていかなくちゃと、責任感がより一層強くなりました」。牧志公設市場のリニューアル・オープンを前に、文也さんはそう語っていました。新しくなった市場で、にこやかに接客する文也さんの姿を見かけるたびに、その言葉を反芻します。

「平田漬物店」3代目・玉城文也さん(2023年1月、仮設市場にて撮影)

平田漬物店
沖縄県那覇市松尾2丁目10−1
那覇市第一牧志公設市場 1階
9:00-18:00(第2・第4日曜 定休)



小禄青果のフルーツ

 僕が初めて沖縄を訪れたのは、小学生のころでした。そのとき印象に残ったのはトロピカルなフルーツで、お土産にパイナップルの置物やボールペンをたくさん買ってもらったのをおぼえています。

 牧志公設市場界隈には、新鮮な野菜フルーツを扱う青果店が何軒もあります。そのうちの一軒が、公設市場の北側に店を構える「小禄青果」です。

 夏に旬を迎えるフルーツといえば、なんといってもマンゴー。6月下旬ごろから8月にかけて、アップルマンゴーは旬の時期を迎えます。このアップルマンゴーの季節が終わる頃から、9月にかけて、今度はキーツマンゴーが旬を迎えます。「小禄青果」には、都内のデパートや高級果物店が取り扱う農家のマンゴーが、何分の一かの価格で並んでいます。

見事なアップルマンゴー

「良い人がつくると、手入れが行き届いてるから、そのぶん甘さが増すんです」。「小禄製菓」の小禄悦子さんはそう聞かせてくれました。「そういう方がつくるマンゴーは、値段は見ないでとるようにしてるんです。たまにお客さんから『こんなに安くていいんですか』と聞かれることもあるんですけど、この商売は息を長くやらないといけないから、この値段で出してるんです。ジョートーなものを手頃な値段で出せば、そのお客さんがまた買いにきてくれる。だから、正直に商売をしようと思ってますね」

パイナップルやドラゴンフルーツも、夏に旬を迎えます

 悦子さんは昭和17年、粟国島に生まれました。7名きょうだいの次女だった悦子さんは、弟たちを学校に通わせられるようにと、中学3年のときに那覇に働きに出たそうです。「それから60年――振り返ってみるとあっという間だったね」と、笑いながら話してくれました。僕は「小禄青果」の軒先に座らせてもらって、悦子さんの半生をじっくり聞かせてもらいました。

「小禄青果」の小禄悦子さん(2021年12月撮影)

 取材を終えて、書き上がった原稿のチェックを悦子さんにお願いしました。数日経って戻ってきた原稿には、何箇所かに赤い字が書き込まれていました。僕が「夫婦ふたりで働いてきた」と書いていた箇所の近くには、「必死に」「死に物狂いで」という文字が書き添えられていました。その小さな文字に、この場所で60年働いてきた悦子さんの思いが凝縮されているように感じました。

「昔の商売って、怖いぐらい大変でしたよ」と、悦子さん。「右も左もわからなかったけど、農連市場に仕入れに行くと、おばあちゃんたちがあれこれ教えてくれたんですよ。おばあちゃんたちは学校も出ていない、字も書けないけど、『この商売は秤ひとつで食べていけるから』って。これがおばあちゃんたちの口癖でしたね」

「小禄青果」の軒先に置かれた秤

  80代を迎えた今も、悦子さんは息子さんや娘さんたちと一緒に「小禄青果」を切り盛りされています。「ほんとはね、この商売は自分の代で終わりでいいと思っていたんです」と悦子さんは語ります。

「この商売はね、気が小さいと大変だから、こどもたちには『公務員になれ』と言っていたんですよ。でも、どういうわけか、一緒に仕事をすることになってね。この商売を続けるには、おおらかな気持ちで、常に前向きでいることですね」

 悦子さんに取材させてもらってからというもの、那覇に出かけるたびに、「小禄青果」に立ち寄るようになりました。軒先には常に旬の野菜やフルーツが並んでいて、少しずつ沖縄の食材の旬がわかるようになってきました。冬には田芋、春には島らっきょうを買って帰り、自宅で調理する機会も増えました。

 田芋も、島らっきょうも、最初は沖縄料理店で口にした食材でした。そのときは「物珍しい食材」と感じていましたが、次第に身近な食材に変わってきました。それは、ひとつには、沖縄に何度も通って見慣れたから、というのもあるのだと思います。ただ、それ以上に、悦子さんと言葉を交わしながら買い物をしている、というのも大きいように思います。

 沖縄から持ち帰った食材を調理していると、悦子さんに聞かせてもらったお話が頭に浮かんできます。そんなふうに悦子さんの話を反芻していると、自分が旅行客として触れている沖縄の食文化というのは、ひとりひとりの生活とともに続いてきたものなのだと、あらためて感じるのです。

小禄青果
沖縄県那覇市松尾2丁目9−16
10:00-18:00(日曜 定休)



松本商店の鰹節

 市場を歩くと、土地の匂いが感じられます。その土地ならではの食材が発する香りは、地元の方にはどこか懐かしく、旅行客には新鮮に感じられるものです。マチグヮーから漂ってくる香りのひとつは、鰹節の匂いです。乾物を幅広くを扱う「松本商店」には、鰹節がずらりと並んでいます。

「沖縄料理のベースは鰹出汁ですので、沖縄は鰹節の消費量が多いんです」。2代目として「松本商店」を切り盛りする松本司さんはそう教えてくれました。総務省の家計調査によると、那覇市の鰹節消費量は全国平均の3倍にものぼるそうです。

 ひとくちに鰹節と言っても、さまざまな種類があります。カツオの身を燻って乾燥させる工程を1ヶ月ほど繰り返すと、「荒節」が出来上がります。この荒節は、燻ったことで表面が黒く焦げたような色をしています。この表面をきれいに削ったものが、「裸節」です。

 この裸節にカビづけをすることで「枯節」となり、長期間にわたってカビづけを繰り返したものは「本枯節」と呼ばれます。熟成を重ねるにつれ、香りがマイルドになるそうですが、沖縄では強い風味が好まれることもあり、「松本商店」ではずっと裸節を扱っています。

「枯節と違って、裸節は燻した匂いがするんです」と、司さん。「沖縄だと、いろんな料理に鰹出汁を使うから、普通の家庭でもたくさん鰹節を使われていたんです。昔は鰹節を削るのはこどもの仕事でしたけど、今のこどもは削ってくれないですよね。だからうちのお客さんも、今では削った鰹節を買って帰られる方がほとんどです」

 昔は自分で出汁をとるほかありませんでしたが、近年は出汁をとったことがないという方も増えています。「松本商店」では、若い世代にも鰹節の魅力を知ってもらえるようにと、お湯に溶かすだけで使える「鰹節粉」など、新商品も売り出し中です。

 中でも好評なのが、「食べる鰹節」(1袋600円/3袋1500円)。お酒のアテにも、ふりかけのようにも使える手軽な商品として人気を博しています。

 マチグヮーはもともと、地元の買い物客でごった返していたエリアでしたが、最近は観光客で賑わう場所になっています。それに伴って、観光客向けの土産物店が増えていますが、「松本商店」で話を伺っていると、昔から「土産」を買うお客さんもいたのだと気づかされました。

 一年のうち、「松本商店」がもっとも混み合う時期は、旧盆旧正月の時期でした。旧盆や旧正月には、重箱料理を仏壇にお供えします。その重箱料理の出汁をとったり、訪ねてくる親戚にふるまう料理をつくったりするために、鰹節を買い求めるお客さんが多かったそうです。

 それとは別に、もうひとつ、旧盆や旧正月に親戚の家を訪ねていくとき、お中元お歳暮として鰹節を持っていく方も多かったのだと、司さんは教えてくれました。誰かの家を訪ねていくときに、手土産として鰹節を携えていく文化が、昔からあったのです。

 その話を聞いてからというもの、「松本商店」で食べる鰹節を買っていく機会が増えました。東京に戻ったら、この手土産を手に、誰のもとを訪ねて行こうか。飛行機に揺られながら、いつもそんなことを考えています。

松本商店
沖縄県那覇市松尾2丁目9−13
平日 9:00-19:00
日・祝 10:00-18:00
(第1・第3日曜 定休)



市場の古本屋ウララの沖縄本

 旅に出ると、物珍しく感じられるものがあちこちにあって、目移りします。短い旅程では、そのひとつひとつに立ちどまっている時間もなくて、写真だけ撮って駆け足でまわる――そんな場面も多々あるかと思います。

 あのとき目にしたあの光景は、一体何だったのだろう。その背景には、どんな歴史や文化があったのだろう。旅を終えたあと、そんな疑問が浮かんできたとき、頼りになるのが本です。

 牧志公設市場の斜め向かい、市場中央通りに、1軒の小さな本屋さんがあります。「市場の古本屋ウララ」です。こちらは沖縄の歴史や文化、文芸に関する本が所狭しと並んでいます。

 本を読むと、自分が目にしたものの向こう側に流れている様々な文脈に触れることができます。たとえば、「鰹節」を例にとっても、その背景にはいろんな歴史が詰まっています。

 沖縄本島北部に位置する本部町は、「カツオの町」として知られています。この地で最初にカツオ漁を始めたのは、鹿児島や宮崎からやってきた漁師たちでした。彼らが莫大な漁利をあげるのを目の当たりにして、地元でもカツオ漁が奨励され、大正時代に入るころには好況を極めたそうです。

本部町営市場には「カツオベンチ」が設置されています

 好況に沸いたカツオ漁でしたが、乱獲の影響なのか、数年後には漁獲高が激減してしまいます。そこに第一次世界大戦後の不況が追い討ちをかけ、こどもを「糸満売り」に出さざるを得ない家庭もあったそうです。

漁業の町・糸満にあった「糸満公設市場」(2015年撮影)。
建て替え工事を経て、現在は「糸満市場いとま〜る」として営業しています。

 糸満は古くから漁業で栄えた町で、明治時代に「アギヤー」という追い込み網漁が考案されると、漁獲高を飛躍的に伸ばしていきます。追い込み漁には人手が必要ということもあり、困窮した家庭では、前借金と引き換えにこどもを糸満の網元に年季奉公に出す「糸満売り」が横行した――そんな歴史を知ったのは、「市場の古本屋ウララ」で『糸満売り』という本を手に取ったことがきっかけでした。

 この『糸満売り』は、那覇出版社という地元の出版社から刊行された本です。沖縄には出版社がたくさんあって、「県産本」が数多く出版されています。旅行で訪れる側からすると、県産本を通じて、知らなかった歴史や文化に触れることができます。その一方で、地元の方にとっては、沖縄をテーマにした本は実用書に近いのだと、「市場の古本屋ウララ」の店主・宇田智子さんが語ってくれたことがありました。

「沖縄本は、もちろん研究書として作られている本もたくさんありますけど、それを読む人にとっては実用書に近いんです。祭祀信仰について書かれた本も『どうやってお参りをすればいいのか?』を知るための実用書で、郷土史というのも自分のルーツを知るための実用書になる。かなり専門的な本でも、偶然通りかかったお客さんに『これ、いくらなの?』と聞かれることがあるんです。それが五千円だったとしても、『ああ、じゃあ買うわ』と買われていく。料理行事の本は、高くても必要だから買っていくという人は多いですね」

 沖縄の出版社・ボーダーインクから出ている『よくわかる御願ハンドブック』は、旅行客からすると、沖縄の文化を知るきっかけになる一冊です。沖縄に暮らしていない者からすると、どれだけ頻繁に通ったとしても、行事祭祀に立ち会う機会は滅多になくて、本を通じて学ばせてもらっています。そんなふうに、旅行客にとっては沖縄文化を知る手引きとなる『よくわかる御願ハンドブック』は、地元の方にとってはまさに「実用書」なのだと思います。

 ところで、「市場の古本屋ウララ」の店主・宇田さんは、エッセイストとしても活躍されています。初めての著書『那覇の市場で古本屋―ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々』は、今からちょうど10年前の夏、ボーダーインクから出版されています。

 こちらの本は韓国台湾でも翻訳され、「市場の古本屋ウララ」で棚を眺めていると、海外からやってきたお客さんが宇田さんに声をかけているところに出くわすこともあります。出版から10年が経ち、在庫も少なくなっているようですが、牧志公設市場がリニューアル・オープンを果たした今、新しい読者がこの本に出会うきっかけが増えたらいいなと思います。

市場の古本屋ウララ
11:00-17:30(火曜・日曜 定休)



 今回紹介した5軒は、この5年のあいだに取材させていただいたお店です。マチグヮーの歴史と今とを記録しようと、毎月那覇に通って、2019年に『市場界隈 那覇市第一牧志公設市場界隈の人々』を、2023年の春に『そして市場は続く 那覇の小さな街をたずねて』をそれぞれ出版しました。もし今回の記事を通じて興味を持っていただけたら、ぜひお手に取ってもらえると嬉しいです。

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橋本倫史
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