「アートセラピーが心と体に与える変化」
先日、芸術療法学会に参加してきました。私自身も、そこで発表の機会をいただきました。内容としては、アートがセラピー中の緊張を和らげ、治療全体を前に進めるための効果についてお話ししましたが、準備不足もあって十分に伝えきれず残念でした。それでも、他の発表やディスカッションを通して、アートが人の心に与える影響の大きさを改めて感じ、深く考えるきっかけとなりました。
学会では、森谷先生が「コラージュ療法」について詳しく話されました。コラージュ療法は、雑誌の切り抜きや紙片などを自由に貼り合わせて自分のイメージを表現する方法で、もともとは箱庭療法から発展したものです。箱庭療法は、小さな箱に砂や人形を使って自分の内面を表現する手法で、コラージュ療法もそれと似た効果があるとされています。さらに、マンダラという絵画の形式とも共通点があり、表現技法の幅広さと、それぞれの意義について学ぶことができました。
また、いくつかのワークショップにも参加しましたが、総じて思うのが、アートセラピーは人の決断を補助するからこそ、なにか変化の景気になるものなのだろうなということでした。アートセラピーがどのようにクライエント(治療を受ける人)の意思や選択を支え、自己変革のきっかけとなるのか。アートは、ただ絵を描いたり物を作ったりするだけではなく、自分で何かを選んだり決断したりする場にもなります。例えば、どの色を選ぶか、どんな形を作るかといった小さな選択を積み重ねることが、自分を理解し、自信を持つための一歩になります。こうした体験は、特に自分の意思を表現するのが難しいと感じている人にとって、大きな支えとなります。
中井久夫先生の「生きることは小さな決断の連続だ」という言葉が、ここで非常に重要な意味を持ってきます。先生は、たとえ一本の線を引くという小さな行動にも、その人の意思や選択が表れているとおっしゃっています。つまり、色や形、線を選ぶとき、それは小さくても自分で決めた「自分の選択」という実感を持つ瞬間なのです。こうした自分の選択を積み重ねていくことが、次第に「自分らしさ」や「自己理解」につながります。
とはいえ、日常生活の中で自分の意思で決断を下すことは、決して簡単ではありません。多くの人が、どちらを選ぶべきか迷い、自己表現に苦労しています。アートセラピーは、こうした小さな決断をサポートし、自分を無理なく表現できる場を提供します。クライエントが色や形を選び、描いたり作ったりする過程で、自然と自分の心に目を向け、少しずつ自己理解が深まるのです。
さらに、こうしたアートセラピーの効果を理解するために「身体図式」という考え方が役立ちます。身体図式とは、自分の体や動き、外の世界との関わり方を、自分の中でどのように感じているかを示すものです。アートセラピーの場で行われる小さな選択や行動の積み重ねが、身体図式、つまり「自分がどう感じ、どう行動するかのパターン」を少しずつ変えていきます。その結果、クライエントは新しい行動や自己認識を生み出し、今までと違った自分の姿を発見することができるのです。
このようにアートを通じて自分を理解し、新しい自分を見つける過程は、岸良範先生が「心理療法では、関係性の中で変化が起こる」と語ったこととも深く関わっています。アートセラピーでの一連の行動や選択が、セラピストとの信頼関係の中で行われることにより、クライエントの心の奥深くで変化が生まれます。この変化は無意識のうちに「自分のパターン」を少しずつ変え、新しい行動や自己理解を形成していきます。岸先生はアートセラピーについて直接言及してはいませんが、クライエントがアートを通じて小さな決断を積み重ね、その積み重ねが心と体に影響を与えるというプロセスに、この考え方は共通するものがあると感じます。
今回の学会を通じて、アートがクライエントの意思や選択を支え、数多くの小さな決断がクライエントの心や体に変化をもたらし、新しい自己表現や行動の基盤を築く過程の重要性を改めて感じました。今後も、この視点を治療の実践に取り入れ、クライエントが自分自身を見つめ、変化を引き出せるサポートをしていきたいと考えています。