![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/170006686/rectangle_large_type_2_24b321515f1d49ec7cd601428e92b45e.png?width=1200)
上場企業の役員報酬制度設計で押さえるべきポイント ~中堅・中小規模の企業だからこそ考えたい、あなたの企業の役員報酬制度を再点検~
<第4部>役員評価って必要?
役員評価の意義
皆さんの会社では役員の「個人評価」は実施されているでしょうか?
少し古いですが、デロイト・トーマツグループの上場企業対象の役員報酬に関するサーベイ結果でおよそ70%という数字があります。
これは対象企業の多くが東証一部(現プライム)に属する企業であることを踏まえると、上場企業全体で考えると、役員個々の評価は必ずしも行われているわけではない、と言えそうです。
![](https://assets.st-note.com/img/1736822063-gpcHokYiOnbPfZKzmQwTyR1U.png?width=1200)
実際に役員報酬制度設計を支援している中で、以下のように役員評価の捉え方は各社様々という印象を受けます。役員の個人評価は従業員評価に比べるとあまり仕組み化されず、強いて言うと③のように実質的な社長一任、といったところでしょうか。
【よくある声】
①「役員には毎年決まった報酬を支払うので、評価はしていないよ」
②「役員層は、個人ではなく全社業績のみで一律評価している」
③「役員には高度な経営判断や中長期的な視点も必要なので、社長が個々の役員を独自に評価・判断している(あえて仕組み化していない)」
市場原理にしたがうと、企業価値を向上させるために役員評価を厳格に行うべきなのでしょうが、実際にどのように仕組み化するかは一筋縄ではいきません。
それぞれの会社にはこれまで積み上げてきた企業文化や様々な組織事情があると思われるので、役員評価のあり方も唯一の解があるわけではないのです。
こうした状況を踏まえ、今回は、「自社の役員評価の仕組みを整備する前に確認しておきたいポイント」を皆さんにお伝えしていきます。
(いずれも「自社であれば厳格性と柔軟性のバランスをどのようにとるべきか」という視点でお考えいただけるとより効果的な整理ができると思います)
早速見ていきましょう。
① 全社評価と個人評価のバランス
② 評価は誰がするのか?(評価者)
③ 評価は厳格にすべき?(評価基準)
④ 評価すれば終わり?(コミュニケーションとしての役員評価)
① 全社評価と個人評価のバランス
役員評価を整備する視点として、全社評価と個人評価のバランスをどう取るかは極めて重要なテーマです。(今回の記事でも一番分量を割いています。)
まずは、全社評価・個人評価のそれぞれの特徴を見てみましょう。
全社評価は、企業全体の業績や目標達成度を基に評価する方法です。一般的には、売上高、営業利益、ROE(自己資本利益率)、TSR(株主総利回り)などの財務指標に加え、最近では社員エンゲージメントやCO2削減目標などCSRに関わる非財務指標なども用いられています。
この評価の利点は、役員全員が共通の目標に向かって一体感を持ち、企業価値向上を目指して協力できる点です。
※インセンティブ報酬に係る評価指標については第3回で紹介しています。よければ併せてご覧ください!
一方、個人評価は、役員それぞれの職務内容や成果を評価する仕組みです。例えば、事業部門責任者であれば、その部門の売上成長率やコスト削減率が評価基準となります。この方法は、役員が自身の責任範囲に対して主体的に把握し、取り組む姿勢を促すことが可能となります。
では、これら2つの評価をどのように組み合わせていけばよいのでしょうか?
個人的な見解ですが、個人評価はなるべく取り入れたほうがいいと思います。
特に、役員の責任範囲が明確であり、その成果が測定可能な場合には、役員個人の評価をすることで報酬制度の透明性と公平性を高めることができます。
例えば、事業部門責任者が売上目標を達成した場合、それに見合った報酬を受け取ることで、他の役員にも良い刺激となります。
また、個人評価を通じて役員が自己の強みや改善点を把握することができれば、次年度以降の目標設定や行動計画にも良い影響を与えるでしょう。
ただし、個人評価は絶対的なものではありません。過去の記事でも同じようなことを書いていますが、以下のことに留意しながら、企業の戦略フェイズや役員の役割に応じてバランスよく設定しましょう。
【留意点1】企業の戦略フェイズとの整合性がとれているか?
戦略上、基幹事業の利益倍増など全社業績に対するコミットメントを高めたいフェイズであれば全社評価を、新領域への進出や新たな企業価値創造のフェイズであれば個人評価を導入する、など
(つまり、全社KPIとの連動性が確保されているかという視点)
【留意点2】役員の成熟度や求める役割との整合性がとれているか?
新任役員や部門責任者であれば個人評価のウェイトを高めに、CEOや取締役層など全社視点が必要であれば全社評価のウェイトを高めに設定する、など
② 評価は誰がするのか?(評価者)
一般社員であれば直属上司が主たる評価者となることが多いですが、役員評価の場合はどうでしょうか。
当該役員の直属上司?
⇒最高役職であることが多い役員の上司とはだれでしょうか?
社長?
⇒社長が評価者になる場合、社長一任でいいでしょうか?
そもそも社長の評価は誰がするのでしょうか?
多くの上場企業では、報酬委員会や取締役会が評価を行います。特に、社外取締役や第三者機関を含む報酬委員会が評価に関与することで、客観性と信頼性を確保することが可能です。
![](https://assets.st-note.com/img/1736822536-aNYHnIroQ4de5BFCZASTplOu.png?width=1200)
それでは、役員評価に報酬委員会を活用するとして、実際にはどのような仕組みで進めていけばいいでしょうか?
報酬委員会が主導的に評価を進めるのでしょうか?
社外取締役が過半数を占めるケースが多い同委員会にて、各役員の評価実務までこなすのはなかなか難しいかもしれません。
ここで重要となるのが、社長と報酬委員会の関係です。例えば、以下のように運用できれば、評価の透明性と公平性を高めることができます(あくまで一例なので、実際に運用する場合は自社の事情を踏まえてアレンジする必要があります)。
![](https://assets.st-note.com/img/1736822769-YjxBdo2MeU7N4PmwWEJ68HSb.png?width=1200)
③ 評価は厳格にすべき?(評価基準)
この点についても、企業の方針や評価の捉え方によってまちまちです。
が、まずは、全社・個人に関わらず定量的な指標(中期経営計画や年度事業計画に基づく財務指標や非財務指標)を明確に定め、その達成度を「しっかり評価する」ことをお勧めします。
そもそも役員の多くは委任契約であるため、期待される業務成果をあげることが至上命題となります。
そのため、目標に対する厳格な評価基準をあらかじめ設定することで、役員のみならず全社的な納得感を高めることができます。
また、評価プロセスにおいて報酬委員会等を関与させることで、外部からの客観性も担保できます。
一方で、評価に柔軟性を持たせることも大事です。
特に、不確実性が高い近年の市場環境では、個々の役員にも状況に応じた柔軟な判断が求められます。
このため、期初に設定した目標の達成度だけでなく、役員のリーダーシップや意思決定の質、サクセッションの進捗状況、または特命課題への対応状況など、定性的だが企業価値を高めるパフォーマンスを評価する余地は残しておいた方がいいでしょう。
④ 評価すれば終わり?(コミュニケーションとしての役員評価)
役員の評価は 評価するだけで終わらせてはいけません。評価結果をどのように活用するかが、報酬制度の効果を左右します。
まず、評価結果を適切にフィードバックすることが必要です。評価基準や結果を具体的に説明することで、役員が次年度の行動計画を立てやすくなります。
また、若手役員に対しては、評価結果をキャリア形成や教育研修に結びつけることも重要となります。
さらに、評価結果に基づいて報酬を配分する際には、そのプロセスの透明性を確保しましょう。例えば、「短期目標の達成度に応じた賞与」「長期目標の進捗に基づく株式報酬」といった形で、報酬の決定基準を明確に示すことが役員の納得感を高める鍵となります。
また、企業環境や戦略の変化に応じて、評価基準や運用方法を柔軟に変更・改善するなど、役員評価制度そのものも定期的に点検しましょう。
最後に
今回は、役員の評価の設計ポイントについてお話ししました。
コーポレート・ガバンスコードを踏まえたこれからの役員報酬の考え方において、株式市場に対する透明性を確保するためには、評価は切っても切り離せない重要なファクターになってきます。
また、従業員評価との連続性確保といった社内視点からも、自社の役員評価のあり方をどうすべきか、是非一度整理してみてください。
次回は、実際の制度設計プロジェクトにおける社内調整対応や設計後の開示対応に係るポイントについてお話ししていく予定です。
次回もお楽しみに!
人事制度のことなら、セレクションアンドバリエーションへお気軽にご相談ください。