友人の父は立派な大学教授だが「心ないクソ野郎だ」と思った話
中学校時代に親しくしていた友人のK君。
内向的な僕と似た部分もあり、波長がよく合った。
声高に主張するタイプではなく、人当たりがソフトなとても優しいやつだった。
何がきっかけでそうなったか忘れたが、ある日K君家族と彼の家でご飯を食べる機会があった。
僕ひとりだけ部外者。まあ完全アウェイというやつだ。
K君の家族構成は、父、母、K君、妹の4名。
K君のお父さんは、大学の教授でアカデミックな世界では数々の功績を残した権威のある人。
いつも先生、先生と呼ばれ崇められている人。
僕はその場の空気を敏感に感じる体質なので、一緒にご飯を食べながら「なんかこの家庭に流れる空気は変だ」と違和感を覚えていた。
しかし違和感の正体がわからない。
父が大学教授だけあってか、K君の家では「NHK以外のチャンネルを見てはいけない」というルール決めがされており、そのためK君も同世代とテレビや芸能界の話などができなかった。
K君の父は感情よりも論理の人だった。
K君や彼の妹が何かを言うと「それは〇〇だから、××になるということだ。わかるね?」みたいに返す。
その態度は、まるで教壇で生徒の疑問に答え、教え諭す先生そのものだった。
僕の家庭は、地上波のテレビを見ながらくだけた話をよくする方だったので、K君の家庭に対して「かたい家だな」と感じていた。
今の僕なら「なんや、こいつ。うざくておもろない父親やのう」と一刀両断しているだろう。
権威など、こちらこからすると心底どうでもいいのだ。
彼の一家に交じりながら、繰り広げられる会話を聞いていて、あるパターンに気づく。
K君や妹が何か言ったあと、必ず父が何かを一言返して論破して終了。それからしばらく重たい沈黙が流れるのだ。
お母さんは、夫に対してどこかビクついており、常に顔色を窺っている。基本的にあまり話さない。
子どもが「でもお父さん、こういう見方もできるんじゃない?」みたいに疑問を呈すると、父親はまず「はっはっは」と高笑いして、「バカなことを言うんじゃない。そんなことあるわけないだろ」と否定から入る。
K君の父は、日本の政治への憂いなどを熱弁していたが、僕は全く興味がわかず、ぼんやり「この家庭で暮らすのは、何だか大変そうだ」と思った。
心が交流しているように感じなかったからだ。
K君はよく「お父さんは話を聞いてくれない」とぼやいていた。
彼の父は研究職だったので、自分の興味があることにひたすら没頭する人生を歩むことができ、それによって社会的な成功も手に入れた。
数年後、僕が二十歳になった頃、K君と偶然、街で会った。
「よお、久しぶり」と声を掛けたものの元気がない。
近くのファーストフード店で少し話をすることになったのだが、やがてK君は「実は今、妹が大変なことになっている」と話し出した。
僕が彼の家にお邪魔した頃は、そうでもなかったのだが、その後、「妹が思春期に入って、心のバランスを崩すようになった」とのこと。
刃物で母親の衣服をズタズタに切り裂き、暴れ回ったので、警察を呼んだこともあったらしい(※お母さんが刃物で襲われたのではなく、お母さんの衣服のみを刃物で切り裂いたとのこと)。
警察が来たときの父親の対応は実に事務的なもので「うちの娘はおかしいんです。ご迷惑をかけて申し訳ない」と述べたものの、「少しも感情がこもっていなかった」というのがK君の弁。
その後、家族会議が開かれたものの、そこでもお父さんは正論しか口にせず、家族の声に耳を傾けなかった。
K君の妹は「お父さんは何を言っても、私の話を聞いてくれない」と、一層不信を募らせたという。
その後、K君のお父さんは誰もが知っているような権威ある賞を受賞して、新聞に掲載されていたが、家庭の問題はどうなったか?
何も解決せず、妹はずっと引きこもったまま。
K君は「正直どうしたらいいか、わからん」と頭を抱えていた。
僕はK君の父親みたいな人間が大嫌いだ。
正直、クソだなと思う。
「アカデミックな功績なんかどうでもいいから、まず我が子に関心を向けろ。そっちの方がよっぽど大事だろ?」と言いたい。
K君の家庭にお呼ばれしたときの大きな違和感は、彼の父の心のなさに対して感じたのだろう。
K君の父親の心の矢印は、自分以外の人間には向いていなかった。
ずっと興味のベクトルは家庭よりも、研究に向いていたのだろう。
家庭の歪みは、その家で最も優しい人によって表出するという。優しい人が一手に重荷を請け負うのだ。
その後、K君の妹がどうなったかは聞いていない。
まだ親ガチャや毒親いう言葉が生まれる前の話だ。
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