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余裕のある会社から次第に進んでいる、給与水準引上げ

最終更新日:2024年5月13日

円安・インフレを理由に給与を増やす検討が進んでいる


インフレが進む中、上場企業の3社に1社が、業績見通しを上方修正しているという報道がされました。

一方で下方修正企業はそれよりも少ない2割ほど。
円安が進むことで、儲かる企業と儲からない企業の分断が進みます。
海外からの観光客が増える中、円安は必ずしも日本経済にとって悪いことだけではなさそうです。

そんな中、インフレも確実に進んでいます。
円安で原料高になっても業績が上がる企業というのは、それを価格転嫁できているからです。つまり、企業が利益を維持するために値上げをしていくことが当然になり、その分だけ、日本で暮らす私たちの生活は苦しくなる可能性があります。

そこで、給与水準引上げを進めようとする企業が増えつつあります。
2022年後半の短期間で、弊社にもすでに契約3社、相談はそれ以上の企業から来ています。

給与水準の増やし方

給与水準を増やすのに、人事コンサルタントに相談なんてしなくてもいいのでは、と思われるかもしれません。
けれども、給与水準を増やすということは、その分だけ利益を圧迫するということでもあります。またどこまで増やせばよいのか、多くの人が合意することも必要です。
それらを考えると、何を検討要素としてあげるべきか、というところから相談されることになります。

端的にいえば、給与水準引上げの検討は以下の視点から進めます。

  • 同業でのマーケット水準確認(新卒/役職別)

  • 同職種でのマーケット水準確認(新卒/役職別)

  • 現在の自社賃金カーブ

  • 財務的な対応可能性

  • 一人当たり収益性

  • 現在者対応

  • 今後の給与改定ルール

特に目立つのは、ターゲットを新卒に絞った検討です。
その際には、仮に来年の新卒給与を1万円引き上げるとするなら、どの年次の社員までどれくらい給与を引き上げるのか、ということが問題になります。
このあたり、21万円から30万円にまで一気に新卒給与水準を引き上げた、旭酒造の取り組みが先進的ですね。
こちらの会社では、単純に採用力を強化するということでなく、酒造りそのものの魅力を改めて打ち出そうとしています。
教育研修として用意されている、「きき酒トレーニング」「稲作実習」「製造技術勉強会」などは、酒造りに本気で取り組む人たちにとって魅力にうつるのではないでしょうか。
さらにグローバル展開を視野に、海外にも醸造所を建設されているといいます。
そんな中で、すでに入社している先輩たちについても給与水準を段階的に引き上げていくことについて明示されています。


人事ポリシーが変わりつつある

採用できなくなるから、給与水準をあげる。
転職されてしまうから、給与水準をあげる。

最初のご相談はそんな思いから受けることが多いです。
そんなとき、私たちはまず最初に、より本質的なことを問いかけていきます。
それは、現在の自社の人事の仕組みが、何を目指して設計され運用されているのか、ということをあらためて思い出してもらうことです。

考えてみれば1990年から現在にいたるこの30年間で、企業が特に注力してきた人事課題はなんだったでしょう?
政府が取り組んできた、残業代支払いの徹底、有期雇用の無期雇用化、同一労働同一賃金の徹底、就業年齢上限の引上げ、女性活躍推進の目的は?

一言で言うならそれは、GDP引上げのための正規労働者確保です。

一定年収以上を受け取る正規労働者の人数が、GDPに有意に相関する分析から、まず正社員として雇い続けることを促進してきました。

その代償として、企業側の人事制度において、給与水準引き上げが2%未満に抑えられてきました。それは意図したことではなかったとしても、雇用を守ることが優先された結果の必然だったのです。

それが反映された人事制度には、暗にこういうメッセージが見え隠れします。
「雇ってやっているんだから文句を言うな」
そのメッセージを変えていかなければいけないタイミングに来ているのです。

相互の自立が始まろうとしている

今給与水準引き上げを検討し始めている会社では、このメッセージ部分を再考しています。
「雇ってやっている」
から
「対等な契約関係」
にうつろうとしています。
だからこそ、従業員が今転職したらいくら受け取れるか、というマーケット水準の調査を進めています。
また、新卒から入社した社員がまっとうに成長し、利益に貢献したら、いつマーケット水準の報酬を得られる仕組みとして設計すべきか、という議論が進んでいます。
それらは、単に雇い続けるだけの仕組みではなく、できるだけ多くの社員がビジネスを通じて顧客に届ける価値を理解し、それを処遇に結び付ける仕組みの構築でもあります。

そんな中、従業員側のとまどいの声も聴きます。
会社が「雇ってやっている」と思っていても、それをもって「雇ってもらっている」と考える人たちも少なからずいるからです。
そんな人たちに「対等な契約関係」という人事ポリシーを伝えても、いまさらそんなことを言われても準備ができない、と不安に駆られる人も多いからです。

それらのバランスをとりながら、変わろうとしている人事の仕組み、自社にとっての最適な変革を求める方は、ぜひご相談ください。

セレクションアンドバリエーション株式会社
代表取締役 平康慶浩(ひらやすよしひろ)