核戦争の可能性と抑止力
インド・パキスタン情勢が急激に悪化してきました。
カシミールの軍機撃墜でインド=パキスタン情勢が緊迫化 米中やEUが自制要請
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/02/eu-164.php
個人的にはマスメディアには官房長官に、印パ紛争やベネズエラ情勢に対して日本政府はどのように対応してメッセージを出すのかを突っ込んでほしい気もしますが、それはともかくインドもパキスタンも90年代に国際的な反対を無視して核保有国になりました。ベトナムで行われていた米朝首脳会談のタイミングでの核保有国同士の紛争ですから良いのか悪いのかタイミング的にはタイムリーな話題となってしまいました。
核保有国同士の紛争ということで、当然ながら核戦争の恐れを抱いてしまうのは当然のことですが、現代世界において核戦争が起きる可能性は非常に少ないです。実戦で使用されたのも太平洋戦争時の広島・長崎への原爆投下のみですから、核戦争はどのようにして起きるのかということすら現実問題としては予測でしかありません。
今回の印パ紛争は両国が独立した頃から続くカシミール地方での軍事衝突が発端ですが、国境紛争が核戦争に発展する可能性はほぼ無いと言っていいでしょう。核兵器の使用によって得られる効用(相手国の致命的な破壊)と、使用に対する相手国及び世界的反発(軍事的・経済的・外交的な抑圧)との釣り合いが取れないからです。
具体的に言いますと、核兵器を先制使用することで相手国の軍事拠点や都市部に対して決定的な破壊を実行できます。広島・長崎に対して使用された原爆よりも、現代の核兵器の威力は比べものにならないですので、その地域一帯及び周辺地域も使い物にならなくなります。より言うと、戦略核兵器と戦術核兵器の違いにより、規模や破壊範囲が異なりますが核兵器を使用したという精神的なインパクトにはそれほど大きな違いはありません。ただし、核兵器を使用した地域を軍事占領するわけにはいきません。領土として保有しても旨みが全くありません。自分も相手も使えない地域を増やすだけです。
一方、相手国も核保有国であれば当然ながら対抗措置として報復核攻撃を行います。それを防ぐのは非常に難しく、報復核攻撃を受けた事による直接的な被害に加えて、報復を招く先制核使用行為に対して、政府や軍は猛烈な反発を食らうでしょう。さらには国際社会においても大きな非難にさらされます。単に口で非難されるだけではなく、もっと強大な国、例えばアメリカから制裁的な軍事攻撃を受ける可能性があります。また経済制裁も行われるでしょうし、核戦争が起きている国との貿易・観光を制限する国も出てきます。国際連合や各種地域連合においても急激な地位や発言力の低下は免れません。核兵器を先制利用することによって得られるプラス面よりもマイナス面の方が非常に大きいと言えます。
まさにそれが核兵器の抑止力と言えます。核保有国からの先制核使用を防ぐため、核保有国に対する報復核攻撃という選択肢を持つことだけが核抑止ではないのです。核保有国同士の衝突がお互いに国境紛争あるいは国境近くの限定された地域における紛争の規模に留まる限りは、お互いに先制核攻撃をする必要はありません。その地域に戦術核兵器であっても使用したら領土を主張する意味が無くなってしまいます。
さらにいうと、報復核攻撃が出来ない核非保有国であってもそれほど事情は変わりません。被害国が集団安全保障体制の枠内に入っているのであれば、対立する核保有国に対しての国際的圧力が行われますから、同等では無いにしてもそれなりの抑止力は存在します。現在の日本・韓国やあるいはサウジアラビアなどがそうですね。
つまり、核保有国同士が紛争に至っても即核戦争にはならない、ということになります。これは20世紀後半に起きた、中国とインドの間の国境紛争(今もたまに起きていますが)や中国とソ連の間の紛争も同じでした。もちろん、紛争が核戦争に発展しなかったのは、双方や関係各国による解決に向けての努力あってのものです。しかし、核保有国にとって先制核使用のメリットが大きければ周辺各国の反対や仲介を無視してでも使用されていたでしょう。
広島・長崎への原爆投下以降、残念かつ不幸なことに、核兵器はその威力を増す一方で所有国も増やしてきました。しかし、保有はしてもいざ使用してしまったら大きな反発を食らって、より困難な状況に陥るから使用しない、という判断を核保有国が冷静に判断してきたと言えます。しかし、このことは裏返せば、周辺諸国からの反発を気にしない(もしくは既に反発されている)状態に陥っていて、報復核攻撃を受けることによる国内の反発も無視するような国家が核保有国になった場合、核抑止力が働かないことになります。そういう国でも、逆に攻め込まれる理由を国連や超大国などに与えてしまいますから、いつでもどこでも核兵器を使用するとは思えません。そういう国による核使用の恐れが出てくるのは、その国の首都や重要な軍事拠点など、国家存続に必要な拠点が危機に陥ったとき、もしくは政治体制の重大な危機が起きたときです。その危機を食い止めるために核使用を行う可能性があるのではないでしょうか。
現実問題としてロシア・中国・韓国との関係が悪くない北朝鮮が本当の危機に陥ったときに核兵器を打ち込んでくるのはどこか? しかも確実に当たるような場所に位置しているのは・・・・・・?