見出し画像

第3回:ジョブ型人事は年功序列からリアルタイム制への転換です

ジョブ型人事の本質は労働市場とのタイムリーな関係性構築


メンバーシップ型人事の本質は年次管理と年功序列だと、前回書きました。

では、ジョブ型人事の本質はどんなものなのでしょう。

今回は採用から退職までのフレームで示したうえで、フレームを構成する要素ごとに違いを説明してゆきます。

まず全体像は以下のように描くことができます。

ジョブ型人事のフレームワーク

ここではあえて「職務等級」という単語を使わず「リアルタイム等級」としています。

前回示したメンバーシップ型人事のフレームワークで「職能等級」と書かず「年功序列等級」と書いたことと対比させています。

その理由は、実は職能等級制度のままでも、ジョブ型運用は可能だからです。

年功序列的運用を排除し、リアルタイムな運用にできれば。

そもそも職能型等級の軸となる職務能力というものは「職務に必要な能力」なので、職務に応じた能力を見極められるのなら、職務等級と同様に考えることができます。

理論的には職能等級でも職務等級と同じような運用は可能です。

けれども、2つの理由でそれは難しかったようです。

職能等級型が年功運用の代名詞になってしまった2つの理由


職能等級が年功運用になってしまった理由、人間心理の問題と、時代背景でした。

人間心理としては、目に見えない能力を評価するために、過去の実績や年功を見てしまったからです。

その人の能力を担保するには、過去に能力を発揮した実績を確認したり、あるいは一定年数を経ることで成長するだろうという推測などが用いられたりしました。

そして時代背景として、長幼の序が重視される社会風土がまだ強かったから。

職種によっては、若い人の方が年寄りも活躍できる場合があります。いや、むしろ、年寄りが活躍できる職種の方が限定されている、と考えた方がよいでしょう(だから年を取るにつれ、人は自分が成果を生み出しやすい職種に異動するか、衰えにあわせて報酬が減ることを許容しなくてはいけなくなります)。

けれども、戸主制から核家族化へ移行しつつあったとはいえ、年長者に対する礼儀が求められる風潮が強く残っていました。男性中心社会でもありました。

これらの理由から、職能等級制度は年功序列運用による等級として活用されました。

そしてそれは当時の環境にマッチしていたのです。

けれども今その環境が変わっています。

ジョブ型人事が生きる4つの環境変化


ジョブ型人事の本質は、リアルタイムな人事処遇にあります。

かつて会計制度が簿価会計から時価会計に切り替わってきたように、人事においても、時価が重要になっています。

人事についての時価算出が人的資本の情報開示ですが、その方法についてはこちらの月刊人事マネジメントに掲載したこちらの記事もご覧ください
「人的資本情報開示~企業価値を高める11の人事戦略要素とKPIを押さえよう~」

では、どのような環境変化によって、リアルタイムな人事処遇が必要になったのでしょう。

ポイントは4つあります。

人口増減、学習サイクル、ライフスタイル、ワークスタイルの変化がそれらです。

本来はワークスタイルについての変化はもう少しゆるやかでした。けれども、ウィルスのパンデミックが一気に状況を変えて、3つの変化が4つになりました。

この中で、特に前半2つ、人口増減と学習サイクルがジョブ型人事のニーズを高めています。

ジョブ型人事の前提となる4つの環境変化

人口減少社会では生産性の引き下げ圧力が強まる


GDPの成長は、実は人口ボーナスでほぼ説明できる、とする分析もあります。

とはいえ、科学技術の発展がそれを補う場合もあるので、少々乱暴な分析だなぁ、とは思うのですが。

ただ、人口が減るとともに少子高齢化が進むことは、確実にGDPの引き上げ要因になります。

社会全体の負担(オーナス)になっていきます。

人口ボーナス期には、目の前の仕事を頑張って、昨日と同じことをずっと繰り返すだけでも、経済が成長していきやすいのです。

しかし人口オーナス期には、昨日と同じことをやっていては経済が衰退していきやすくなります。

そこで、改善や新規の取り組みが求められてきます。

日本社会の失われた30年というのは、「目の前の仕事を頑張る」ことから「改善とか新規の取り組み」に仕事の内容をシフトできなかったことによる結果とも言えます。

だからこそ、生産性向上が必要であり、そのための職務責任の明確化が必要、ということになります。

このことは、経験と学習との関係性が変わっていることにもつながってゆきます。

新しい技術や知見を使いこなす人・組織が勝つように


技術の進歩がゆっくりしている時代には、過去の経験を生かすことが勝つための方法でした。

けれども近年、様々な技術や知見が更新されています。

IT技術や生命科学などの科学技術に加え、行動科学や経営学などの社会科学分野での知見も過去類を見ない勢いで発展しています。

だからこそ、過去の経験より、タイムリーな学び直しが重要になっています。

学びなおさなくても急に生産性が低くなるわけではありません。

けれども人口オーナス社会における引き下げ圧力に加え、学び直している人や組織が成長するので、相対的に負けてしまうことになるわけです。

では日本企業におけるジョブ型人事はどのように導入すべきでしょう。

次回は弊社実績をもとに、3つのパターンをご紹介します。

※当記事はセレクションアンドバリエーションの平康慶浩が不定期に連載しているものです。続きは次回更新をお待ちください。