「8」と「9」では大きな違いがある?
ジョージ・フロイド氏が警官に足で押さえつけられている動画がSNSで拡散したことから、全米に暴動が広がりました。当の動画について分数の表示に違いがあったので気になりました。
ブルームバーグは「8分あまり」と書いてあります。
トランプ氏、「集団暴力」ストップさせる-黒人暴行死巡る抗議拡大
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-05-31/QB6OIJT1UM1001
一方、ウォールストリートジャーナルでは「9分近く」とあります。
【社説】全米暴動、正義と無秩序のバランスは
https://jp.wsj.com/articles/SB11030818947919454487204586419323506368658
実際は8分46秒なので、日本のニュースなら9分弱と書くのではないでしょうか。
ちなみにアメリカ外のメディアとしてはイギリスのBBCはニュースによって8分以上や9分近くと書いてありました。
米ミネアポリス市警の元警官、黒人男性の殺人罪で起訴
https://www.bbc.com/japanese/52857950
米黒人男性の死は「計画的殺人」 遺族の弁護士が主張
https://www.bbc.com/japanese/52872946
8分46秒を8分とするか9分とするかで、読んだ人の印象が変わるかも知れません。前述のメディアが8分と書くのは黒人差別だと言うつもりもありませんし、逆に9分と書くのが大げさすぎるとも思いません。メディアの意図的なミスリードというよりは、書いた記者のイメージが反映されているのか、あるいは何も考えずに書いているのかも知れません。
「9」という数字は十進法では大きな数字です。一桁で表す数字の中では最も大きい数字です。その一方で、キリのいい「10」ではない中途半端な数字というイメージもあります。
有名な短編ミステリに「九マイルは遠すぎる」という名作があります。
ハリイ・ケメルマン「九マイルは遠すぎる」
https://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/41902.html
まさしく安楽椅子探偵のお手本のような作品ですが、9マイルという中途半端さから驚くべき犯罪を見つけ出すという離れ業を描いています。これは「9」という数字がイメージ的に大きくないという感じを受けます。
逆に「9」が大きいイメージをもたらしているのが、打って変わって東アジアの話になりますが、「重陽の節句」です。
古代中国では奇数が「陽」、偶数が「陰」と考えられていたのですが、その「陽」の中でも最も大きい数字の「九」が月と日で「重」なる9月9日が「重陽の節句」として祝われていました。
「8」と「9」では大きな違いがあるかもしれないし、ないのかも知れません。最初に取り上げたメディアによって動画の長さの書き方が違うということについては、メディア全体を貫く一定のルールがないように見えることがそもそもの問題でしょう。