愛と悲しみ、生死。制限をこえるスピリチュアル 。家族会議(1936年)映画
島津保次郎『家族会議』(1936)映画
横光利一原作、島津保次郎監督の『家族会議』。
東京と大阪の株屋のお話ですが、愛や悲しみ、生死に関するエピソードが強く印象に残ります。ストーリーだけでなく、演者の人生に関してもです。
映画『家族会議』が公開された1936年に生まれた人は2023年には87歳ですので、主要なキャストは鬼籍に入っているのですが、その中でも二人の女優は若くしてお亡くなりになっています。及川道子は1938年に結核で死去。享年26歳。この作品が最後の出演だそうです。桑野通子は1946年に子宮外妊娠よる出血多量が原因で死去。享年31歳。お二人とも若すぎる死です。
肉体の命というものを考えるとき、やはり悔いなく生きることを、普段「自分さえ我慢すれば」と耐えている人ほど、そっと始めてもいいはずです。病などで中々自由に動けない場合でも、心で・エネルギーで、本人の魂が求めているものを感じ取ることも出来るのでしょう。
及川道子が少女だった頃から交流があり、恋愛関係でもあったといわれる作家の渡辺温は、及川が病気のため結婚を周囲から反対されていたそうです。しかし彼は不慮の死を遂げます。享年27歳。周囲の反対って一体何なのでしょうね。このようなことが分かっていたのなら、或いは、なんて考えてしまいます。
渡辺温の死後、及川道子が体験した夢のエピソード、これは大変スピリチュアルな内容です。夢の中で渡辺に追い縋る及川に対し、渡辺が「道ちゃんには芸術の仕事が残されている」と制するのです。(現代の日本ではスピリチュアルは「スピ、スピ系」といわれ、どこか本来のspiritualとは離れていっているようでスピリチュアルと表現するのも躊躇うほどですが、本来のspiritual、神性、霊性、スピリチュアルケアと申しますか、そういったものを感じます)
さて、主要キャストの1人である高杉早苗は、香川照之や四代目市川猿之助の祖母にあたります。前回ご紹介した映画『愛より愛へ』で働くヒロインだった高杉早苗ですが、今回は明朗快活なお嬢さん役です。明朗快活で情に厚いお嬢様といえば、『愛染かつら』では桑野通子がそうだったなぁ。どちらの役も、人が良過ぎるのが気になるところですが、彼女たちはブルジョアで美人、親子関係も良好のようですし、きっとまだまだ良縁があるでしょう。
儚げな和風美人の及川道子と、対照的な現代的美人の桑野通子。まゆげのメイクがいつもより上がっているような(『鍵』の京マチ子まではいかないけれど)。悔しい悲しい恋愛を経験された方、お二人のどちらにシンパシーやカタルシスを感じるでしょうか。私は両者でした。※前回に続き、役柄名ではなくキャストで書かせていただきますね。
高田浩吉は『春琴抄』の佐助のときとはまるで異なる役柄ですが、私はどちらにも色気を感じます。高田浩吉と桑野通子は大変お似合いで、見ているこちらまで幸福感が得られました。そうそう、この「悲恋から救われる感覚」!実生活でもよく知っています。偽ツインソウルとの関係が壊れていいのと同じです。高田浩吉は仕事もやり手ですし、桑野通子(清子)、良かったねぇと。うんうん、彼女にはこういう男性がぴったりだもの。手を怪我した時に一旦去りかけた部屋に戻るところや怪我について訊かれたときの返答などからも、どこかBPDを感じさせ、佐分利信と無理に結婚しても彼女の不満が爆発し上手くいかない様子が浮かんでしまいます。声をかけて追いかけて、断然味方だと言ってくれる高田のほうがずっと合っていますよね。
現実世界においても、「これだけ本気で何か(お金、体、無理な応援など)を捧げたのだから」と切実な想いで恋愛や結婚の話を進めても、肝心のお相手の気持ちがこちらにないというのはとっても悲しいことではありますが、大抵の場合もっとぴったりなご縁が存在するのです。また、今の時代無理に異性と恋愛や結婚をしなくてもいいということも覚えておきたいものです。同性愛でもいいですし、恋愛自体必ずしもしなくてもよい。美輪明宏さんのご本の中にも書かれていますね。
この映画のガラスのコップのシーンや音楽の使われ方は、鑑賞された方の多くが気になるようでネガティヴな感想の方が多いようです。確かに確かに、どこか古典的な漫画チックですよね。しかし個人的にはなぜか妙に好きです。あの奇妙な絵のカットなども。
リストの『愛の夢』が流れるシーンも、確かに曲の唐突さやヴォリュームは不自然な感じがしますが、クセになって繰り返し見てしまうのです。汽車のシーンも『愛の夢』・・・。胸に迫ります。汽車で立花泰子とすれ違っていますよね。立花泰子という女優さん、どうも見覚えがあると思ったら『男性対女性』で上原謙の膝に乗る女性に似ているような。出演者の名前に載っているようですし、もしかしたら彼女かも?違うかもしれません。
美輪明宏さんのご本に効果はあったか(の続き)
前回の映画シリーズで、美輪明宏さんのご本について書きました。美輪さんがお勧めしている「良質な文化に意識的に触れること」に意味はあったのか、ーまあぶっちゃけていうと開運効果があったのかどうかということですが、私にとっては大いにありました。お金があまりなくても工夫して出来ることが沢山ありましたから、大収穫です。正負の法則の、負の先払いを少しでも出来たのでしょうか。
しかし実生活で「そういうことか」とか「ああ、今回もこうだな」「今回はこうかな」とスムーズに活かせるようになり、生活も安定していったのは、おそらく15年以上掛かっています。ではそれまでの期間は意味がなかったのかというと、そうではありません。私の場合は特に、心身ともに病気がちで治療を受けることが出来なかった時期も長いため、良い変化を起こすのに時間が掛かったのだと思います。鬱の時に穏やかなクラシック音楽を流して、ちょっといいなと感じても、また鬱の波に呑まれ「あれ?余計悪くなったような」なんて体感することもありましたし。
この『家族会議』を鑑賞していても、体が弱かった私は及川道子に感情移入しすぎて「撮影中も実際に体がかなりきつかったのではないか?」と心配してしまいました。
ご病気のあるかたは、映画鑑賞も、どうかご無理をなさらずに。私たちは自分を通して世界を見ており、その自分のコンディションによってもフィルターは変化するのですから。寒暖差の大きい今の時期、くれぐれもご自愛くださいね。
【記事に関するご注意】
・映画に詳しいわけではなく、眠れない夜などによく観ていました。誤った情報や解釈が含まれる可能性があります。今後も時々加筆修正させていただきます。
・享年等はウィキペディアで確認しました。
参照元 Wikipedia 及川道子 Wikipedia 桑野通子