風(おと)と官能 【第3回】『金閣寺』と『アマデウス』 ~彼らはなぜ美をこじらせた挙句、台無しにしてしまったのか~
ある年の瀬の午後。東京・K市の老舗喫茶室の地下席で。私は背中を丸め、熱いココアをすすりながら、とある会の開始を待っていた。
隣には今日誘ってくれた友人がいるが、ガタつくテーブルを3つ繋げ、ぎゅう詰めに座っている他の10人のうち、私達以外は全て老紳士だった。しかも互いに顔見知りらしい。そして誰もが三島由紀夫の『金閣寺』の文庫本を携えている。来た順で奥から座り私がちょうど真ん中だ。これはきっと会の終わりまで中座できない。
時勢により全員マスクで顔の上しかわからない。老紳士達は