第6回詩歌トライアスロン候補作「感電する春」
あなたの人生を想像しようか。
今にも細胞のひとつひとつが震えて喚きだしそうな、あなたの人生を。
*
まばゆい光を湛えて、あなたはやって来るだろう。
嘘みたいにくすんだ朝に生まれて、聖なる名前を授けられるのだ。
疑うことを知らず、信じるだけしかできなかったすべての始まり。
カーテンが春風を抱えては放つ、抱えては放つ。
洗いたての哺乳瓶の水滴にあなたの夢が脈打っている
見えるようになり、触れるようになり、記憶するようになる。
あなたは知らない景色が映る鏡を毎日覗きこむだろう。
生きることはすべてのページが開かれていることだ。
正しさや過ちが少しずつ刷り込まれて、人間としての輪郭がはっきりしていく。
泣き声に煽られている夏怒濤
*
それでも、いつかは終わる。
あなたもわたしも、逃げ場のない世界で泡が弾けるように消えてしまう。
悲しみはいくらでもふくらんで、身体(からだ)の中から圧迫することを止めない。
いっそのこと、とどめを刺して。ねえ、とどめを刺して。
スポンジのように吸い込む未来にも最果ての空 星が流れる
ひと匙の愛が欲しい。ほんのひと匙を何度でも欲しい。
身も心も乾いて、影さえもひび割れてしまいそうな夜に。
祈りに、言葉に、確かな呼吸に縋りつけない。
街のあちこちで静かな狂気が凍りついている。
背を向けたかじけ鳥にも濁らぬ血
ああ、春を待っている。待ちわびている。
万物が「あなたがあなたで在る意味」に感電する春を待ちながら、今日も眠る。
**
友よ。母になれば、きっと畏れを抱いて生きてゆく。
畏れは畏れのままでいい。両手で掬い上げてやればいい。
春の日にまた生まれよう 人知れず海底の砂粒になっても
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生きる。