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紙の本と図書館と電子書籍とブロックチェーン

先日この本を読みました。

図書館巡礼──「限りなき知の館」への招待
https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014163/
ボルヘス、エーコが夢見た「知の集積所」 その蠱惑的なあり方と古今の変遷を鮮やかに描く
ボルヘス、エーコが夢見た「知の集積所」としての図書館は、生と死、渇望と喪失といったあらゆる人間ドラマの舞台でもある。アレクサンドリア図書館からボドリアン図書館まで、古今の偉大な図書館の魅力を語り、文献の保守・保存・獲得に心血を注いだ「愛書家」たちのエピソードを活写する。

古代の「本が無かった頃の図書館」から、古今東西の多くの公私の図書館・文庫もまとめて、さらにはフィクションの中に存在する図書館まで言及する、本好き・図書館好きに共感を与える一冊です。

ただ、今の私は読書は99%以上をKindleの電子書籍で行っていますので、ある意味不思議なというか複雑な気持ちでこの本を読んでいました。

リアルな本の歴史は、作成・保管・売買・損壊・焼失・盗難という困難との闘いの歴史でもあり、それは上述の「図書館巡礼」でも描かれています。

電子書籍ではそれらの困難を解決することが出来ます。

作成・・・サーバからコピーをダウンロードするだけ
保管・・・物理的スペースは不要
売買・・・ネットさえあればいつでもどこでも購入可能
損壊・・・デジタルの元データさえ残っていれば大丈夫
焼失・・・同上
盗難・・・同上

という利点があります。もちろん、元データを保管するサーバを管理している販売企業が飛んだら終わり、という怖さはあります。

ただ、本に書かれている情報を受容するという点に限れば、電子書籍はリアルな本に劣る点は全くありません。

紙の本の図書館は世界中に存在していますが、電子書籍のみのあらゆる書籍を集めている図書館もそのうち出来るでしょう。もしかしたらあるかも知れませんが、紙の本の図書館とは異なり、物理的な保管庫はほぼ必要ありません。デジタルデータを収めるストレージや管理用のサーバなどのスペースだけあれば済みます。電子書籍を管理するスペースは、100冊でも100万冊でも100億冊でも大差ありません。

その一方でリアルな本にも利点やメリットがあります。これも「図書館巡礼」にありましたが、装幀の華麗さ、手触り、本棚に並べたときの自己満足、所有欲を満たす、紙の匂い、インクの匂い、目への優しさ(文字を大きく出来ないのは逆に厳しいですが)、貸し借りや譲渡のしやすさ、読む装置(スマホなど)が不要、などなど。

紙の本と電子書籍のどちらでも販売されている書籍であれば、どっちを選ぶかは読者側の好みで決められます。現代はちょうど過渡期なのかも知れません。もしかすると将来は紙の本の新刊が絶滅して電子書籍オンリーになっているかも知れません。そう考えると、過去と未来の読書家から見たら垂涎の時代かも知れませんね。

電子書籍には紙の本に無かった新しい問題もあります。デジタルデータである以上、元データの改ざんの恐れです。紙の本であれば、中身を書き換えたりページを入れ替えたりすれば、精巧に偽装しても調べれば分かります(調査側の能力次第ですが)。しかし、デジタルの元データが編集情報などのヘッダー含めて書き換えられてしまうと改ざんに気付くことは出来なくなります。他の場所にコピーがあったとしても、それはあくまで別個のデータとされ、どちらが正しいものか調べることは出来ません。先に挙げた電子書籍図書館に保管するにしても、その図書館のサーバにハッキングされて改ざんされる可能性があります。

一つの可能性というかむしろそれしかないだろうという解決策としては、ブロックチェーン技術があります。クラウドなりオンプレミスのサーバやあるいはローカルPCにブロックチェーン技術で保存されるデータは改ざんされない(改ざんが隠蔽されない)ので、電子書籍自体の同一性は保証されます。

素人の考えですから、本当にそうなのかは分かりません。ブロックチェーン技術が破綻すれば同一性も維持できないでしょうけれど、そもそもそうなったらその頃のあらゆるデジタル技術が大パニックになるでしょうから、電子書籍どころではないですね。

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